第27話
翌日、目を覚ましたら水釜に魔法で水を入れる。朝に水汲みへ行かなくていいのは凄く助かる。台所へ行き朝食の準備をしようと思ったら”あれ”が無い。
「・・・あれ? 保冷庫が無くなってる・・・?」
昨日作った保冷庫が無くなっていたのだ。台所からリビングに行って玄関を見て見ると何故か玄関の扉の前に保冷庫が置かれていた。
「 ? ・・・アイリーンお姉ちゃんが移動させたのかな?」
「おはよう ニコール 私がなんだって?」
起きて来たアイリーンお姉ちゃんがおはようの挨拶をして欠伸を手で隠している。
「アイリーンお姉ちゃん おはよう 台所に置いといた保冷庫ってアイリーンお姉ちゃんが移動させた?」
「 ? 私はそんな事した覚えは無いわよ」
良く分からないが朝食の準備があるし保冷庫を頑張って台所まで持っていく。昨日のシチューの残りを温め直してパンと一緒に食べる。
「朝からこんなご馳走で幸せだわ 美味しいパンにワインなんかあったら最高ね」
朝からお酒はどうかと思ったがこの世界じゃ普通なのかな?それよりアイリーンお姉ちゃんが今までどんな食生活を送って来たのか気になる所だ。
アイリーンお姉ちゃんに出来ればリヴィングツリーを倒して魔晶石と素材を持ってきてくれるように頼んでおく。いってらっしゃいと見送った後は魔法の練習を兼ねて皿洗いや洗濯等の家事をやってしまう。
「よし! 保冷庫はまだ冷たいままかな?」
家事を終えて本格的に魔法の練習をする前に保冷庫がまだ機能してるか確認してみるが、まだまだ冷たいままでちゃんと機能している。
「僕もアイリーンお姉ちゃんの戦闘のサポートとか出来たらなぁ・・・」
昨日のリヴィングツリーとの戦闘を思い出しながら1人呟く。アイリーンお姉ちゃんの身のこなしを考えると剣による近接戦のサポートは無理があるから、魔法での支援で一緒に戦って楽をさせてあげたい。しかし、今使える魔法はウォーターボール・エアストプッシュ・ファイヤーエアブローの3つしかない。前に読んだ魔法超入門には体を流れる魔力を感じる練習方法と簡単な魔法、補助魔法位しか書いていなかった。後はちゃんとした教育機関での習得を推奨するとか書いてあって、まるでどこかの攻略本みたいじゃないかとガッカリした記憶がある。
攻撃もしくは攻撃支援出来る魔法が使いたい…。うーんと唸って考えていたが、1つ閃いたので早速山小屋の外で練習してみる。大体戦闘って外で行われる物なんだしそこら辺にある物を使って戦えばいいんだよ。土とか石とか上手く使えば攻撃もサポートも防御だって出来そうだ。
外に出て自然体で構えながらふと考える。
「・・・・・・なんて名前で魔法を使えばいいんだ?」
そもそも今まで魔法の詠唱なんてした事無かったかも…。うーん…取り敢えず無言で集中してみる。魔力を土や石に変えた方が良いのか?それとも魔力でそこら辺の土や石を操作した方が良いのか?…。
って言うか、今まで使っていたウォーターボールの水って魔力の塊だったのか?それとも空気中の水分を集めて作っていたのか?…。普通に飲み水として使っていたけどちゃんと体に吸収されていたのか?
「・・・・・・何か不安になって来た・・・」
物理法則や自然現象に則って発現してるのか、未知のエネルギーとしか形容できない体を流れる魔力を介した超常現象なのか。
「良く分かんないから別にいいか・・・」
難しい事は追々使って行く内に分かって来るだろうと思考を放棄してしまう。まずは突進して来る相手にカウンターで攻撃出来る様に槍衾をイメージして、石の槍を3本作り出して地面から生成する。次に土と水を混ぜ合わせて泥を作り出しエアストプッシュで標的に当てる。その後に、ファイヤーエアブローで泥を固めて相手の動きを鈍らせる。最後は石で自分の前に壁を生成してみる。
色々応用出来そうな感じがする。泥を飛ばすんじゃなくて、石をそのまま相手にぶつけるのも良いかもしれない。石じゃ無くて木や水、炎なんかを壁にしても良いかもしれない。戦闘での魔法の活かし方がまだ分かって無いから難しいけど、小規模ならアイリーンお姉ちゃんのサポート位は出来そうだと感じた。後は、もっと魔法の精度を上げていけば一緒に戦闘も可能になるだろう。
「グゥェエエ!」
山小屋の外で騒がしくしてたせいか納屋でグァーガ鳥のホリィがグエグエと鳴いている。様子を見に行くと外に出してくれと催促していた。納屋の掃除もあるしついでにと思って扉を開ける。納屋を掃除しながらホリィが何をするのか見ていたら、先ほど水と土で泥を作って何度も飛ばしていた所に行き泥浴びをし始めてしまった。
「グゥエ! グゥエ!」
「あー 泥だらけじゃないか」
ウォーターボールを大型の鳥とは言えホリィにぶつけるのも気が引けるしと思っていたら良い事を思いついた。魔法の出し方を変えてやればウォーターボールもシャワーの様に出せるのではないかと思いつき実行してみる。
ホリィにシャワー状にしたウォーターボールを使うと体を震わせながら水浴びしだした。泥を落としたらファイヤーエアブローで熱風を浴びせる。自分で浴びる角度を変えながらグエグエとご機嫌だ。ホリィとじゃれ合っていたらもうお昼になっていた。そろそろアイリーンお姉ちゃんが戻って来るだろうと思って食事の準備をする為に山小屋へと戻った。
魔法の練習とホリィの件でお腹がかなり減っている。限界を超えて魔法を使い続けたらどうなってしまうんだろうか…?そんな事を考えながらチヂミっぽい料理を作る。
自然薯を摩り下ろして一口大にしたジャガイモと魔物の肉、ほうれん草と小麦粉と水を混ぜ合わせる。混ぜ合わせた物をごま油を引いたフライパンでじっくり弱火で蓋をして焼く。ひっくり返して両面がキツネ色になったら完成。夕食の分の野菜スープも一緒に作りながらアイリーンお姉ちゃんが帰って来るのを待っていた。
ガチャッ!
「あ アイリーンお姉ちゃん おかえ・・・」
玄関からアイリーンお姉ちゃんが帰ってきたが左腕から出血をしていた。
「どうしたの!?」
「大した事じゃないわ」
もう出血は止まってるみたいだが服が血に染まっていて痛々しい。急いで煮沸消毒した水を用意して傷口を洗う。手慣れた感じで薬草の丸薬を水で溶いて傷口に塗り込む。布を宛がって包帯で覆う。
「これで大丈夫でしょ」
「本当に大丈夫? 痛くない?」
「これくらい冒険者や旅をする者なら日常よ ニコールも覚悟しておくように」
傷は大した事が無かったのか特に気にも留めていない様子だった。
「それより良い匂いがするわね 食事にしましょう」
「ちょっと待って」
開拓村でジミー達とやった様に椅子に座っているアイリーンお姉ちゃんの肩へ手を置いて魔力を集中させる。自身の治癒力を高める補助魔法をアイリーンお姉ちゃんに流し込んでみる。
「え? う、腕が!? それにこの感覚は何なの!?」
初めて自身に流れる魔力を感じ取って驚いたのだろうか、開拓村でシオドリック神父と子供達で魔法の素質を調べる実験の時の様な反応をアイリーンお姉ちゃんがしていた。
「腕の具合はどう?」
「腕は・・・」
先ほど巻いたばかりの包帯をスルスルと解いていく。すると開いていた傷口は既に閉じていて少しの跡が残るほどまで回復していた。
「信じられないわ・・・」
「こんなにすぐ回復するなんて思わなかったけど 良かったぁ」
開拓村で訓練場での打撲等を直すのに使っていたが、まさか切り傷もすぐに直してしまうとは…。ほっと安堵しているとアイリーンお姉ちゃんに頭を撫でて貰った。
「ニコールは本当に天才かもしれないわね」
優しく撫でられると恥ずかしくなってくる。すぐに食事の用意をするとアイリーンお姉ちゃんも何やらテーブルに用意し始める。
「本当に持ってくるとは思わなかったよ」
「フフフ」
朝に言っていたお酒をどうやら村で手に入れて来たらしい。
「浮かれてたらリヴィングツリーにやられちゃったわ」
お酒を庇って鞭の様な撓る腕にやられてしまった様だ。村からお酒を仕入れて一緒に食卓へと並べる。チヂミ料理と野菜スープとパン、それにお酒を眺めてご満悦の様子。チヂミに少量の塩を付けて頂く。ポン酢なんて上等な物は無いしシンプルに塩で食べる。
「う~ん これも食べた事無い料理だけどとっても美味しいわ」
そう言いながらお酒を少しだけ飲んでいく。午後からの稽古に怪我の影響もお酒の影響も無く、腕と足が動かなくなるまで訓練して今日もやっぱりボロボロになってしまった…。魔法はこれからの成長に期待が持てたが、剣の成長はお先真っ暗な気がした…。
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