第13話:修錬丹師③

「うーん、と・・・・・・数は15ってとこか」


 少女は、上空から包囲の状況と数を確認すると、懐から皮製の巻物のようなものを取り出した。

 中央を結んでいた紐を解き、展開する。


 そこに収められていたのは、針。

 割り箸ほどの長さの、細く、鋭い針だ。


「地雷針、行け!」


 少女がその針を数十本取り出し、地上にいる屍を狙って、放射状に投擲する。

 着地する少女。

 屍は、ゆっくりと、確実に包囲を狭めてくる。


「おい、本当にいいのか? 私がやらなくても」


 霧子が言う。別に怖気づいているのではない。

 ただ、自分の闘争本能が削られるのが惜しくて、問いかけたのだ。


「大丈夫、勝負は一瞬ですよ?」


 少女は、余裕の笑みを浮かべて、言った。


「屍を倒すには、これが一番!」


 少女が、右手の人差し指と中指を揃えて、そっと唇に添える。

 そして、そのまま、指先で地面に触れた。


「エレクトリッガー!」


 少女が叫ぶと、瞬間、地面が湧く。


「な!」


 霧子は息を呑んだ。

 おびただしい数の雷光が、地面から天に向け、垂直に立ち上る。

 それは、針を打たれた屍、その身体を正確に打ち抜き、身体を霧散させていく。

 ほんの一瞬、瞬きほどの間に、二人を囲う敵、そのすべてが塵となって消え失せた。


「みたか! 必殺、電ショック!」


 少女が、得意げに鼻を鳴らす。


「どうですか、お姉さん! 一瞬、一瞬だったでしょう?」


 霧子は、感嘆のため息を漏らす。


「ああ、たいしたもんだ。しかし、そのネーミングセンスは、どうかと思うぞ?」

「えー、電撃と言えば、レッドバロンか、ストロンガーじゃないですか?」

「どっちか一つにしろ」

「うーん、どっちも捨てがたい・・・・・・」


 腕を組む少女、どうやら本気で悩んでいるらしい。


「しかしまいったな、こんなゾンビが街中にいるのか」


 少女の逡巡を無視して、霧子は呟いた。


「はい、奴ら日常生活を普通にこなす分、ゾンビより性質が悪いんですよ。でも、ここまで数が集中するのは珍しいですね、向こうから襲ってくることも。よほどお姉さんの存在を危険視しているのか……」


 少女が答えて、思案に耽る。


「おい待て、それなら、奴等の素性を調べれば、大妖に繋がる手がかりが掴めたんじゃないか?」


 霧子が、素朴な疑問を呈する。


「あ! でも、もう遅いですわ。全部塵にしちゃいましたよ……一瞬でやらないと、情報が漏れちゃいましたから、これは仕方ないです」


 少女は、やれやれと、手を上げた。


「切ないな……」


 霧子が呟いて、天を仰ぐ。


「でも、一度にこれだけの数の屍が消失したんです。その情報だけは大妖にも伝わっていますから、何か新しい動きを見せるかもしれません。主にお姉さんを狙って、ですが」


「それは有難い事だな。私としては24365でウェルカムだ。いつでもぶっ放せる」

「24365?」


 少女が問いかける。


「24時間、365日対応可能ってことだ」


「なるほど、じゃあアタシも24365で」


 やる気を出す少女を、生暖かく見守る霧子。


「まずはなにより先に住民の避難だな。さっきの様な奴が、避難民に紛れる可能性は?」

「地区のセンサーですから、紛れる可能性は低いと思います」

「わかった、事を急ごう、帰るぞK。ここから先は、菊の独壇場だ」

「菊さんて、あの?」

「そう。昨夜、霜降り牛肉を喰いたがっていた、トローンとした女がいただろう? あいつだ。あいつは修錬丹師の中でも特殊な存在でな? 戦わない代わりに、呪術的医療の達人で、聖魔の憑依を一発で見抜くんだよ。あいつが検問に立てば、聖魔の逃走は100%防げる……ただし、やる気になれば、だがな」


 そこまで言って、霧子はやれやれといった表情を見せる。


「気難しい方なんですか?」


 少女が尋ねる。


「気難しいと言うよりは、気まぐれな奴だ。そのやる気を出させるために、毎度苦労させられている」


 過去の事例を思い出し、途方に暮れたような表情になる霧子。

 そんな霧子に、少女は意を決したような表情で、言った。


「その役目、アタシに任せてもらえませんか?」

「何か勝算があるのか?」

「はい、一瞬で、菊さんを篭絡してして見せますよ」


 自信あり気な表情を見せる少女。

 霧子は、得体の知れない不安感を覚える。


「なんか、嫌な予感がするが……」

「大丈夫です、任せてください!」

 少女は、胸をドンと叩いて、鼻息を荒くした。

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