第4話 鬼

「では、始めましょう。」

アリラが平べったく言ってくる。

津々神 アリラという少女は容姿端麗な顔立ちの少女だ。宝石のような金色こんじき双眸そうぼう。色素の薄いアッシュブラウンの長い髪を一つに纏めた、いわゆるポニーテールをしている。

少女の可憐で華奢きゃしゃな体は現実のものとは思えないほどに神々しい。

「何を?」

どっと疲れた。朝から訳の分からない現実を見せられたからだ。

武流は地面に座りこんだままアリラを見上げる

「魔法使いになってもらいます」

「…魔法の存在は認めるよ。でも、何で俺が魔法使いにならないといけない?」

正直、魔法の存在もまだ少し疑っているところもあるのだが。

アリラが少し考え込むように頭を抱えた。

「…世界を救うため?」

「なんだそれ!」

武流が大声で素早くツッコム。

「まぁ世界は言い過ぎたかも知れませんが…少なくとも日本を守るためです」

「いや。何からだよ」

おにです。」

「………は?」

武流は目をパチパチさせる。

「鬼?桃太郎とかの?」

「んー。まぁちょっと違いますがそんな感じです。悪い奴らです。」

「何だよ。まさか、魔法だけじゃなく鬼までいるとか言うんじゃ?」

「います」

武流は汗を滲ませた。

何なんだよこの子。話が朝のアニメだよ!子供向けだよ!

鬼という敵がいるからそれを退治するために魔法使いになれって事だろ?

「君、魔法使いなんだろ?勝手に退治しといてよ」

武流はゆっくりと立ち上がり適当に制服の汚れを払う。

「無理です」

「知らねぇよ。そんなでっけぇ剣あるなら倒せるだろ」

冷たく言った。正直、心苦しい。女の子をこんな風にあしらうのは嫌だ。だが、武流には対処できないのだ。

「あなたは10年前のこと

「なんのことだよ」

「《東京大空穴とうきょうだいくうかん》」

アリラが呟く

「有名だからな。覚えてるよ。テレビでヘリコプターからの映像見てたし」

「え!?それは本当ですか?」

武流の言葉を聞いた瞬間、アリラが声を裏返した。

「な…何だよ。本当だけど」

「それがですか?」

「何を言ってるんだ?俺のに決まってんだろ」

「本当にテレビで見てたんですか!?」

「何度も言わせるなよ!そう言ってんだろ!」

武流が少し声を大きくして言う

アリラは汗を滲ませ、黙りこんだ。

「す、すまない」

少し言い過ぎたと思い頭を下げる

「いいえ。私もしつこかったです。すみません」

アリラも頭を下げる

沈黙が生まれる。そのせいあって辺りに物音がしているのに気がつく。仕事に出掛ける者や、庭をほうきで掃いている音など

「とりあえず…その剣しまわないか?」

「はい。……バック

首肯し、大剣に軽く触れて唱えると光を放ち空気に消えていった。

アリラが流れるような動作でそれをこなしたのだが、これは信じられない事だ。魔法の力に対する疑いが薄れていく

呆然とその光景を見ていた。

それに、気がついたのかアリラが声を発する

「10年前のは災害ではありません」

「あの災害って《東京大空穴》だよな?災害じゃないってどう言うことだよ」

アリラの矛盾した発言に少し戸惑う

「災害ではなく、鬼です。」

「鬼!?」

《東京大空穴》は世界でも有名な大災害である。今までに災害ではないと報道されたことなど一度もない。

「はい。鬼です。人間が作り出した最低最悪の兵器です」




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