第28話
「そろそろ南西のエクルンドへ向けて出発しましょうか・・・かなりの遠回りになるけど山沿いを北東に行くよりも安全に旅が出来るわ」
アイリーンお姉ちゃんが薬草等の備品を確認しながら話しかけて来る。
「どの位でルドヴィーク王国に着けそう?」
「んー 1年は掛からないんじゃない? 半年位かしら?」
かなり曖昧な返答だな…。前世みたいな交通機関がある訳でもないし、街道の大通りだって首都や大きい町以外は整備もされてないだろうから大雑把な感覚で旅をしているのだろうか?アイリーンお姉ちゃんがここの地域周辺の地図を取り出して説明してくれる。
「まずヴァルストレーム国のここから南西のエクルンドに行って それから東のフォルシアンへ向かってルドヴィーク王国入りを目指しましょう」
エクルンドへは大体1週間掛かる模様。エクルンドでどの位滞在するのか分からないがフォルシアンへ更に5日は掛かる様だ。簡単な地図で何とも言えないがパッと見てエクルンドへの行程を考えるとルドヴィーク王国のダンヴァーズ領の開拓村に行くのに移動だけで3か月以上かかりそうだ…。
「何で南からのルートなの? 山越えか海を越えて行けばもっと簡単に行けそうなのに・・・」
「海も山もどちらも危険なルートよ これから寒さが厳しくなるし もし海か山を越えようと思ったら冬が明けるのを待ってもっと暖かくなってからじゃないと無理ね それでも危険だけど」
海も山も少人数では超えるのは危険だと言う。人も居ないしお金も無い、装備も無いし時期も悪い。大人しく山を避けた遠回りの内陸を行くしかない様だ。行く先の村や町で路銀を稼いでルドヴィーク王国を目指す。こんな子供を連れたまま誰も好き好んで長旅をしてくれる人など居ないのだ。アイリーンお姉ちゃんには感謝しなければならない。
「山小屋の鍵を村長さんに返したり準備しなきゃならないから・・・そうね 3日後に出発しましょう」
「うん!」
食糧や備品、依頼を出した村長さんへの報告と依頼達成の確認を取り付けて山小屋を綺麗に片づける。グァーガ鳥のホリィに引かせる荷車へ荷物を積んで準備完了。アイリーンお姉ちゃんに長旅用のコートを買って貰ってこちらも準備完了。3日後の早朝に連絡しておいた村長の家に鍵を返して村を出発する。
「色々お世話になりました 村長さん」
「いやいや こちらも助かりましたよ 最初は女性の冒険者の方1人で大丈夫かと心配しましたがこれで暫く村は大丈夫でしょう 安心して冬を越せますよ 旅には気を付けてくださいね」
「ありがとうございます」
村長さんに軽く挨拶して村を後にする。ホリィの荷車に揺られながらまずはエクルンドまでの旅、そしてダンヴァーズ領への長い旅が始まった。
「アイリーンお姉ちゃん グァーガ鳥の荷車の動かし方を教えて!」
少しでもアイリーンお姉ちゃんの負担を減らしたいと思って馬車の動かし方じゃないけど、グァーガ鳥の荷車の動かし方を教えて貰う事にした。
「そうね ずっと御者をやるのも大変だし ニコールと交代で行きましょう ホリィは扱いやすいからすぐに慣れるわ」
山の麓の村からなだらかな傾斜の街道をエクルンドへ向けて、アイリーンお姉ちゃんにホリィの乗り方を教えて貰いながら進む。御者台に乗りながら走るには肌寒さが厳しいがコートのお陰で苦にならない。天気も良いし、何故こんな所で御者台に乗ってグァーガ鳥の荷車を操っているに至ったか忘れてしまいそうになる。
(ジミーとジャスミンちゃんはどうしているだろう・・・父さんやシオ神父 キャロお姉ちゃんは村で苦労してないか心配だ・・・自分がダンヴァーズ領へ行けなかった事で何か問題になっていないか・・・)
「そんなに旅が心配?」
横で不安そうにしていたらアイリーンお姉ちゃんが心配してくれる。
「ううん そんな事無いけど・・・僕が居た開拓村の人とかダンヴァーズ領へ行けなかった事が問題になってないかって不安で・・・」
「あなたが川の岸に流れ着いていた時はてっきり死んでいると思ったくらいよ それに話を聞いた限り ニコール あなたに非は無いわ」
「ありがとう アイリーンお姉ちゃん」
こんな子供1人で旅をすれば魔物に襲われたり、信頼のおけない誰かに助けを求めてしまったら奴隷として売り飛ばされてしまうかもしれない…。もしアイリーンお姉ちゃんに売り飛ばされてしまっても恨みはしないだろう…命を救ってくれた人なんだから。
朝食を摂らずに日が真上になるまで街道を進んできた。そろそろ荷車を止めて昼食にしたい。整備されてない道とサスペンションの無い荷車は、乗っているだけで体力をすり減らす位凶悪な乗り物だ。山沿いの道で木々に囲まれた街道を突き進んでいたが少し開けた所に出てようやく昼食の休憩になった。
ホリィを荷車から外して魔法で桶に水を用意する。荷車に積んである草も一緒に用意して荷車に念のため車止めをしておく。保冷庫に入れておいた食材とパンを用意する。魔法で即席の釜戸を作り薪に火をつけてフライパンで簡単な野菜炒めを作る。相変わらず何の肉なのか分からない魔物の肉だが…保冷庫に入れてあるからと言って腐らない訳じゃ無いから早く消費するに限る。
「あー 魔法を使える人が居るとこんなにも旅は楽なのね」
アイリーンお姉ちゃんが野菜炒めとパンを美味しそうに食べながらしみじみと言う。その光景にご飯があれば最高なのにと思ったけど、旅を考えるとパンとご飯はどっちが楽なのだろう?
「じゃあ僕をアイリーンお姉ちゃんのパーティーに入れてくれる?」
「うふふ ちゃんと魔法ギルド支援の教育機関で訓練を受けたらいいわよ」
「本当!?」
「えぇ ニコールとだったら喜んでパーティーを組みたいわ」
アイリーンお姉ちゃんには少しでも旅で楽をさせてあげたい。そんなアイリーンお姉ちゃんにパーティーを組んでも良いと思われているなら嬉しい限りだ。
食事を終えて少しまったりしていたら森からリヴィングツリーがジリジリとこちらに来ているのが見えた。ここは開けているし今は真昼間だ。
「ニコール!」
「分かってるよ アイリーンお姉ちゃん」
小声で注意してくれる。料理の匂いに誘われたのか?それとも人の気配に誘われたのか?いつぞやの様にリヴィングツリーが3体こちらに迫っていた。
アイリーンお姉ちゃんが腰の剣を抜刀して油断なく構える。こちらもリヴィングツリーを正面に捉え山小屋で練習した魔法を試す事にする。
「アイリーンお姉ちゃん! 援護するよ!」
「え!?」
水と土を混ぜた泥を3体のリヴィングツリー目掛けて投げつける。精度がまだ甘くて2体にしか着弾しなかったが構わずファイヤーエアブローを放つ。当たらなかった1体がこちらへ突進してくるがアイリーンお姉ちゃんが見事に切り倒してしまう。残りの2体はヨロヨロとぎこちない動きでこちらへ近づいて来て鞭の様な腕で攻撃してくるが石の壁を展開してやり過ごす。1体を地面から突き出す様に生成した石の槍で仕留め、最後の1体をアイリーンお姉ちゃんが詰め寄り切り伏せてしまう。
「ニコール びっくりしたわ 戦えたのね」
「山小屋に居る時に練習してたんだ」
「でも無茶はしないでね」
「うん!」
アイリーンお姉ちゃんと一緒の戦闘で思いの外上手く戦えた事に喜びを感じる。しかし、アイリーンお姉ちゃんに無茶はしない事と旅や冒険の鉄則としてリーダーの指示に従う様にと注意されてしまった。少し先走った行動だったかもしれないと反省する。確かに連携を確認してない様な俄かパーティーではどんな不測の事態に陥るか分からない。これからの旅の肝に銘じておく事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます