第13話
皆でクタクタになりながら村に戻ると村の人が慌ただしく駆けていた。あんな見るからにヤバそうな獣が居る世界だが、この開拓村で避難訓練なんて一回もやった事は無い。警備団の人が手分けして村の警護に当たり、巡回中の警備団員を呼び戻して備えていた。
「村人全員を警備団の建物に集めたら 男手を村を守る班と外を捜索する班に分ける トニーが戻り次第捜索を始めるから警戒を怠るなよ!」
川がある森の方と伝えていたからか、父が指揮している警備団が村の入り口付近に待ち構えていた。
「父さん!」
「ニコール! お前達無事だったか!」
「ハロルド 村にはまだ熊は来てない様だな」
父に駆け寄ると、皆の無事を喜んでくれる。こんな大事になって不安だが皆と無事に村まで戻れた事で少し安堵する事が出来た。
「まだ確認はして無いが500㎏クラスの化け物なら無暗に刺激したくないな・・・」
「火と油を用意してるからな 村から明かりを絶やさない方が良いだろう」
「すぐ夜になる・・・子供達を避難させたら村の人を集めて・・・」
「キャァァアアッ!!」
ランプリングさんが言葉を言い終わる前、村に悲鳴と物が壊れる音が響き渡る。村と村の外を隔てる簡単な柵が侵入者によってバキバキと壊される。
入口の近くに居た俺達に、悲鳴と破壊音によって戦慄が再び襲い掛かる。素早く反応する父とランプリングさんが叫ぶ。
「お前達は決して近づくなよ! ドウェインは警備団に知らせに走れ!」
「警備団は火を持って俺に続け! 魔獣化を考慮して挑む! 弓か槍で等間隔で囲み牽制 決して近づくなよ!」
柵を超え、とうとう村に侵入した者が姿を現す。柵を押し倒す形になり、立ち上がった姿は3メートルは超える巨体である事が伺える。
「ガルゥァアアアッ!」
警戒していた警備団の隊員が騒ぎのある柵の辺りに集結する。槍と松明を構えた隊員が取り囲む。
「で、デカい!!」
「ハイイログマなのか!?」
炎と人に取り囲まれた事に興奮したのか、威嚇の鳴き声を上げるハイイログマ。
「まず足を撃って動きを鈍らせろ!!」
ランプリングさんの掛け声と共に、いつの間に上ったのだろう弓を構えた隊員が民家や櫓の上からハイイログマを見下ろす陣形を執って矢を射かけていく。怯んだ所に数人の警備団員が槍を投げかける。
「ガァアッ! グガァアッ!」
「今だ! 油を投げろ!!」
父の声で槍と松明を持った隊員の隙間から前に出て、油を入れた鍋をハイイログマにぶちまけていく隊員。そして、入れ替わる様に松明を投げる。
「ギャァァアアッ! グガァァアッ!」
ハイイログマの体に炎が燃え移り、滅茶苦茶に暴れ出す。槍を持って囲んでいた隊員に突進し、数名を吹き飛ばし近くの民家に激突する。
「負傷した隊員を下がらせろ!! 止めを刺すまで油断するな!!」
炎と弓矢の攻撃に堪らず暴れ出したハイイログマにやられ負傷した隊員を庇いつつ、民家で沈黙したハイイログマに止めを刺す。民家が半壊半焼と数名の警備団に被害を出してしまったが、不幸中の幸いで死者を出す事は無かった。
「魔物化したハイイログマだったのか? それにしては被害が少なかったが・・・」
「これから熊を解体して調べる事になるな」
本格的に暗くなる前に今回の件が片付いて、村人達の緊張も少し和らいだ。しかし、今日一杯は警戒する事になり見張りを立て交代で番をする事となった。
民家と熊を焼いたせいで臭いが村全体に広がっているが、解体と詳細の報告は明日にする事になり恐ろしい喧騒の一日は幕を閉じた。
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