第20話


 俺はまた同じ天井を見上げていた。体が上手く動かず、喉の渇きを覚えた。既視感に襲われ軽く眩暈がする。体の彼方此方が包帯に捲かれて痛むし、熱っぽく怠い。


 暫くぼーっとしていると奥からパタパタと誰かが歩いて来る音が聞こえる。


「起きたのね どう? 薬飲めそう?」

「・・・うん・・・」


 キャロお姉ちゃんが話しかけて来て調子を聞いて来る。丸一日寝ていたらしい。上体を起こして貰い、薬をお湯で流し込むが酷く苦いし胸やけの様な感じになる。


「少し苦しいだろうけど解熱と鎮痛の薬よ」

「・・・ごめんなさい・・・」

「・・・」


 俺は力なく首を垂れると謝罪した。


「話は聞いたけど あたしに言ってもしょうがないでしょ 確かにドウェインも酷い事をしたわ でもドウェインとジミーに直接謝りなさい。」

「・・・2人はどうなったの?」

「・・・ ジミーは少しの火傷で済んだけど ニコとドウェインは全治2週間って所ね ドウェインは喉も傷めたみたい」


 ドウェインはどうやら炎で喉をやられたらしい。幸い肺を焼く事は無かったが、最悪死んでいたかもしれない。ジミーは俺とドウェインを引き剥がそうとして手を火傷したみたいだ。


 3人が運び込まれた後、鼠が村に居ないか確認するのと同時に村の被害も見て回ったらしい。農場が荒らされていて村の食糧に深刻な被害があった。更に村を襲った鼠を調べるとジャイアントフィーバーラットである事が分かった。熱病鼠と言い、感染病の温床らしい。しかも、魔物化して魔獣となり巨大化。元々の繁殖力のせいで爆発的に増え、餌を求めて村を襲ったのではないかと見ている。


 今現在でも村には怪我人が大勢居て薬が足りない状況なのに、さらに感染症が村を襲っている。鼠から直接怪我をした者は早くも熱病で苦しんでいるし、子供や高齢者なんかの免疫力が低い者も熱病に侵されるかもしれない。


「ニコールは居るか?」


 キャロお姉ちゃんの話を聞いていると、父が訪ねて来た。更に後ろからシオドリック神父、ドウェインの父親ジャクソン・ジェンクスも部屋に入って来た。


「ニコール君 火傷は大丈夫かね?」

「あ・・・ ジェンクスさん・・・ごめんなさい 僕・・・」


 突然入って来たジャクソン・ジェンクスさんに俺は謝る事しか出来なかった。


「確かにニコール君 君は過ちを犯したかもしれん ウチの息子にも問題があった 勿論親の私にも責任の一端がある」

「そんな事は・・・」

「村の状況は分かっているかね?」

「キャロお姉ちゃんから聞いてます・・・」

「村は怪我人だらけで食糧に深刻な被害が出た 薬も足りない 更に鼠のせいで感染症の恐れもある」

「確かに村は深刻だがニコールのせいじゃないぞ!」

「アーヴィング落ち着け」


 鼠の事も村の被害もまるで俺のせいだと言わんばかりに話をするジェンクスさんに、父が声を荒げて詰め寄るがシオドリック神父が父を宥める。


「このままでは冬を越えられないかもしれない だからダンヴァーズ辺境伯に助力を乞う事にした」


 この開発村を領地としてもつギャリー・ロドルフォ・ダンヴァーズ辺境伯に食糧や薬、人手を借りる事にしたらしい。


「ニコール君 君はダンヴァーズ辺境伯の所に行って貰う事になった 村の為だ許してくれ」

「な、何故だ! ニコールはまだ子供だぞ! 村を追い出される程の罪は無い筈! 奴隷としてニコールを差し出せと言うのか!」

「奴隷ではなく奉公と考えてくれ! ニコールはあの場に居なかった者以外の皆の目の前で力を使ったのだ! ウチのドウェインが吹聴してしまった事をあの場で体現してみせた!」

「それでも!」

「村の被害はこれから増すばかりだ 皆の悪感情を受けながらここに居ろと? 私はこの村を代理で管理する者としての責任がある!」

「だとしても!」

「父さん! ・・・僕 辺境伯の所に行くよ・・・」


 俺は2人の言い争いに割って入る。当事者は俺でジェンクスさんの言いたい事も分かる。このままでは父さんまでここを去らなければならなくなる。


「せめて俺もニコールと共に・・・」

「ならん! アーヴィング 人手が足りんと言ったはずだ」

「そんな・・・」

「辺境伯からの打診が来るまではこちらは何も出来ん それまでに怪我を直す為に養生しなさい 決してダンヴァーズ辺境伯の所へ行く事が悪い事にはならん」


 ジェンクスさんが部屋を出て行き、この部屋を沈黙が支配する。


「父さん ごめんなさい・・・」

「いや・・・ ニコールは早く怪我を直しなさい 父さんもう少しジェンクスに取り合ってみるよ」


 父が部屋を出て行きシオドリック神父とキャロお姉ちゃんが部屋に残った。


「すみませんね ニコール あなたは怪我人だと言うのに一方的に話をしてしまって」

「そんな事無いです・・・」

「ダンヴァーズ辺境伯の所へ行き もし魔法を習う機会があった時はハロルドから貰った形見の指輪のネックレスを外しなさい 今回の様に燃やすといけない」

「はい・・・」


 俺は薬を飲んだせいなのか、ジェンクスさんに話を聞いたからか分からなかったが胸が苦しくて仕方が無かった。体を丸める様にベッドに横になるとすぐに何もかも忘れる様に眠りへと落ちるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る