第3話 こうして俺の日常は崩れ去る

朝早い時間のせいもあり、辺りには人の姿が見えない。この空間には、武流とアリラの呼吸音と鳥の囀りだけが響いていた。

「……魔法使い?」

長い沈黙から漸く武流が口を開く

「はい」

「何?中二病的な?」

「いいえ」

「いやいや。魔法使いとかなれないよ?」

「いいえ」

「いいえって…本気で言ってるのか?」

「はい」

武流が汗を滲ませ戸惑げに言うのだが、アリラは気にする様子もなくただただこくりと頷く。

「あのさ…俺、そう言うのあんまりわかんないんだよね…。他の子を誘ってもらえる?」

「無理です。貴方にしかなれません」

「いや、そんなこと言われても…。魔法使いとかハリー・○ッターでしょ?」

「いいえ。杖は使いません」

「いや。そう言う意味じゃなく。フィクションでしょって意味で…」

「フィクションではありません」

「フィクションだよ!」

「いいえ」

「ぁあ!あれか!マジックのこと?」

武流は手のひらに拳をのせ、閃いたように言う

「いいえ」即答かよ!

あぁ。無理だ。この子完全にあれだ。中二病だ。話が全く通じない。

こうなったら。

武流はゆっくりと後方にさがりドアのカギを閉めた。

そして、勢いよく地面を蹴った。アリラの横を通りすぎるようにして走り、通学路を猛スピードで駆けていく。

冗談じゃない。朝から中二病の子と話をする時間なんて無いんだよ!

武流は全力で走り続ける。運動能力は普通だとしても高校男子の走りだ。容易に追いつける速さではない…ない!?

気になり、背後を振り向いた瞬間、目を疑った

「ヒイィィィ」

「何で逃げるんですか」

腕が当たってしまうかと思うくらいの距離だった。

アリラが真後ろを走っていたのだ。

武流は驚いて突起物も何もない道で転んでしまった

「いってぇ」

咄嗟に両手で身体を支えたので大した怪我はなかったが、お陰で手のひらがズキズキと痛む。

倒れた武流の隣にアリラがしゃがみこむ。

「大丈夫ですか?」

息切れをしている武流とは対してアリラは息切れひとつなく、涼しい顔をしていた。

バケモノか!!

「大丈夫だけど…はぁッはぁ…何で追いかけて来るんだよ!!」

「貴方にしかなれないからです」

「何に?魔法使い!?」

「はい」

「あのさ!魔法使いとか空想上のモノなの!わかる?現実には存在しないの!?」

少し強めの口調で呆れたように言う

「いいえ。存在します。現に私がそうなので」

「んじゃあさ!証拠見せてよ!おままごとに付き合ってる暇はないの!」

「ぁあ。分かりました。では、」

アリラが手を武流の目の前にかざす。同時、

稲妻が走る。比喩ではない。確かに武流は目の前で稲妻を見た。

「!!!」

何が起こったのか理解できなかった。

否、理解はいしていた。しかし、自らがそれを認めることを拒否していたのだ。

小さかったが確かに黄色い稲妻がアリラの手のひらから閃光した。手品、そんなモノではなかった。別に武流に手品を見破る能力があるわけではない。だが、それでも分かるのだ。さっきのは、手品などではない。科学を無視したもっと高度なもの。

「嘘だろ……」

目の前で見てしまった。信じられない。しかし信じなくてはいけない。現実だ。

これが魔法なのかはまだわからない。

だけどそんなことはどうでもいい。

「どうです?」

自慢気に問いかけてきた

どうです?感想のことか?そんなの、衝撃。の一言しかない。言葉が出ない

脳が処理するのに追いつけていない。

「それが…魔法」

「はい」

アリラが首肯する。

「いや。待ってくれ!何処かに…何か…」

何もないことは分かっている。けれどそんなに簡単には受け入れられない。

「も~大条際の悪い人ですね」

「………」

武流は否定も肯定もしない。

「では、とっておきをお見せしましょう」

アリラは言うと立ち上がり軽く延びをした。

ゆっくりと前方に腕を伸ばし

雷皇タラニス

唱える。するとアリラの手の平から眩い光が放出される。太陽の光に負けず劣らず辺りを照らす。武流はあまりの眩しさに目を細めた。

光は徐々に原形を作り出す。細く、長く、立体へと変わり、光が弱まりやがて消える。

そして姿を現す。

アリラの手には巨大な刃の大剣が握りしめられていた。彼女の小柄な体とは対象的で持てているのも不思議なくらいの大きさである。

「な…………。」

武流は細めていた目を思いっきり見開いていた。辺りの光の差に慣れてしっかりとその姿を見ることができた。

これは何の冗談だ。

何処から出した。何が起こっている?訳が分からない。

この少女がこの大剣を顕現させたのか?

「魔法使い。信じますか?」

大剣を地面に突き立て言ってきた

武流はしばらく黙りこんだ。

分からない。いや。分かっている。もうそれしかない。答えは出ている。

「………信じる」

「よろしい」

こうして俺の日常が崩れ去る。

この時。魔法の存在を信じていなければどうなっていたのだろう。


One turning point

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