第26話


 今日は俺も一緒に山の麓にある村に連れて行ってもらい素材の売り買いを手伝う事になった。グァーガ鳥のホリィに荷物を運んでもらい村に向かう。


「ん? なにあれ?」


 村に向かって舗装されていない山道を進んでいると変な光景に出くわす。3本の木が道を塞ぐ形で生えているのだ。こんな道のど真ん中に生えている木を切らずに残しておくだろうか?


「リヴィングツリーよ! 魔物だから気を付けて!」

「え!?」


 アイリーンお姉ちゃんはそう言ってホリィの手綱を離すと荷車の中から斧を1本取り出して素早く真ん中の木目掛けて投げつけた。


「ハッ!」


ザシュッ!


 カツンと言う木に当たる小気味良い音が鳴ると思ったが、肉に当たる様な重い音を立てながら魔物に命中してドサリと1匹倒れる。立て続けに右の魔物に素早く駆け寄り切りつけてなぎ倒す。左の魔物が枝の様な腕を撓らせアイリーンお姉ちゃんに殴り掛かるが、姿勢を低く回避して魔物の懐に潜りこんで切り伏せてしまった。


「す、凄い! アイリーンお姉ちゃん凄いよ!」

「ふふん まぁこんなものね」


 初めてアイリーンお姉ちゃんの戦う姿を見たが、伊達に1人で冒険者をやってはいない。剣の鍛錬でどれだけ手加減して貰ってるか分かったものではない。


「これも素材として村に持っていく?」

「んー 寒い地方に居るリヴィングツリーは解熱剤なんかの薬になるらしいけど よく居る魔物で強くないし そこまで高く売れないわ」

「持って帰って調べても良い?」

「別に良いわよ」


 荷車に乗せて村へ行くのを再開する。村は俺が居た開拓村と似たり寄ったりの規模だったが、山の麓に幾つか点在しているらしい。魔物の素材を売り、これからの旅路に必要な物を買っていく。アイリーンお姉ちゃんが普段買ってこない食材なんかも買ってもらう。牛乳とバターを買ってシチューっぽい物を作ろうとしているがアイリーンお姉ちゃんは牛乳が苦手の様で少し不安そうだ。


「本当に大丈夫なの?」

「作った事は無いけどレシピは知ってるから多分大丈夫だと思うよ?」


 帰り際に念を押されるが既に買ってしまった後だ。少し買いすぎただろうか?旅に必要な水は魔法でどうにかなるから干し肉や焼しめた硬いパン、塩なんかを買い込んで山小屋に戻る。帰りは特に魔物や野生動物に遭遇する事無く帰る事が出来た。


 買い込んだ荷物を整理して気になっていたリヴィングツリーの素材を調べてみる。凄い小さいがちゃんと魔晶石もあり、魔物である事が分かる。炎が弱点なのかと魔法でチョロチョロと燃やしてみるがちっとも燃えない。自分が上手く炎を扱えないのもあるかもしれないが、見た目に反してリヴィングツリーは炎耐性があるみたいだ。それとも寒い地方に居るリヴィングツリーだから炎に耐性があるのか?所謂アイスリヴィングツリーと言った所か…。アイリーンお姉ちゃんに色々聞きながら調べていると面白い事が分かった。


 アイスリヴィングツリーの素材に魔力を流し込むと凄く冷たくなるのが分かった。更に魔晶石を埋め込んだまま魔力を流せば暫く冷たいままを維持できる。これはアイスリヴィングツリーを使った保冷庫が出来るんじゃないか?前世の冷蔵庫みたいに高性能じゃないけど、あると便利なアイテムを思いつき早速実践してみる。今日買った食材を入れた箱に魔晶石を埋めたアイスリヴィングツリーの素材を入れてみる。


「中々良い物が出来たぞ」

「もう料理が出来たの?」


 アイリーンお姉ちゃんが台所を覗きに来た。お腹が減っているのだろうか?


「違うよ リヴィングツリーの素材で面白い物が出来たんだ」


 そう言って先ほど試してみたリヴィングツリーの保冷庫をアイリーンお姉ちゃんに見せる。食材を保冷庫に入れて腐りにくくする道具になるかもと話す。


「へー ニコールは面白い事を思いつくわね フェルスホール国の商会に登録したら売れるかも」

「フェルスホール国?」

「ヴァルストレーム国のエクルンドを東に行った場所にある国よ 人や物の流通が盛んで多くの商会が連盟して出来た国ね」


 旅にはどうしてもお金が必要になって来るし、便利な道具はこれからの旅に役立つから良いかもしれない。


「アイリーンお姉ちゃんは商会に詳しかったりするの?」

「私は商売に関しては詳しくないわ エクルンドの町に立ち寄ったら魔道具とかの商業ギルドの商会に一度相談してみるのもいいかもね」


 なるほど。こう言う事はその道のプロに丸投げしてしまうに限る。


 早速リヴィングツリーの素材で作った保冷庫に入れておいた食材を取り出し料理に掛かる。…見た限りでは問題は無いが商品にするとなるとまだまだ改善の余地が見られる。


「本当に牛乳を使うの?」


 アイリーンお姉ちゃんがまだ牛乳を気にしている。そんなに嫌いなんだろうか?こっちとしてはどんな見た目の魔物だったか分からない肉を使うのが気になるんだけど…。


 一口大に切った魔物の肉と玉ねぎ・ニンジン・ジャガイモ・ブロッコリーをバターで炒めて、水を加えて弱火で煮込む。柔らかくなるまで煮込んだら牛乳・塩コショウ・小麦粉を加えて、トロミが出るまで煮込んだら完成だ。


 果たしてアイリーンお姉ちゃんの舌に合うかどうか…。少し心配しながら食事の支度をする。


「どれどれ・・・ お、美味しい! ニコール あなた天才だわ!」

「牛乳大丈夫だった?」

「ええ パンがもう少しましだったら最高ね」

「アハハ 良かった」


 ハウツー本で覚えておいて良かった。アイリーンお姉ちゃんもご満悦の様子だ。


 保冷庫がどの位持続して冷やしてくれるか分からなかったので寝る前に魔力をもう一度流しておいて就寝する事にした。明日になってもちゃんと冷やしてくれてると助かるんだが…。そう思いながら少しワクワクしながら眠りに就いた。

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