第24話


「・・・ん・・・」


(・・・何でこんな状況になっているのか本気で分からない)


 俺は確か川に落ちてそのまま滝壺に落ちたような気がするんだが…。


 女性と同じベッドで抱き枕みたいに抱きしめられる形で俺は寝ていた。スースーと寝息を立てながら時折喘ぐ声がとてもセクシーだ。女性に腕枕してもらう形で抱きしめられているせいで柔らかな胸が顔に当たっている。女性の匂いと柔らかさにドキドキして心拍数がどんどん上がっていく。


「んー・・・あふ・・・」


 鼻から抜けるようなセクシーな喘ぎ声にドキドキして固まっていると女性が俺を締め上げて来る。締められて苦しいのだが柔らかいし良い匂いだしで抵抗出来ずに頭がクラクラしてくる。


「あふ・・・あう・・・」

「アガガガ」


 締め上げがきつくなって堪らず声を出すが、女性は一向に締め上げるのを止めない。酸欠と熱さでまるでのぼせたみたいになってしまう。


「あつ・・・熱い!」


 女性がガバッと起き上がってようやく締め上げるのを止めてくれた。俺はフラフラになってベッドの上であうあう言いながら目を回していた。


「あら?・・・起きた?みたいね」


 ベッドから立ち上がり俺を見下ろしてくる。上はタンクトップのような簡素な服に下は鍛え上げられた足が丸出しで下着しか履いていなかった。俺は腕や足に包帯が捲いてあってほぼ全裸だった…。俺の方が恥ずかしい恰好じゃないか。


 いそいそと毛布に包まり女性に視線を戻す。


「あ、あの・・・助けてくれてありがとうございます」


 俺は包帯を巻かれた体を見てこの女性が助けてくれたのだと推測してお礼を言った。


「お礼はいいわ 私はアイリーン あなたは?」

「僕はニコール ニコール・アーヴィングです」


 お互いに名前を名乗って色々怪我の具合などを聞いて来る。この女性はアイリーン・コーネリアスと言う名前らしい。最近この辺りでの害獣問題に派遣されてきた冒険者なのだという。川で偶然俺を見つけて運んで手当てしてくれたみたいだ。


「大事な物なんでしょ?」


 コーネリアスさんが指輪を渡してくれる。母の形見の指輪だ。


「ありがとうございます コーネリアスさん」

「アイリーンでいいわ それよりお腹は空いて無い?」


 気さくに話しかけてくれるアイリーンさんに促されて食事をご馳走してもらう。時刻は既に正午になろうとしていた。食事をしながら今まであった経緯をアイリーンさんに話す。


「そうだったの・・・これからどうするの?」

「一度村か辺境伯の所へ戻らないといけないかも・・・でも今更戻ってどうなっちゃうのか・・・」

「直線距離なら確かに近いかもしれないけど 山越えは出来ないわよ それにこれから寒くなると考えると北上しては行けないわね 厄介な事になってるし 南下するにしたってかなり大回りしなきゃいけないし・・・取り敢えずは怪我を直しなさい話はそれからよ」

「はい・・・」


 その日は、アイリーンさんに事情を話して食事と傷の手当てをしてもらい就寝する事になった。この家にはベッドが一つしかなく当たり前の様に一緒に寝る事になってしまった。


「怪我人を床で寝かせる訳には行かないし 私も床で寝たくないからね それに君は暖になるから」


 俺は湯たんぽか何かか?と思いつつもまた彼女に腕枕してもらう形で眠る事になった。恥ずかしいけど良い匂いだし柔らかいからラッキーと思っていたが、翌朝には殆ど拷問の様な目覚めにげんなりしていた。寝相が悪いのかこの狭いベッドが悪いのか、アイリーンさんは俺を抱き枕よろしく羽交い絞めにしてくる。5日程で怪我は大分良くなったが余り良い目覚め方をしてないせいか寝不足気味だ。


 数日一緒に生活して分かったがアイリーンさんは単独で冒険者をやっているようだ。よほど腕が立つのか朝早くと夕方に狩りをして、昼は狩った獲物の素材を整理している。どうやら魔物や魔獣を単独で狩っているみたいだ。


「あの・・・怪我も大分良くなったんで家事の手伝いとかします!」

「ん? もう怪我が治ったの? もう少しゆっくり休んでてもいいわよ?」


 体も動くし、何もせずに厄介になっているのも気が引ける。


「お姉ちゃん・・・じゃない! ア、アイリーンさんは何で僕をここに置いてくれるの?」


 キャロお姉ちゃんみたいな感覚で呼ぼうとしてしまって恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。


「お姉ちゃんって良いわね これからはアイリーンお姉ちゃんって呼んで頂戴 ・・・何故って怪我をしているじゃない それに今は行く当てが無いでしょ?」

「そうだけど・・・アイリーンさんにも・・・」

「お姉ちゃん!」


 アイリーンさんが食い気味でお姉ちゃんを催促してくる。


「ア、アイリーンお姉ちゃんにも冒険者としての目的があるんだよね?」


 何やら考えていたが、今決めましたと言わんばかりに閃いた顔をしていた。


「確かに今ヴァルストレーム国のエクルンドって町から冒険者ギルドを通じて この周辺の村の害獣駆除を請け負っているのだけど それも本格的に冬になる前までなの そしたら君をルドヴィーク王国のダンヴァーズ領だったかしら?・・・に連れていってあげるわ」

「・・・いいの?」

「子供が遠慮なんてしなくていいのよ」


 子供じゃないですもう今年の冬で10歳になります、と言った所で何故か涙が零れてしまった。あの御者の男の件で相当人間不信に陥ってしまっていたらしい。この女性だったら安心して付いて行けると思ったら涙が出てしまった。


「6歳位かと思ってたわ 泣かないで 男の子でしょ?」


 アイリーンさんが屈んで目線を合わせて頭を撫でてくれる。静かに泣いていると抱きしめてくれる。精神年齢は前世とこの世界で生きて来た年数分あると思っていたが、肉体の年齢が精神年齢に作用しているのだろうか?この幼い体に信じられない不安が押し寄せて押し潰されてしまうかと思った。

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