第22話
「ダンヴァーズ辺境伯の管理する領地までどの位あるんですか?」
俺は馬車を運転する御者の男に、ルドヴィーク王国が収めるダンヴァーズ辺境伯の領地が村からどの位の距離なのかどんな場所なのか聞いてみる事にした。
村を追い出される形となって悲嘆に暮れていた俺だが、どの道12歳になったら村を出て魔法大学がある街へ行くつもりだったのだ。ルドヴィーク王国が収める首都ルコントにも魔法大学があるが、本当はユージーンが最初に開設した魔法大学があるヴァルストレーム国の首都レコに行きたかったがそうも言っていられない。
「ダンヴァーズ領か? この馬なら2日か3日あれば着けるだろう」
「そんなに早いんですか?」
俺は村での援助要請の件を考えて1週間位掛かるのかと思っていた。
「こっちに来る時は荷物があったからな それに山越えをせず遠回りで来たから 帰りは山越えであっと言う間だ」
あっと言う間の概念が前世と違いすぎる…。ダンヴァーズ辺境伯の領地は山に囲まれていて、領地を広げるとなるとどうしても山越えの必要が出て来る。
「坊主はどうしてダンヴァーズ領に?」
「それは・・・村で問題を起こしてしまったから・・・」
「援助の代わりにダンヴァーズ領に行くってか?」
「そうです・・・」
俺が陰鬱な気分で答えると御者の男はカラカラと笑い言ってくる。
「まだ若いんだ辺境の村より町の方が楽しい事もあるさ 確かに村が大変な事になってるかもしれん だが村を焼き払わなきゃならん分けでもない 故郷がなくなったわけじゃないんだ そうしょげるなよ」
「そうだと良いんですが・・・」
「ハハ まだ山にも入ってない 坊主は少し休んでな 怪我してたって聞いたぜ?」
「ありがとうございます」
俺は礼を言うと御者の男と話すのを止め、馬車の中で少し休ませてもらう事にする。
村から街道を行き、大回りではなく山道に続く道に進む。朝から村を出発して大分進んだだろうか?山に入り、少し開けた所で早めに野営地を決める。日が傾き木々に光を遮られると山での日没は早く感じる。
良く出来た物で荷車を車止めで固定して馬を外し、そのまま木枠と厚手の布だけでテントみたいに組み立てていく。横に鉄の棒と網で簡単なかまどを作ってしまう。薪も予め馬車に積んであり、火起こしも手際が良い。10mほどのロープに木の板が数枚付いた物を四方の足元に木の杭で設置して野営地の出来上がりである。まさに旅に馴れた御者と言う感じだ。
特に俺が出来る事も無く、御者の男が用意してくれた携帯食の硬いパンと干し肉をスープに浸して食べていく。他愛ない会話をしながら周りに灯りの無い夜に包まれようとしている山を見渡す。火を絶やさないように3時間置きに交代で仮眠を取る事になる。御者の男が言うには火を絶やさなければ獣に襲われる事は滅多に無いと言う。鳴子としてロープも設置してあるし、2晩と少し位なら2人でも消耗せずにダンヴァーズ領に行けると言っている。
俺は初めての長距離移動と野宿に少し緊張していたがこの馴れた御者が居れば大丈夫であろう。かまどで水を沸かし、風呂の代わりに布をお湯に浸し体を洗っておく。もし、便意や尿意があれば風下の鳴子の近くに穴を掘ってそこでしろと言われる。御者の男に旅での知恵や出来事を聞いて山の野宿を過ごしていく。
村の中でも十分虫や木や草、動物や風の音が聞こえてたが山の中での就寝はまた違った雑音に溢れている。そんな中でこれからの事や村の事、色んな不安を感じながら俺は浅い眠りへと落ちていった。
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