第8話:妖檄舎の人々④

 翌朝、と言っても昼近くだが、妖檄舎の全員が、居間に集まっていた。

 12畳敷きの和室のテーブルに、全員が車座になって座る。

 医療担当、正宗菊の手で、各自にお茶と茶菓子が配られる。

 お茶は静岡の煎茶、茶菓子はどら焼きに良く似た甘味。

 昨夜、霧子に厳命され、海堂二郎が買ってきた、黒松と言う和菓子だ。


「じゃあ、まず、昨夜の報告から聞こうかしら」


 社長の大賀吹絵の一声から、会議が始まった。


「それより先に、こいつの話じゃないか?」


 茶菓子を目の前にして、そわそわしているKの頭を、ポンと叩いて、霧子は言った。


「物事には順序があります。霧子、報告して」


 吹絵がしれっと却下する。


「ち、分かったよ」

 霧子は、昨日の出来事を報告し始めた。


「……変妖したのは川上和美、6歳、昨夜0時頃、両親を殺して逃走した」

「保護施設の子ではないのね?」

「ああ、まったくのノーマークだ。警官隊に追われ、私の目の前に来たのが午前1時、変妖した訳だが、成体とは程遠い幼体だった」

「ご両親以外に被害者は?」

「幸いにもそれはなし。追い込んだ警官隊に負傷者が出た程度だ」

 

 霧子が答える。


「封印都市政令が発動してから1週間で、5体の幼体が発現、か」


 吹絵は、これまでの経験と照らし合わせ、事態の異常さを推し量る。


「普通に考えたら、まだ育ちきっていない、もっと潜伏するはずの奴等なんだが」


 吹絵の疑問には、霧子も同意見だった。


「なにか、組織的な意図を感じるわね~」


 お茶をすっと啜り、菊が言った。


「ああ、何かから眼を逸らそうとしている感がある。何かこう、でかいモノから、な」


 霧子が答える。


「霧子の見立てが正しいなら……それが何か、だな」


 小鉄がそう言って、また思案に耽る。


「やっぱり大妖、かな?」


 二郎が気楽な口調で、言った。


「私は間違いないと思うんだけどね」


 霧子が答える。

「それを確かめるのは……おい、K!」


 霧子の声を合図に、妖檄舎一同の視線が、Kに集中した。


「え、はい?」

 

茶菓子を頬張るKが、間抜けな返答をする。 


「お前、仙境からの親書は?」

「あ、はい、これです」


 霧子が言うと、Kは一巻の書簡を手渡した。


「どれどれ……何、だと?」


 その内容を一読して、霧子の表情がこわばる。


「おい吹絵、これ……」


 書簡を吹絵に渡す。


「え、うそ……」


 それを読んだ吹絵も、怪訝な顔になる。


「何々? 私にも見せて~、おーお……」


 書簡をひったくった菊が、感嘆のため息を漏らす。


「へえ、面白いじゃないか」


 海堂二郎は、ますます軽い乗りで、笑い始めた。


「どれ……うむ、まあ仙境だからな、こういう事もある、か」


 小鉄が平静を装おうと、必死になる。


 妖檄舎一同、改めて少女Kをまじまじと見詰めた。


『お前が、仙境から来た、修錬丹師?』


「はい! 私が戦うんです、そのために来た、私が仙境の修煉丹師です!」

 少女は、照れくさそうに頭を掻いて笑った。

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