第14話


 一夜明け、村の様子は熊騒動で興奮冷めやまぬ事態になっていた。


 俺とマクレガン兄妹、ドウェインとニックとチャーリーの計6人は朝から警備団の建物に集まっていた。


「訓練場からの事は以上だよ トニー先生」

「ドウェイン ニック チャーリー・・・お前達はまったく懲りて無い様だな」


 ランプリングさんが呆れ顔でドウェイン達に溜息を付く。俺は昨日の訓練場からの詳しい事をランプリングさんに話した。


「昨日のハイイログマはどうやら村の近くの森まで山から下りてきた個体の様だな」

「餌を求めていたのか分からんが 山からここまで来て狩猟の為に設置していたトラバサミに掛かった様だな 怒り狂って正気を失ったのかお前達を見つけて追いかけて村まで来てしまったのだろう」

「・・・ニコールが考えたトラップに掛かった熊? ニコールのせいで俺達死にそうになったのかよ!」


 ランプリングさんと父の話にドウェインが変な方向に話を考えて俺にキレだす。


「トラップに掛かったおかげでお前達は逃げ切る事が出来たんだぞ」

「足を怪我していなければハイイログマの速さに人間は太刀打ち出来ん お前達は今頃熊の腹の中だな」

「・・・」

「何にせよお前達が無事で良かった 負傷者は出たが死者が出なかっただけ良しとしよう」

「朝から済まなかったな 話はもういいから帰っていいぞ しかし今日は村からは出るなよ」


 他にハイイログマか、似たような大型動物が村の周りに居ないか調査するみたいだ。村からの外出を制限して熊の解体と村の修繕作業に追われている。


 俺はジミーとジャスミンちゃんを連れ、教会に行って昨日の事件を語る事にした。


「昨日は本当にやばかったな」

「あたしもうダメかと思ったよ~」

「あんな化け物見るの初めてだったしね」

「皆無事でよかったわ」


 教会でシオドリック神父とキャロお姉ちゃんに昨日有った事を話していた。


「最近は大規模な開墾も無かったし 大型動物のテリトリーを侵す事も無かったんですけどね」

「1年で1回有るか無いかの大事件だったわね しかも3メートルもあるハイイログマだなんて」

「魔物だったのかな?」


 シオドリック神父に質問する。警備団でも調査中と言われて気になっている事だ。


「どうなんでしょ? 熊ともなると普通に魔物と引けを取らない大型動物だよね」

「魔物は野生動物が魔物化して魔獣になったものや 魔力を持った特有の生き物だと聞いています」


 シオドリック神父とキャロお姉ちゃんが色々教えてくれる。色々な魔物が居て詳しい事は分かって無い事、魔物は魔晶石と呼ばれる物を必ず体内に持っている事位しか分かっていない。勿論魔物と言ったら凶暴な生物だと言う認識は間違っていないが、必ずしも全てと言う訳でもないらしい。


 家畜化に成功した例があり、そう言った魔物は魔益獣・魔益虫として人類と共存している。しかし、そう言った益獣・益虫の魔物と言えど家畜化されていない魔物は凶暴でテリトリーを侵した者を容赦したりしない。


「大型の個体だったのか 或いは魔物化した魔獣で巨大になったのか・・・」

「ニコが知らせてくれなければここまで被害を最小限に抑える事も出来なかったでしょう」

「ニコお兄ちゃんのお陰であたし達も助かったしね!」


 キャロお姉ちゃんが俺の頭をワシャワシャと撫でて来る。えへへと笑っているとジャスミンちゃんも負けじとナデナデしてくる。


「あっ・・・そう言えば俺達釣り竿忘れて来てたよな」

「あの川の所に放り投げて逃げて来たんだよね」


 死に物狂いで逃げて来たのですっかり忘れていた。ジミーに指摘されどうするか思案していると。


「今子供達だけで取に行くのは危険ですからね 村から出ない様に言われてますし」

「警備団の人にお願いして取って来て貰えば良いんじゃない?」


 キャロお姉ちゃんが良い案を言ってくれる。俺達はシオドリック神父達に挨拶をして警備団の人にお願いしに行く事にした。

 

 村は焦げた臭いと獣を焼いた臭いで充満しているし、柵や家屋の解体や再建で慌ただしい。


 教会を後にして警備団の建物に向かっていた俺達はいつも訓練場に居る団員のおっちゃん達に話しかけられた。村の中を巡回していたらしい。


「ニコ坊じゃねぇか!」

「「こんにちは」」

「聞いたぜ ニコ坊のトラップで足に怪我を負ってたらしいじゃねぇかあの熊公は」

「ニコお兄ちゃんのお陰なの!」


 ここでもジャスミンちゃんが俺の頭を撫でて来る。こんな往来ではちょっと恥ずかしい。


「ハッハッハ! ちげぇねぇ!」

「あのハイイログマを見た時は死ぬかもしれないと思ったからな」

「怪我した団員は運が無かったが死ぬよかましだ」

「ありがとよ!」


 俺は照れて笑っていたが、釣り竿の事を思い出したのでおっちゃんに釣り竿の事を頼む事にした。


「森に入ったすぐの所の川に釣り竿を置いてきちゃったんだけど」

「そうそう 慌てて逃げたからまだあそこに置きっぱなしなんだ」

「そうか 午後になりゃ俺達が外の巡回に行ってくるから その時ついでに取って来てやるよ」

「「ありがとう!」」

「ハハッ 良いって事よ んじゃ後で届けるからな」


 おっちゃん達は笑って快諾してくれた。警備団の人に頼めて良かったねとジミーとジャスミンちゃんと笑っていると嫌な奴に出くわしてしまった。

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