第18話


 熊が村に出没してから10日程経ったある日。いつもの様にデナード夫妻が管理する農場へは行かず、朝から父の狩猟の手伝いとして山菜を採りに来た。


 熊の件で、村の柵の強化を手伝っていた俺達だったがようやく解放された。警備団の調査も終わり、もう大丈夫だろうと言う事になった。あのハイイログマはやはり魔物化して魔獣となっていた。しかし、魔獣となって日が浅かったのか分からないが魔晶石は小さくそこまで強力な魔物では無かった様だ。


 魔物が歳月を重ね、魔晶石も大きくなるとより強力な魔物となる。どういった関係で野生動物が魔物化するかは分かってないが、新たに魔物化した魔獣も歳月を重ねると強力になる。


 この村も、もう少しで収穫の時期になりそれが終われば寒さが厳しくなってくる。冬になると俺の10回目の誕生日を迎えるが、親しい人と食事をしてささやかに祝う位だ。15歳の成人式、もしくは12歳で村を出て行く子供に祝いの席が用意される。


「ブギィー ブギィー」


 前日に仕掛けた物だろうか?トラップに掛かったイノシシが警戒して鳴いている。父は素早く足蹴にして転倒させると、柄の長い鉈と斧の中間の様な得物を持って刃の付いていない方で殴打する。絶命させたのか昏倒させたのか分からないが、静かになったイノシシの手足を縛り上げていく。3人の警備団の人を呼んでイノシシを担ぎ上げる。


「父さん達こいつを村の近くの処理場まで運ぶから ニコールはあんまり奥へは行かない様に」


 訓練場で訓練してた時、ランプリングさんの提案で子供達にも狩猟で得た獲物の解体を手伝わせると言う事があった。手本として一頭解体した後、子供達に指導しながら解体させる。内臓を取り出し皮を剥ぐ。関節を切断して開いていき、骨を取り外していく。2時間位掛けて皆で解体していくとクタクタになってしまった。ナイフだけじゃなく、肉切り用の鋏なんかもあり大変作業がしやすい。血抜きをし、泥汚れを綺麗にしていた為だろうか?吐き気を催すほど臭わず作業する事が出来た。


「うん! 分かったよ」


 3年前に魔法の入門書を買ってから冒険に役立ちそうなハウツー本や自然に関する本を買って実践するのが趣味になった。狩猟をしている警備団の父にも教わりながら山や森のサバイバル知識を広めていく。


 俺は秋に採れるキノコを数種類、イモ科の自然薯みたいな奴とサルナシやアケビやヤマブドウと言った山菜を籠に入れて採っていく。キノコ類は汁物にしたり、ヤマブドウは蜂蜜で煮詰めてジャムにすると村の人に喜ばれる。


 獣除けの鈴を鳴らしながら複数の場所へ巡り、少しずつ山菜を採っていく。籠もそこそこ重くなった頃、すぐそこの木の奥からガサガサと何かが動く音が聞こえる。ん?と思い振り返ると茂みに消えていく犬だかウリ坊の後ろ足が見える。何頭居るか分からないが数頭ゾロゾロと何処かへ行くのが分かる。獣除けの鈴に驚いたのかガサガサと遠くに離れていった。


(熊かと思ってドキッとしたよ・・・)


 昼にはまだ早いが、山菜はそこそこ集まったので切り上げて教会の手伝いに村へ戻った。


 村に戻り森や山で採れた山菜を教会に居るキャロお姉ちゃんに渡す。


「ありがとね ニコ」

「いつもお世話になってるからね 蜂蜜があるならまたジャムでも作る?」

「ん~ 子供達のおやつになるし お願い出来る?」

「うん!」


 取って来た果実を蜂蜜で煮詰めてジャムにすれば、子供達のおやつになるし飲み物に溶かせば凄く美味しい。


「ニコお兄ちゃん おかえり~!」

「ただいま ジャスミンちゃん 一緒にジャム作りする?」

「うん! あたしも作る~!」


 ジャスミンちゃんと一緒にジャム作りをして、終わったら子供達の面倒をキャロお姉ちゃんと見る。ジャム作りでジャスミンちゃんにつまみ食いされてしまったが、いつもの様にお昼まで楽しく過ごした。


 昼食を教会で食べて、訓練場に向かう。ようやく村外周の柵の設置が終わり普通の訓練に戻った。


「はぁー もうあの運搬作業をしなくて良いって考えると気が楽だー」

「あれは大変だったね」

「でもニコと特訓しといて良かったぜ」


 2人とも初日の運搬作業でヒイヒイ言っていたが、その日からやった魔法の特訓のお陰で大分ましだったとジミーが溜息交じりに零す。


「何か余計に疲れた気がするけど 運搬作業中は楽勝だったな」

「そうだね ・・・結局疲れるし余計にお腹も空いた様な気がするけど 普通に作業するよりはましだったのかな?」

「確かに 作業の後はすげぇ腹減ったな いつもの2倍は食ってたぜ」

「それは食べ過ぎでしょ・・・」


 運搬作業があって疲れてるのか最近ドウェインが絡んで来ない。普通の訓練に戻った今日も静かなもんで、魔女だ何だ言ったり絡んで来てたのは何だったのか…。


 訓練を終えて教会に居るジャスミンちゃんを迎えに行く。ジャスミンちゃんを迎えに行ったら森の手前の川に行き、釣りをしながらお喋りしたり魔法の練習をしたりするのがここ10日程の流れになっている。


「ニコお兄ちゃん! あたしも魔法覚えたよ!」

「おお! ジャス お前いつの間にそんな事を!」

「ジャスミンちゃん 凄いね!」

「えへへ~ 凄いでしょ! お兄ちゃん達にも教えてあげる~」


 ジャスミンちゃんが自慢げに顔を綻ばせている。


「どんな魔法なんだよ?」

「えっとね~ 持ってる物を熱くする魔法!」

「へー どうやってやるの?」

「ん~ 言葉じゃ教えるの難しいから 前にニコお兄ちゃんがやったみたいに教えてあげる!」


 そう言えば、あの時ジミーとジャスミンちゃんに教えるばかりでどんな風に伝わるのか自分では分からなかった。興味があったのでジャスミンちゃんにお願いしてみる。


「じゃあ ジャスミンちゃんお願い」

「ニコお兄ちゃんからね! いいよ~」


 ジャスミンちゃんが後ろに回り、俺の肩に手を置いて集中しだす。俺も目を瞑り自然体になって集中する。


「行くね!」


 掛け声と共に肩に置かれた手から何かが流れ込んでくる。


「おお!? ジャスミンちゃんの手が熱い!」


 これが、あの時2人が感じていた魔力の流れとでも言うべき物だろうか。ジャスミンちゃんの手から魔力を熱に変える何かが伝わってくる。ジャスミンちゃんが言う持ってる物を熱くすると言うより、自分自身が燃えさかるイメージと言うべきか?ちょっと違うイメージが流れ込んできてどんどん熱くなる。


「ん? 何かどんどん熱くなってるような・・・」

「ちゃんと伝わった? ニコお兄ちゃん」


 ジャスミンちゃんがグッと肩に乗せてる手に力を込めて掴んで来る。どんどん熱くなり焼ける様だ。


「あ、あ、あ、 熱い!? ジャスミンちゃん熱いよ!!」

「ご、ごめん! ニコお兄ちゃん!」


 余りの熱さに火でも点いたんじゃないかと思って、思わず川に飛び込む。


「アハハハ! 何やってんだよ ニコ!」

「笑い事じゃないよ~」


 ずぶ濡れになりながら川から上がって肩を見てみる。まるでアイロン掛けを失敗して焦げたようになってるし、捲ってみると赤くなっていた。


「張り手されたみたいになってんじゃん! ハッハッハ!」

「ニコお兄ちゃん ごめんね」


 ジャスミンちゃんが申し訳なさげにシュンとしょげかえっている。どうやらジャスミンちゃんは相手に伝えるのが上手くないのと、自身を熱源にする魔法を手に持った物を熱くする魔法と勘違いしていたみたいだ。魔法を伝える際、自身を熱源にする魔法を行使しながら肩に手を乗せてしまい俺はこの有様だ。


「でも早速役に立ったみたい」

「ハッハッハ ちげぇねぇ!」

「・・・便利だからジミーにもこの魔法を教えてあげようかな!! ジャスミンちゃんも手伝ってよ!」


 笑い転げてるジミーにも全くの善意からこの魔法を特別に教えてあげる事にした。感謝して欲しい。早速ジミーにしがみ付いて無理やり教えてやる。


「!? やめろよ! ジャスもやめろー!!」

「お兄ちゃん ごめんね」


 3人で揉みくちゃになりながら川に飛び込んで一緒に笑い合った。流石に風邪を引くので川から上がって3人で早速魔法を使う。


「っぶぇくしょん! 俺はあんまりこの魔法得意じゃないな・・・」

「僕もジャスミンちゃんほど熱くは無いかな」

「そうなの?」

「もしかしたら魔法の素質で見た属性の相性があるのかもな 俺は青でジャスは赤だったもんな」


 魔法の練習はこれでお終いにして、後は釣りをしながらお喋りをして今日も1日が終わりを告げようとしていた。


 3人で本当に冒険者になれれば素敵な事かもしれない。これから成長していく過程で他にやりたい事が見つかり、3人バラバラになってしまうかもしれない。しかし、こんな幸せな日々が俺達3人の糧になればこんなに嬉しい事は無い。そう思いながら家路に着くのだった。

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