第21話


 ジャイアントフィーバーラットが村を襲った事件から1週間。村の様子は酷い物だった。ダンヴァーズ辺境伯に援助を要請して了承を得たが、ジャイアントフィーバーラットから直接傷つけられた者は熱病に侵され、村にあった鼠の死体はすぐに焼却処分されたが村に感染症が蔓延した。


 熱病にいつ掛かるか分からない不安と、いつまた魔物に襲われるかもしれない不安。ダンヴァーズ辺境伯に助力を要請したが、食糧と薬も不足していて村の皆の心情は不安定な物だ。見舞いに来てくれたのも、ジミーとジャスミンちゃんだけだった。俺のベッドが治療院ではなく教会にあるのも村の内情を物語っていた。


 もし、ダンヴァーズ辺境伯に助力を乞えなかったらどうなっていたのだろうか…。


 更に1週間が経ち村の雰囲気は最悪な物となっている。ジャイアントフィーバーラットに傷を負った者、高齢で免疫力が低い者が熱病に侵され治療の甲斐なく数名亡くなってしまった。俺の火傷は少し痕が残ってしまったが完治していた。しかし、自宅謹慎を言い渡され家に引き籠っていた。


 事件から2週間が経ち、ようやくダンヴァーズ辺境伯からの使者が来た。治療を行える者と薬、村の警備を手伝ってくれる者と食糧。こんな僻地にある様な開拓村にこんな支援をしてくれるなんて、ダンヴァーズ辺境伯の領地への関心が伺える。


「ニコール・・・」

「父さん・・・今までありがとう」

「変な事を言うな! 今生の別れと言う訳じゃ無い 休みを貰ったら顔を見せに来なさい」

「ニコお兄ちゃん・・・」

「ニコ・・・」


 父やジミーとジャスミンちゃん、シオドリック神父とキャロお姉ちゃんが見送りに来てくれる。荷物と人員を下した1台の馬車に乗り込む。


「向こうで上手く生活するから心配しないで」

「村の事は心配しなくていいから向こうで元気にしろよ」

「ニコ 元気でやってね」

「ニコ 頑張れよ」

「元気でね ニコお兄ちゃん」


 荷物と人を運んだ馬車を一日休ませてから食糧を積み直して村を出発する。ジェンクスさんから辺境伯宛に手紙を書いてもらい簡単に荷物を纏めた鞄へ一緒に入れる。御者が乗る馬車で最後の挨拶をして村を発つ。結局ドウェインには謝る事も出来ず、ドウェインが俺に何か言ってくる事も無く村を出る事になってしまった。


 この村はジミーやジャスミンちゃんが居て賑やかで、シオドリック神父とキャロお姉ちゃんが居て温かな場所で、父やデナード夫妻や村の人が見守ってくれる俺の第二の故郷だったのに…。ジャイアントフィーバーラットが村を襲撃した事件で俺の居場所が無くなり、まるで知らない村の様に静かで暗い村になってしまった。


「さよなら! 元気で!」


 俺は見送ってくれた人達と村に最後かもしれないと力一杯手を振った。携帯食と水が入った樽、厚手の布と藁でクッションの代わりにした馬車の中で揺られながら見えなくなるまで村の方を向いて目に焼き付けていた。

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