第25話


 翌朝アイリーンお姉ちゃんにおはようの挨拶をするのが凄い恥ずかしかった。昨日の件も勿論あるのだが、この人寝る時はかなり薄着で寝る。害獣駆除でこの山小屋を借りているらしいが山の中にあって勿論寒い。寒くないのだろうか?もしかしてその為に一緒に寝ているのだろうか?


 朝の水汲みを手伝いながら朝食の準備をする。硬いパンと魔物の肉だろうか?カリカリに焼いた物と野草を挟んでサンドイッチみたいにして食べる。家の隣にある納屋に行ってグァーガ鳥の世話をする。開拓村で何度か見たあのグァーガ鳥だ。馬の代わりにグァーガ鳥に荷車を引かせて冒険者として行動しているらしい。


「相棒のホリィよ」


 ゆっくり近寄って撫でようとしたら、いきなり翼を広げて突進してきてバサバサと翼で覆われてしまう。そのまま押し倒されてお腹の下敷きになってしまった。


「や、やめて! 助けて!」

「気に入ったみたいね 雛みたいにお腹で隠してくれてるみたい」


 隣でアイリーンお姉ちゃんが笑っているが、ホリィが徐に顔を近づけたと思ったら紐を通して首に下げていた形見の指輪を嘴で奪われてしまった。


「あ!」


 声を上げた時には形見の指輪はホリィに食べられてしまった…。


「どうしよう・・・」

「暫くはホリィの世話はニコールにお願いしようかしらね 寝床の掃除をしてればいずれ出て来るわ」


(それって糞に混じって出て来るのを待つって事だよね・・・)


 それから暫く寝床の世話をしていたらホリィとは随分仲良くなった。ちゃんと形見の指輪も帰って来たし。


 アイリーンお姉ちゃんに助けて貰ってから1週間程経ってすっかり怪我も体調も治った。山小屋の掃除や洗濯、料理なんかをやって過ごしていたが完全にアイリーンお姉ちゃんの主夫みたいな生活を送っていた。


「ニコール 助かるわ ありがとね」

「こんな事位しか出来ないから」


 冒険者の1人旅じゃ仕方が無いけど、掃除も洗濯も小まめにやらず纏めてやるし食事も余り手の込んだ料理はしないみたいだ。魔法の入門書を買ってからハウツー本を読み漁る様になってから料理もある程度出来る様になった自分が家事の一切を引き受けていた。


「アイリーンお姉ちゃん! 良かったら僕にも剣の鍛錬に付き合わせて!」

「ん? 別にいいけど・・・大丈夫なの?」


 朝食の時に毎朝している鍛錬を一緒にさせて貰える様に頼んでみた。


 アイリーンお姉ちゃんはまるで軍人みたいな鍛え抜かれた体をしている。前世ではそんな趣味は無かったが、この世界の価値観に感化されたのか今は凄い憧れる。美人だし…。普段はセミロングの髪形で、狩りに行く時はポニーテールにして出かけていく。恥ずかしい話だが、涙を流し抱きしめられた時にこの人を好きになってしまった。


「人に教えた事が無いし・・・大丈夫かしら?」

「アイリーンお姉ちゃんみたいに魔物を倒せる程じゃ無くていいんだ これから旅をしなくちゃいけないんでしょ? 少しでも鍛えておこうと思って」

「そうね 本格的に冬になる前に南に行ってヴァルストレーム国に行かなきゃならないし・・・丁度良いかもね」


 朝食を終えてアイリーンお姉ちゃんが狩りに出かけ、その間に家事を済ませ午前中は筋力トレーニングを自主的にやる。アイリーンお姉ちゃんがお昼に帰ってきたら食事をして本格的に剣の練習をして貰う。3時間程みっちりしごかれてボロボロになったら終わり。アイリーンお姉ちゃんは狩りに行ったり、魔物の素材を町に売りに行ったり買い物したりして帰ってきたら夕食を作って早めに寝る。


 午後からやる剣の練習が中々面白いやり方で、ひたすら攻め続けたりひたすら避けたり捌き続ける練習だ。


「攻め!」

「たぁ! とりゃー!」

「次! 守り!」


 半径10m位の範囲の中でアイリーンお姉ちゃんが良いと言うまでひたすら攻めたり守ったりする。攻める時は逃げたり捌いたり防いだりするアイリーンお姉ちゃんをひたすらに追い続ける。守る時は攻撃してくるアイリーンお姉ちゃんからひたすら逃げたり捌いたり防いだりする。ストップ&ダッシュの繰り返しで死ぬほど辛い…。慣れたら攻めと守りの切り替えが早くなり疲労と酸欠で訳が分からなくなる。


 適当な木の棒を削り出して作った木剣でやっていたのだが、一度やらかしてしまった事がある。


 攻守の切り替えが早くアイリーンお姉ちゃんに頭を打ち抜かれると思った瞬間。2人の間に炸裂音が響いて火の粉を撒き散らしながら2人とも吹き飛んだ。御者の時みたいな魔力の暴発があったのだ。


「ご、ごめん! お姉ちゃん!」

「こ、これがニコールが言っていたやつなの・・・?」


 驚いているみたいだが怪我をしなかったのが幸いだ…。


「ニコール これはコントロール出来ていないの?」

「う、うん・・・ 頭を打たれると思ってびっくりしたら出ちゃった・・・」

「うーん・・・ これは何とかしないといけないわね・・・」


 剣の練習をしだして気が付いたが、ちょっとした感情の変化で魔法が暴発するようになってしまっていた。


 ドウェインの件以来魔力の循環の練習をしていなかったが、これを機にコントロール出来る様に剣の練習と一緒に魔法の練習も再開した。


 剣の鍛錬はボロボロで余り上達の兆しが感じられなかったが、魔法の練習は驚くべき変化があった。前はあれだけ入門書を読んで色々試しても出来なかった初級編の魔法が使える様になっていた。


「アイリーンお姉ちゃん見て見て!」

「どうしたの?」

「魔法が上手く使える様になったよ! 見てて!」


バシャァッ!!


 目で見て分かりやすいウォーターボールを出そうとして手元で盛大に爆散させてしまう。


「・・・ごめんなさい」

「ニコール!」

「いだだだだ!!」


 アイリーンお姉ちゃん共々ずぶ濡れになってしまい、拳骨を作って頭でグリグリと捻じられてしまった。


 ウォーターボールでお風呂に水を張り、薪を魔法で燃やしてお風呂を焚いて訓練で汚れた体を着替えるついでに洗ってお湯に浸かる。お風呂上りでもファイヤーエアブローがあれば髪を乾かすのに凄い便利。アイリーンお姉ちゃんの髪も魔法の熱風で乾かしてあげる。


「ニコールは魔法の天才かしら」

「剣はあんまり上手くないけどね」


 アイリーンお姉ちゃんが気持ちよさそうに熱風を浴びて髪を乾かしている。


「まだ子供ですもの もうちょっと体が出来てからじゃないとね それに鍛錬は1日にして成らずよ」

「でもアイリーンお姉ちゃんみたいになりたいな」


 アイリーンお姉ちゃんがこちらを見ながらうーむと考えてから。


「ニコールはそのままの方が可愛くて良いわ」


 男に可愛いはちょっとなぁ…。前はそこまでこのお子ちゃまボディを気にしていなかったがアイリーンお姉ちゃんを見るとコンプレックスに感じる。


「その内大きくなるわ」


 そう言って頭を撫でてくれる。この人の前ではもっとカッコいい自分で居たいが子ども扱いされても嫌な気はしない。ついえへへと笑顔になってしまう。

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