第10話 「綺麗な剣」
ゴルトベルクの街の門をくぐり、緩やかな下り坂になっているその中間付近で、ふいにマークの足音が途絶えたことに気付いて、ルルドは振り返った。マークは街の方を向いていた。街への別れを惜しんでいるのか、あるいは涙を流しているのか、ルルドは声を掛けるタイミングを逸して、マークがこちらを向くのを待っているしかなかった。
街の門の付近に親方アルソンと長老ドミトリが立ち、こちらを見ていた。前掛けのような作業着を着ている。じっと笑いもせず泣きもせず、手を振るでもなく、ただただ口を引き結んでいる。
マークがふいにこちらを向むき、ルルドは風にそよぐ道端の花を眺める振りをした。マークはしばらく口を開けて何か言いたそうにしていたが、かすれた声で一言「行こう。」と言って、坂を再び下り続けた。
ルルドは、口角を上げて、何かを確信したかのように、マークに付いていった。『別れの儀式は終わったな。』そうルルドは感じていた。
坂を下り終えて、2人は街道沿いをしばらく歩く。このあたりは、ゴルトベルクの街近くなので、盗賊などは出ないとルルドは経験上知っていた。何度も奇石収集に来ておりその度に世話になっている街である。周辺の治安情報などは頭の中に入っている。
朝の空気の冷たさが風に乗ってやってくるので少々応えるが、マークの心に冷たさが響かないようにとルルドは思うのだった。
旅などで自分が生まれ育った街を離れるのは、ルルドも経験がある。奇石収集の旅がそれにあたる。しかし今回のマークの旅は、おそらく2度とこの街に帰ってこない旅なのではないかと思えた。人間の街で
ルルドは天使だが、馴染みの宿屋とは言え、そこに入る時ですら、翼を隠すのはもちろんだが、コートで
マークは自分の父親が
その時点で、(親子そろって)かなりの変わり者と言える。迫害の対象になってもおかしくない。
侮辱、侮蔑の対象である天使がよく使う
ルルドは、マークに詳しい事情を聞かなかった。ただ天使の領域にある神前街にマークを連れていく。どうせこの旅は早めに切り上げるつもりでいたのだ。1人くらい連れができようと天使狩りに対するいい
『あまり深くかかわる必要もないか。宿屋のおやじの頼み事なら
前々日の夜、天使狩りに追われ、命からがら街に帰ってきたのだが、再び同じ方向に行くことをルルドは、躊躇した。
だが、マークに会った後、数日を街で過ごすのも避けたかった。
目立ちたくはなかった。少なくとも天使狩りが行われている領域では。
ルルドはマークを神前街に連れていくことに同意したが、1つだけ条件を出した。
「人間が
マークは天使本人から
半日の間、街道を歩く。ゴルトベルクの街から半日の距離の街道には大抵盗賊の類は出ない。いままでの経験則からそう判断して、ルルドは歩き続ける。ルルドの後ろにはマークが着いて来ている。
時折後ろを振り返ってマークの姿を確認する。顔色などを見て疲れの色が出ていないかを確認するためである。
街からあまり出たことがないのかと聞くと、街の小さな学校で就学中に遠出したことがあるとのことだった。歩きなれしていないのか心配になったが、鍛冶屋で作業が終わった剣類を納品することもあるので体力には自信がある、心配ないとのことだった。
ちょうど昼時になったので、昼食のために休憩した。
街道沿いの森に入り、木こりが木を切り倒している切り株に腰を下ろして、ゴルトベルクの街の宿屋の
昼食が終わり、暖かい日の光をしばらく浴びながら今後のルートの話をした。
「街道沿いを行くのはこのあたりで終わりだ。これからは街道の北側に広がる森の中に入って
飛天域に向かうルートとしては、4つあると言ってもいい。
まず1つ目には、街道を行くルートである。
2つ目は、
3つ目は、マークに説明した
そして最後の4つ目が、山を突っ切って海沿いを行くルートもある。
それぞれの道にはデメリットがあった。
1つ目のルートは、街道は盗賊に狙われやすいという点である。
2つ目のルートは、前々日に天使狩りに出会った、街道の北に位置する
確かに
街道ほど整備されていはいないが、木こり、猟師などが頻繁に使用するために、分け入っていけないわけではない。街道からちょっと入ればいいだけであり、街の人たちも遠出で薪やキノコ、七草、エンバの葉などを採取しにくることがある。
しかしながら、入りやすいだけに盗賊などもその人達を狙って入り込んでくるのだ。
3つ目のルートは、
よしんばそんな獣道で、天使狩りに遭遇したとしても、旅をする
そう、奇石収集にやってくる天使はたいていの場合、堕天使であり、その堕天使と行動を共にする人間は極めて少ない。運の悪さはそこまで有名であった。
4つ目のルートは街道の南側を行くルートである。海へ至るルートと言ってもいいのだが、これにも難点があった。海へ出るまでに山の民と言われる少数民族が勢力を伸ばしている地域を通らなくてはならないのだ。
かつてエルトシュバイツァ―という国がその海へ至るルートを含んだ土地を治めていたのだが、王制から民統べる国になったために、この飛天域近くの領土を放棄して海を越えた島国を主な領土とすることにした。放棄した理由は様々言われているが、天使、王、貴族などの支配を受けたくないという意図があったのであろうと推測されている。いまでは商業的なつながりはあるが、国同士の交流はなく、外交使節が行き来するのもまれである。
そんな空白域に台頭してきたのが、山の民などの少数民族である。そもそもその地に長く定住していたので、土地の領主が居なくなったのだから、我々が得て何が悪いという考え方で勢力を伸ばしてきた。
何度かその地域を狙う人間側の国々を撃退して今に至っている。通行するには、山の民との交渉が必要になり、そのために
交渉が上手くいかなかったら、時間を取られることによりわざわざここにいるぞと盗賊たちに居場所を教えているようなものである。
さらに、ルルドは食事が口に合わないという点で、あまりその地域に入り込みたくはないと思っている。『文明的とはいいがたい民族』とまでは言わないが、やはり滞在するのは、避けたくなる。少し前にアドストナーズ・ギルドの師匠オーラスと見習いとでかの地を訪れたことがあり、そう何度も行きたくなるような地ではない、そちらの地を選ぶくらいなら、獣道を這いずってでも
それぞれのルートにデメリットがあるが、まだましなルートを選ぶことにして今回は3つ目のルートである
しばらく街道をそのまま進み
そのようにコート前部を晒して剣も所持していない状態で、武装していないことを
ルルドと護衛担当が話し込んでいる。商人隊も小休止しており、ルルドがこちらを向いて手招きした。話の内容が徐々にはっきりと聞こえてきたが、どうやらこの街道の治安状況にか関しての情報交換をしているようだった。「街道をこのまま進むと、何か得体のしれない奴らが森の中から監視している箇所があって薄気味悪い。我々は武装しているので、手出ししてこなかったようだが、2人組で行くのはあまりお勧めしない。」と護衛担当がルルドに話すのが聞こえた。「人数は何人くらいか見当はつくか?」とルルドは護衛担当に聞いた。「わからん。だが、軍団規模ではない。10人くらいとみていい。眼のいい奴にこちらも警戒させたんで10も20も差はないはずだ。」と護衛担当は請け合った。ルルドからの『街へ続く街道に危険はなかった』旨の情報を得て、商人隊は先を急いだ。積み荷の納期には余裕があるが、やはり街の宿で休むという安心は、貴重だからだ。
ルルドは、「『ゴルトベルクの街から半日の距離の街道には大抵盗賊の類は出ない。』というのは、まあ街の近くだから当然かもしれんが、そういう常識を誰かが決めたわけじゃない。盗賊が常識通りに動くわけじゃない。我々がここに来るまでは安全だったという情報が価値あるものか判断するのは、相手がすることだ。」とマークから
「このまま進むと街道沿いの森の中に得体のしれない奴らが潜んでいるそうだ。できればそいつらに遭遇しないように、このあたりから
獣道と聞いていたが、確かにりっぱに獣道だった。立って走れるところもあれば、しゃがみ続け、這い続けの箇所もあり、ルルドの華奢に見える体のどこにそんなに素早く動ける俊敏性が隠されているのかと
その叫びを聞いてルルドは
マークがしゃがみ込んでニレの木で作られた水筒から水を飲んでいる最中もルルドは立ちっぱなしで、周りを警戒しているようだった。
マークはその
ルルドは『ちょっと先を急ぎすぎたか』と考えないでもない。このまま進むとおそらく森の中央付近で今夜は野営となると計算していた。悪くない状況ではあるのだが、このままのペースで行くとおそらく
あと2時間もすれば日が傾く。どこで野営するかが今夜の安全を決める。マークの体力の回復を待ちながら、周辺を警戒しつつ、そんな心配をしていた。周辺探索をしようにもマークを1人にすることが不安である。1人になってパニックを起こさないとも限らない。大声を出して呼ばれると、別の何かが反応するのではないかと気が気でない。
先ほどのルルドを呼び止める叫び声もルルドを焦らせていた。確かに獣道は枝分かれしている場合もある。その点は注意して枝分かれになっている箇所がある場合は、立ち止まって
そんな懸念をマークに言っても仕方ないので、こう言った。「お前を置いて行ったりはしない。すこしペースを落とそう。今夜は寝やすいところに到達したかったが、ほかのところでも寝れないわけじゃない。ちょっとごつごつするが。」と片方の口角を上げてさらに追い打ちをかけるように「その分じゃ明日は身体中が痛くなるだろう。ごつごつしたところで寝ることでさらに身体がおかしくなる。」マークは「今でも身体中が痛いよ。」と笑顔で答えた。
『笑っていられるだけまだ大丈夫だ。』と
小休止の後、再び森の中央へ至る獣道の《ファーミドル》ルートを進む。今度はペースを若干落としマークがルルドの背中を追えるようにした。もちろん枝分かれしたところでは、ルルドは立ち止まりマークが追いつくのを待っていた。
夕日が傾き、森に赤い色の光線を差し込んできた時分に、ルルドは夕食の支度をするために、獣道から外れた
火を起こさなくても簡単な食事(簡易軽食)なら食べられるが、マークの様子を見て何か温かい物を与えた方がいいとルルドが判断したのだった。本当ならば、簡易軽食つまり乾燥しているハムだのピクルスだのルルドいわく『心まで乾燥する』食事を食べなくてはいけないのだが、温かい食事は気力も回復するという師匠であるオーラスの教えを実践することにした。
ここなら、寝にくいが火を焚いても周りからは見えにくい。岩が多くて、巨石が2重に並んでおり、小さな岩が真ん中にあるという何かの儀式のための巨石群かと思えるほどの岩の多さである。冷たい風も防いでくれる。
さらに蛇の一種である
但し、もう一つだけ難点がある。
ニレの木でできた水筒を薪の上に置き、中の水を温める。水が入っているので、燃えることがない。十分に温まったのを見計らって、皿に盛りつけた乾燥ハムや乾燥ピクルスとこなごなにした乾燥パンにお湯を注ぎ、簡単な
マークは一瞬だけ不安な面持ちを見せたが、火を消さなくていい旨を伝えると安心したのか、「気を付けて。」と言ってルルドを送り出してくれた。マークは父親の形見である
ルルドは、この岩のせいでこちらから見えないように監視しているという想定のもと、来た獣道に一旦入り込んで、巨石群を迂回して監視者を見つけようと行動した。
獣道を一旦戻り、『このへんか』と当たりを付けて獣道から出て、森の中を突っ切っていく。できる限り足音を出さずに、足元に落ちている枯れ木を折らずに徐々に移動する。ちょうど巨石群がほのかな明かり、ほんのりと『ああ何かあるな』と思えるほどの明かりだが、その
姿勢を低くして、あたりの様子に聞き耳を立てる。じーじーと何の虫の鳴き声なのかわからないが、その音をかき消すような別の音が鳴らないか、注意深く耳を澄ませた。
中腰になり、右手は左腰の
黒狼の群れはぎゃんぎゃんいう咆哮を上げながらマークを威嚇している。
「マーク!」と叫びながらルルドは
黒狼の群れの中でもひときわ大きな個体が、ぐるると鳴いて踵を返して獣道に戻っていく。それに従いほかの個体もあとに着いて獣道へ入っていった。血が流れていないのがよかったのだ。ルルドは
もし黒狼に出血していた場合、群れは全滅するまで戦うといわれている。それほど同族思い、仲間思いなのである。『黒狼の絆』など、仲間内の結束の強さを表すことわざにも使われるほどである。
ルルドは、自身の
マークの息はまだ上がっている。ルルドはニレの木の水筒を渡してマークに飲むように渡した。
マークはごぶごぶという音を立てて水を飲んだ。口の端から水が零れ落ちる。飲み終えて、はーと大きな息を吐いた。口の端から零れ落ちた後はそのままに、ルルドの目を見ながら「ありがとう。助かった。一時はどうなることかと思った。用を足しに出かけて戻ってきたら、横合いの獣道から黒狼が出てきて。
マークには寝ずの番をする旨を伝えて身体を休めるように伝えた。火は絶やさないので、すこし明るいが、「明るい方がいい。」とマークがひとりごちてだんだんと眠りについていった。
自分の父の形見である
夜が明けて、さらに昼過ぎになるまで、マークは眠っていた。いや起こさなかったのだ。昨日の今日である。おそらく全身が痛いに決まっている。それに加えて黒狼に囲まれた恐怖もあるだろう。
肉体的にも精神的にも限界に近いと判断して、そのまま寝かせておいた。案外このまま夜まで寝てしまうのではないかとも思えたが、かまわないとも思えた。
そう思っていたルルドであったが、不意にマークの目が開いた。マークは今自分がどこにいるのかさえ分からないような顔をしていた。ルルドのことも『誰だろう?』くらい思っているのかもしれない。鍛冶屋の親方の家でなくてこの巨石に囲まれたごつごつした岩場で目を覚ましたのが不思議であるような顔であった。
「おはよう」と一言微笑んでルルドは何か食べるかと聞いた。マークは目の焦点が合わないような顔で、周りを見回して、周りの明るさ、昼の暖かさに、口をぽかんと開けていた。
「起こさなかったのかい?」とマークはルルドに尋ねたが、ルルドは何も言わず2回うなずくだけだった。
「ずっと起きて?」とマークはルルドに尋ねたが、ルルドは何も言わずただただ2回うなずくだけだった。
マークはため息を吐き、そして身体中が痛いことに気が付いた。大口を開けて顎が外れるんじゃないかと思えるほど、あがあがと苦痛の声を上げる。もうしばらく横になっているようにルルドに言われて、食べられれば食べるように昨日と同じ温かい食事を手渡された。
ルルドから昨夜背嚢コートを脱ぎ棄ててきたので取りに行く旨を聞かされて、マークの眼には不安の色が浮かんだが、昼間、
本当のところ、もう少し時間があれば、もう少し巧妙なトラップも作ることができるのだがとルルドは嘆息していた。
例えば、あらかじめ切っておいた木を
師匠のオーラスが木こりに教わり、それをルルドが伝授してもらっている。
しかし、そんな時間は無かった。マークを独りにしておく時間は短いほうがいいからだ。
「一応、引っかかると転ぶ程度の罠だけど、まあ声くらいは上げてくれるだろう。」とマークに伝えて少し安心させた。
そう言って、ルルドは自分もしばらく休息に入った。何かあれば必ず起こすようにマークは言われて、マークは二つ返事で番を引き受けた。
背嚢コートを体の上にかぶせているが、ルルドの翼の白い羽根は隙間から見えていた。規則正しい寝息を立てて昨夜から寝ずの番をしていたせいもあるが、ぐっすり眠っているようだった。
マークは昨夜の情景を思い出していた。白い羽根を舞い散らせて戦う天使。子供の頃に、戦乱で焼け出された時に、マークを助けてくれた天使も、白い羽根だった。美しい銀色の
騎士たちに襲われた時に着いた頭の傷からの出血で幼いマークの目は、どんよりと血に曇っていたが、そんなマークの目にも羽根は白く美しいものだった。
目の前の白い羽根を持つ天使、その天使が所持する銀色に輝く
目の前にいるルルドがその天使かどうかはわからない。聞いてみてもはぐらかすのではないかとも思えるし、違うと言われるのも怖かった。そんな天使はいなかったと言われたような気がすることだろう。とりあえず今はゆっくり眠っていてほしかった。昨夜から一睡もせずに守っていてくれたのだから。
夜になりルルドが目覚めた。夜の闇に眼を慣らすために、周りを眺める彼に粥を勧めた。
ルルドが寝ている間に、マークは薪にするための木の枝を拾い集めて火を焚き続けていた。
ルルドは温かい粥をすすりながら、マークの様子を眺めて何も問題なかったことを確認した。
人心地着いたルルドは、とりあえず今夜は行動しないことに決めた。
マークにとっても身体中の痛みを和らげる時間は必要である。ルルドはマークに苦いエンバの汁を飲んでおくように言い、マークはしぶしぶそれに従った。エンバの汁は、傷薬にもなるが、服用すると解毒薬、痛みの緩和にも役に立つのだ。身体中の痛みを和らげるにはちょうどいい。
火の番を代わり、ルルドは枝をたき火にくべた。ぱちと木が時折はぜる。そんな音もしんとした森の中に響くようだった。マークも火をじっと見ている。時折、すこし向こうのほうで、
マークが独り言のように呟いた。「火を見ていると鍛冶屋の炉の炭火を思い出す。赤々と身体中を照らしてくれる。」
ルルドは
子供の頃、一度だけ親方に
最近になって、
でも、いつか僕も綺麗な
ルルドは、そんなマークを眺めやりながら、火に枝をくべ続けた。「綺麗な
マークはそんなルルドの剣を眺めて「子供の頃に助けてくれた天使の
焼ける家。
殺される父母。
死んでいく友達。
父が丹精込めて作成したさまざまな剣が奪われる様。
白い羽根を舞い散らせて戦う天使。
美しい銀色の
天使はどこからか舞い降りたようにマークの前に忽然と現れて守ってくれた姿。
騎士たちに襲われた時に着いた頭の傷からの出血で幼いマークの目は、どんよりと血に曇っていたが、そんなマークの目にも白く映った羽根。そして飛び去るように消え去った。
ルルドはそんなマークの言葉を聞きながら、自分の
ふいにこう言った。「俺は、これを自分を守るために持っている。自分を守って大事な人達のもとに帰ることができるようにこれを持っている。でもこれは人を傷つけることもできる。綺麗な
俺は盗賊になるつもりはないし、これで人を
でも、もし俺を殺して大事な人達のもとへ帰れなくしようとする者がいたら、俺は
そうなるとこれは本当に綺麗なのかどうか分からなくなる。
銀色に輝く
最近思うんだ。子供の頃は師匠の綺麗な剣を欲しがった。でも今は生きて帰るための剣であればいいって思える時もある。
どんなに錆びついていようと、どんなに泥にまみれていようと、無事に帰ることができるならって。」ルルドは一拍置いて続けた。
「マーク、
鍛冶屋から武器屋へ渡されて、武器屋が誰に売るのか、マークたちには分からないことだろうけど、武器を作るってことは、そういうことなんだと思っていてほしい。綺麗であろうとなんだろうと、使う者によって武器の意味は変わってくる。
人を守るもの。
人を殺めるもの。
マークが作る剣が、お前を守ってくれたように、他人を守れる人の手に渡ればいいな。」
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