第30話
4人で交代しながら火の番をして夜を明かした。
「ふわー 親父のいびきのせいでよく眠れなかったよ」
ミッチェルさんの息子のジョンさんが欠伸をしながらおはようと挨拶してくる。
「おはようございます グレゴリーさん」
「ハハハ ジョンでいいよ それにしてもニコール君は凄いね 昨日の事もそうだけど 魔法で水も出せるのか」
水瓶に魔法で水を入れていたのを感心される。水で顔を洗いながらジョンさんが昨日の事を話してくれる。
どうやらエクルンド周辺の村々を巡って行商をしていたらしい。護衛も付けずに行商をするのは危険な様な気がするが途中までは冒険者を乗っけていたらしい。冒険者側は安く移動したい、行商側も安い護衛が欲しい。そんな状況を利用した日雇い護衛みたいな感じで固定の護衛を付けずに各地を回っていたらしい。行はよいよい帰りは恐い…じゃないけどたまたま戻る時の護衛役が捕まらず、仕方ないので強行軍に出たのだそうだ。
「分からなくもないけど 危うく命を落とす所だったわね」
「その通りだな・・・助かったよ」
アイリーンお姉ちゃんが起きて来て挨拶をする。朝食の準備をしてジョンさんにミッチェルさんを起こしてきてもらう。またかと思うかもしれないが魔物の肉の野菜炒め、仕方が無いのだ。良く火を通しているとは言え寄生虫とか腐ってたりしないよな?
「ここ数か月の稼ぎがみんなパーだ まぁ命あっての物種だ 2人には感謝してるが馬が2頭に馬車1台 商品も粗方駄目にされちまって身動きとれねぇ 首も回らねぇときた・・・」
「そうだなぁ・・・一度昨日の馬車を確認して大丈夫そうな商品だけ回収してエクルンドまで運んで貰ってから君達2人には礼をしなきゃな」
「こちらはそれで構わないわ エクルンドに行く予定だったし 荷車に乗る分の荷物だったら問題無いわ」
朝食を食べながらこれからの事を話し合う。昨日の現場にホリィを連れて4人で行く事になる。
馬車と荷物が散乱している現場に着くと昨日野犬に食われてた馬が、更に何者かに食い荒らされたのか無残な姿になっていた。
「んー こりゃひでぇな」
ミッチェルさんが馬車周辺に散らばる荷物を見て使える物をより分けている。ジョンさんがホリィに繋げてある荷車の荷物をチェックして色々聞いて来る。
「ニコール君 この箱は全部食糧なのかい?」
「うん そこの3箱は保冷庫になってるから使えそうな食糧があったら入れて 少しは長持ちするから」
「保冷庫?」
「リヴィングツリーの素材で作った食材を冷やして保存する箱なんだ」
「へー これも君が作ったのかい? リヴィングツリーの素材だけでこんな箱が 保冷庫に・・・? じゃあこっちに積んであるのも薪じゃ無くてリヴィングツリーの素材なのかい?」
「そうだよ」
「凄いじゃないか!」
ジョンさんが興奮気味に言ってくる。
「これがあれば 今までの氷を使った保冷庫なんて目じゃ無いよ! 父さん!」
ジョンさんがミッチェルさんの元へ駆け寄り話し始めた。
「何? リヴィングツリーの素材だけで保冷庫が作れる?」
「そうなんだよ! しかもこいつを魔道具にすれば今までの氷を使った保冷庫に取って代わる商品になるよ!」
「落ち着け! そいつに関してはエクルンドに戻る時にでもじっくり聞いてやる まずはここから離れるのが先決だ」
ミッチェルさんがジョンさんを落ち着かせる。まずは馬車の残骸をどうにかしなければならないのは確かだ。4人でホリィの荷車に荷物を移動させる。と言っても僅かな金品に使えそうな衣類、食糧を積めるだけ積んだだけだ。
手早く済ませてここから立ち去る。街道に散らばった馬車の破片は撤去したが持って帰って処理などは出来そうもない。ここに投棄していくしかない…。
ホリィの荷車に新たに2人乗せてエクルンドに向けて走り出す。元々大人数や荷物を想定してない荷車だから前よりは速度も出せないし、ちょくちょく休憩を挟まないとホリィが持たない。凶悪な乗り心地は緩和されるがそれでも道が悪ければ酷いもんだ。時には御者として乗る者以外は下りて荷車を押しながらの旅になってしまった。
「いやー 申し訳ないね こっちも出来る限りの事はするし 積んだ食糧も遠慮なく使ってくれて構わないよ」
「そう言ってくれると助かるわ」
「うちのバカ息子は元気が有り余ってるみたいだし こき使ってくれて構わないよ」
「親父・・・」
荷物を積んで走り出してからジョンさんは保冷庫の事で頭がいっぱいの様だ。走ってる時も食事してる時も保冷庫の事をあれやこれや話してる。
「それでもこれはチャンスだよ! ニコール君も良いよね?」
商標登録みたいな物がこちらにもある様でジョンさんは正式に登録してグレゴリー商会で製造販売を任せてほしいと言ってきている。
「お金はこれからの旅で必要だし 僕は構わないけど・・・」
チラリとアイリーンお姉ちゃんを見る。お金を稼げるチャンスなのは分かるが今の保護者はアイリーンお姉ちゃんなのだ。エクルンドでの滞在が長くなればなるほど、旅に時間がかかってしまう。そうすればアイリーンお姉ちゃんを長く縛る事になる…一緒に居たいとは思うが苦労はさせたくないし、嫌な思いもさせたくない。
「私も構わないわ」
アイリーンお姉ちゃんが笑顔で答えてくれる。
「そう言えば聞いて無かったけど 2人はどうして旅をしているんだい?」
またアイリーンお姉ちゃんをチラリと見て様子を伺ってから、これまでの事をジョンさん達に話した。開拓村でジャイアントフィーバーラットに襲われた事、魔法で自分を含めて3人に火傷を負わせた事、ダンヴァーズ領へ奉公に出されてその道中で御者の男に襲われた事、逃げる際に滝に落ちてアイリーンお姉ちゃんに助けられた事、そしてここまで旅して来た事を2人に話した。
「そ、そんな事が・・・親父・・・これはもう運命だよ! 2人に助けられた俺達がこの2人を助けるのは!」
「う、うーむ・・・ビジネスの話は悪い事じゃ無し 2人に恩を返す事にもなるか・・・」
グレゴリー親子が神妙な顔で話を聞いて、何やら決心した模様。
「エクルンドに着いたら商業ギルドで登録して正式にうちでやらせてもらうか・・・ニコール君達は試作品の作成に協力してもらう形で良いとして 出資はどうするか・・・まぁここじゃ何も始まらん! エクルンドの商会で話をしよう」
休憩を終えて再びエクルンドを目指して進むのであった。
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