第5話

夕暮れの会議室で向かい側に生徒を座らせた。

彼女の視点が定まらない、座っていても大勢の前に立っているようなよそよそしさだ。

「なんか悩んでることでもあるのか?」

「いえ、さしあたってなにもありません。」

「最近の学校生活に不安はないか?」

「いえ。友達もいますし。」

「家庭内での問題はないか?」

「はい、いたってふつうです。」

ため息をつく。

「じゃあ、なぜ成績が落ちているか「わかってます!わかってますって!わかってますから、いっぱい言わないで、ください。」

彼女は慌てた様子で顔を腕で塞ぐ。

「君は注目されていると思ってほしいなあ。授業態度も悪くなく、提出物課題、共に忘れたことはない。だけど、テストや模試になると途端に落ちる。なぜだ。」

腕で塞いでいた顔に手を当て、なにも言わなくなってしまった。

「その様子だと言いづらいことがありそうだ。あまり君を責めたくないが、テストの点数や順位を見ているとストレスになってしまわないかと、ただ不安なんだ。」

この2年生の大切な時期に、数字となって出てしまうと、ショックを受ける生徒が多い。神経質でなくてもだ。家庭での争いや歪みを産んだりと、あまりいいことがない。すでにもう手遅れかもしれない。そんなことを張り巡らせていると、

彼女は重く閉ざした口を少しずつ動かした。

「...私がテストや課題で成績を残せないのは、当然なんです。」

少しくぐもった声になった。


「だって読めないから。文章が。」

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