第15話
「まるで自分の手柄の様に言い触らしてるみたいだな ニコール」
警備団のおっちゃんに釣り竿の事を頼んだ後、今日はどうしようかとフラフラ歩いていたらドウェイン達に会ってしまった。また難癖付けてくる気みたいだし、うんざりする。
「何の用だ ドウェイン」
「なーに お前等のせいで村中パニックで怪我人も出たのに 一丁前に熊退治の英雄にでもなった気で居やがるからよ」
「僕達にそんなつもりは無いよ」
「そーよ! あたし達は悪くないし ニコお兄ちゃんに助けられたのも本当でしょ!」
ジャスミンちゃんがドウェインに食って掛かる。
「助けただぁ!? こいつは真っ先に俺達を置いて逃げたじゃねぇか!」
「村に助けを求めただけだ! ニコなら俺達の誰よりも早く大人達に知らせる事が出来たからな!」
ジミーがあの時のやり取りをドウェインに言うが、まるで聞く気が無い。
「魔女の子供の癖に・・・お前が村にあんな化け物を呼び寄せたんだよ!」
「な、何言ってんだ? 魔女?」
「お前等は知らないからそんな奴と付き合ってられるんだよ!」
ドウェインが何の事を言ってるか分からないが、どうせ禄でも無い言い掛かりだと思っていた。英雄譚などの話でも時々魔女だの魔人と言った単語が出て来るが…。
「すぐに化けの皮剥がしてやるから覚悟しとけよ!」
ニックとチャーリーも困惑顔でドウェインに続いて去っていく。本当にどうしたと言うのだろうか…前までドウェインはあんな感じじゃなかったのだが。最近の妙に突っ掛かって来てたのはこの話と何か繋がりでもあるのだろうか?
「何だったんだ? ドウェインの奴・・・」
「ニコお兄ちゃんが魔女な訳無いじゃない! だってニコお兄ちゃん男の子だもん!」
「ジャスミンちゃん・・・なんか違うけど ありがとう」
ジャスミンちゃんが見当違いなフォローをしてくれる。ドウェインの様子が変だった事と魔女の話は関係あるのだろうか…。
俺は嫌な気持ちを抱えたまま今日を終え、家路に着いたのだった。
いつもの事だが教会で食事の世話になり、自分の家へと帰る。今日はいつもより遅く父が帰って来た。熊の件があってゴタゴタしていたのだろう。
「ただいま ニコ」
「父さん おかえり~」
「昨日と今日は散々だったな 今日も疲れたよ」
教会で作って貰った食事を温め直して、父が遅い食事を摂る。
「いやーリーリー神父には世話になりっぱなしだ 今度改めてお礼しに行かないとな」
「僕が言っておいたよ」
「ハッハッハ ニコも済まないな なかなか構ってやれなくて」
父も民家を直したり柵の再設置と強化、警備団の巡回なんかをやっていたのだろう。昨日の騒ぎと今日の仕事で少し疲れた顔をしている。
「今日ドウェインに変な事言われたんだけど・・・」
「変な事?」
「魔女の子供だなんだって・・・」
「ドウェイン・・・ジェンクスの所の悪ガキか」
父は少し思案してから俺に色々教えてくれる。
「魔女ってのは母さんの事を言ってるのかな?」
「たぶん・・・」
「母さんは不思議な人だったからなぁ 父さんも母さんも殆ど同じ時期にこの開拓村に来たんだが母さんは治療院で薬師をしていてな」
俺の知らない母の事を語る父は何処か悲しそうな表情をしている。
「父さん実はここに来るまで冒険者をしていて それなりに活躍したんだがここで母さんに出会って一目惚れしてしまってな」
「そうなの? 父さん冒険者だったんだ」
「ああ とても綺麗な人でな 増えすぎた魔物の討伐依頼でこの開拓村に来たんだがその討伐依頼で父さん怪我をしてしまったんだ」
「大丈夫だったの?」
「母さんの作ってくれた薬ですっかり元気さ! 薬師の知識だけじゃなくて色んな事についても詳しい人でな 俺の冒険の話を嬉しそうに聞いてくれたよ」
食後の晩酌で普段より饒舌な父は、あの時はここに残ると言ってパーティーと揉めたなぁと昔を懐かしむ様な、それでいて悲しむ様な顔で俺に語ってくれる。
「確かに魔女だったのかもなぁ・・・まるで運命に縛られた様な出会いだったからな・・・あの時みたいな魔物もそれ以来見た事無いし 綺麗なまま年取らなかったし・・・アンジェラ・・・うぅ・・・」
とんでもない事まで言い出す父。どうやら相当酔ってきているらしい。
「今日はもう疲れたでしょ? ゆっくり休んでよ」
「あぁ そうさせてもらう・・・」
「母さんの話聞けて嬉しかったよ おやすみ 父さん」
「おやすみ ニコール」
母さんの昔話をして少しヒートアップしたのか、酩酊しだした父を早めに寝るよう促した。村の人達の手助けがあったとは言え、男手一つで子供を育てるのだ父も大変だっただろう。
顔も知らない母の事を考えながら俺は眠りについた。
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