第17話
今日は訓練場で着替えて教会に向かうのに、大分時間が掛かってしまった。これから数日は続く運搬作業やら何やらを考えると、更に足が重くなる気がする。
教会に着くと既にジャスミンちゃんが外で待機していた。待たされて相当ご立腹の様子だ。
「遅いよお兄ちゃん達!」
「無茶言うなよ こっちだって色々あるんだから」
「遅くなってごめんね ジャスミンちゃん」
プリプリと怒っていて可愛いジャスミンちゃんを宥めつつ、シオドリック神父に一言告げてからまた川のある森の入り口に向かう事にする。
「警備団の人が調査して何も無かったとは言え 森の奥には絶対に行かないで下さいよ」
「「はーい! 行ってきまーす」」
「いってらっしゃい 暗くなる前に帰ってくるのよ」
シオドニック神父とキャロお姉ちゃんに挨拶して森へ向かう。歩きながら「あれ」について話す。
3年前にやった魔法の素質の見極め。あの後、ジミーと魔法の練習と称した馬鹿な遊びをして風邪を引いたりしていたらジャスミンちゃんもこの仲間に加わって練習しだした。
やはり子供だけでやる魔法の練習なんて何の身にもならない遊びだったんだけど、クリスタルを使った素質の見極めの練習はまるで科学の実験みたいで面白く何度も練習していた。
最初はクリスタルを上手く光らせる事が出来ず、シオドリック神父にせがんで体内に流れる魔力を刺激して貰って感じ取る練習から始めた。魔力を感じ取り上手く光らせる様になったは俺が最初だったが、やはりクリスタルの輝きの大きさは変わらなかった。
そうして、3人ともクリスタルを自力で光らせる事が出来たら自分達だけでクリスタルに魔力を流し台座に刺して練習をしていた。しかし、教えてくれる人も居ないしこれが魔法だ!って事も出来ないしですぐに別の事で遊んだりして練習にならなかった。
森の手前で川遊びしたり、クリスタルを持って伝説の剣と言って英雄ごっこで遊んだりしていた。
「俺が伝説の勇者だー!」
「ジャスミンが勇者やる~!」
「えー女勇者かよ すぐ負けそう」
「そんな事無いもん! ニコお兄ちゃんはジャスミンのお嫁さんね」
「なんか違うよ・・・」
アハハハハと魔法そっちのけで遊び、疲れたらそこら辺に座って草笛なんかをしながらお喋りしてた。座りながらお喋りしていると、ジャスミンちゃんがうんうん唸りながらクリスタルを握っている。
「何やってるの? ジャスミンちゃん」
「勇者が出来る凄い事!」
勇者が出来る事って…何か抽象的すぎるな、と思いながら見ているとジャスミンちゃんがクリスタルを光らせだす。ジャスミンちゃんもクリスタルを光らせる事が出来るけど、安定せず明滅が激しい。
「ハハハ 凄い事って何だよ」
ジミーが茶化しながら草笛を吹く。ジャスミンちゃんが尚もうんうん唸りながらクリスタルを握っている。相当力んでいるのか顔が真っ赤になって来る。
「おいおい 大丈夫か?」
「ジャスミンちゃん 顔赤いよ?」
何かジャスミンちゃんの頭から湯気の様な物が出て来て、顔を真っ赤にして汗が凄い吹き出ている。ジミーがおい!と声をかけた瞬間、ジャスミンちゃんは座った姿勢から後ろに万歳のポーズでぶっ倒れてしまった。
「ジャスミンちゃん!?」
「ジャス! 大丈夫か!?」
俺とジミーは、すぐにジャスミンちゃんを助け起こしてシオドリック神父の元へと運んだ。幸い意識はすぐに戻ったけど熱が高い。治療院に運び解熱剤を飲んで落ち着いてくれた。
俺達はシオドリック神父とジミーの両親、俺の父に事情を話してこっ酷く怒られてしまった。本当に魔法を学びたいのなら、ちゃんと12歳になってからにしなさいと言われてしまう。
幸いジャスミンちゃんは熱や魔法の暴走による後遺症は無く、また元気に俺達と遊ぶ事が出来た。それからは魔法の練習は3人ではやっていない。…俺は自宅で魔法超入門を読んでこっそり練習していたんだけどね。
「ジャス あの時みたいに魔法の暴発でぶっ倒れたりすんなよ」
「そんな事しないよ! あたしもお兄ちゃんと一緒でニコお兄ちゃんに本読ませてもらったもん!」
ジミーもそうだけどジャスミンちゃんもあのぶっ倒れた件から魔法の練習は控え、魔法の入門書を読んでクリスタルを安定して光らせる練習だけに留まっている。
「でも俺達だけじゃ魔法の特訓なんて出来ないぜ?」
「僕考えたんだけど シオ神父の時みたいに誰かに補助してもらえればもしかしたら出来るかもって考えているんだ」
「神父様が居なくても もうクリスタル光らせるよ?」
ジャスミンちゃんがクリスタルを光らせてみる。確かに俺達だけでもう安定してクリスタルを光らせる事は出来る。
「違うよ 僕がやってる体の強化をジミーやジャスミンちゃんの体に伝えてみるんだよ」
「あー なるほどね」
「あたし良く分かんなーい!」
「じゃあ ジャスミンちゃん試してみようよ」
うん!と元気良く頷くジャスミンちゃんに説明する。
「まずクリスタルを光らせるみたいに魔力を集中してみて」
「やってみる!」
ジャスミンちゃんが目を瞑り、自然な体勢になって魔力を集中させる。そこに後ろからジャスミンちゃんの肩に手を置き俺も一緒に集中する。
「魔力を集めて体にくっ付ける様な 体に纏わせて筋肉をかさ増しする様なイメージで集中してみて」
暫くするとジャスミンちゃんが何かを掴んだのか喋り出す。
「あー 何か体がポカポカするかも」
「おいおい 大丈夫なのか? またぶっ倒れそうなら止めとけよ」
「大丈夫 ・・・何か分かったかも!」
「まじかよ」
手を放して集中するのを止める。ジャスミンちゃんが倒れる様な事はなさそうだ。まるで初めて泳げる様になったり、自転車に乗れる様になったみたいに燥ぐ。
「ニコ! 俺にもやってくれよ!」
「良いよ」
ジミーも後ろを向いて集中する。ジミーの背は高いから肩に手を置いたら集中しにくそうだな…俺はそう思って腰と言うか脇腹に手を置いた。
「ブハッ! ニコやめろ! くすぐったいよ!」
「ごめんごめん」
「背中にしろ! 背中に!」
俺は言われるまま、背中に手を置いて一緒に集中する。ジミーも笑いを堪えながらも集中する。
「お? おおおっ!?」
「お兄ちゃんも分かった?」
「何か不思議な感じだ ジャスが言う様に温かくないな 寧ろ冷やされて癒される様な・・・」
「お兄ちゃん出来て無いんじゃない?」
何だと!と言うとジミーがジャスミンちゃんの頭をアイアンクローの様に鷲掴みにする。
「ニコお兄ちゃん助けて~!」
ジャスミンちゃんがキャーキャー言いながら助けを求めて来る。
「しかし 何なんだろう? ジャスの言ってる感じと俺が感じたのは全然違うな」
「僕も2人とは違う感じなんだよね」
「ん? じゃあ2人とも失敗したのか?」
「分からない」
「でも 何か体に纏わり付いてる感じはあるよ?」
「んー やっぱり教えてくれる人が居ないとなぁ」
3人してうーん?と唸ってしまう。今日はもう暗くなってきたし早めに帰ろうという事で、俺達3人は家路に着いた。
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