第12話


 ジミーとは良く一緒に行動してたが、3年前の魔法の素質を調べた辺りからジャスミンちゃんとも一緒に行動するようになりジミーとジャスミンちゃんのマクレガン兄妹と俺で3人一緒に仲良く行動するのが殆どになった。


 開拓村は山と川に面した立地に密集した森を切り開く形で形成されている。木材や野生動物の素材、鉱石や薬草の群生地等を保護しそれを村の糧としている。切り開いた土地を農地や居住地にし、少しずつ少しずつ育っている村だ。


 この村に骨を埋めたがる若者は少なく、家を継げる人手以外は村を出て行く事となる。俺とジミーとジャスミンちゃんは、将来は冒険譚に出て来る様な冒険者になろうと語り合っていた。子供の夢で一緒に実現できるか分からない物だが、同じ物を目指す仲間が居るのはとても心強くて心地良い。


「それじゃ今日も誰が一番か競争だ」

「ニコお兄ちゃんには負けないよ!」

「僕だって今日こそは勝つよ!」


 鍛冶師のおっちゃんにトラップと一緒に作って貰ったものがもう一つある。それは釣り竿だ。この村に限った話かもしれないが、隣接した川で魚を獲る方法は銛で突くか網や木の枝で作る囲い罠で獲るかの二択だった。


 魚を銛で突いた事も網で獲った事も無いから分からないが、釣りなんて効率の悪い事はしないのかもしれない。しかし、子供達の間では人気ですっかり定着していた。大人達も子供が森の深くまで行く訳では無いし、偶に食糧として魚を獲って来るのだ。悪い様には言わないが1人で釣りに行くなと注意するに留まっている。


 そんな訳で今日もジミーが競争だと言って、3人で釣りを始める。ジミーは釣りが上手く、いつも俺かジャスミンちゃんのどちらかが熾烈なビリ争いを繰り広げている。別に1位だからビリだからとご褒美が有ったり、罰が有ったりする訳じゃ無い。子供特有の無邪気な遊びだ。多く獲れれば親に褒めて貰えるし、それがご褒美って所だろうか。


 夕方になりポイントを森の方へ移動する。そこに思わぬ珍客が訪れる。


「ワッワッワッワン! ギャァァアッ!」


 猿に似た野生動物が警戒する様に大声で喚きながら森を村に向けて移動して来ている。もう少し森の奥に行かねば見る事も無いマダラオキツネザルだ。狐の様なフォルムの顔に斑の大きな尻尾が特徴のキツネザルだ。


「珍しいなこんな森に入ってすぐの所にいるなんて」

「マダラオキツネザルだよね」

「すっごい警戒してるみたいだけど 大丈夫かなお兄ちゃん?」


 釣りを止め、辺りを見回しているとまた珍しい客が現れる。こんな所で普段は会わないんだが…大体想像は付くが一体何の用なんだろうか。


「ニコール!まだ怪我の事謝って無いよな!」


 ドウェインがこんな所に来てまでまだ俺に絡んで来ていた。勿論ニックとチャーリーもニヤニヤしながらドウェインに付いて来て居る。あんまり良い状況では無い気がする。訓練場でランプリングさんみたいな分別ある大人が止めてくれる訳では無いし。


「訓練場で謝ってたらもっと穏便に済ませてやろうと思ったのによぉ」

「やめろよ! そっちが原因で勝手に怪我したんだろ!」

「ジミーお前生意気な口利いてんじゃねぇぞ!」


 ジミーにニックとチャーリーが詰め寄り胸倉を掴んでくる。


「謝るから喧嘩はやめてよ!」


 慌てて俺がドウェインに謝り、この場を穏便に済まそうとするがそう上手くは行かない。


「度胸が無いなぁニコールは!簡単に謝って情けなないと思わないのかよ!」

「ドウェインは僕に謝って欲しいんじゃ無いの?」

「あ? 舐めた口利いてんじゃねぇよ!」

「やめてよ!」


 ドウェインに胸倉を掴まれ殴られると思ったその時。


「ガァァァアアッ!!」


 バキバキとすぐ近くの森から音が聞こえ、続いて獣の雄たけびが聞こえてくる。俺達が居た川のほんの100メートルも無い森の中から体長3メートルを超えるであろう巨大な熊が現れた。


「キャァァア!」

「は? やべぇえ!!」

「嘘だろ!!」


 ドウェイン達が俺達を突き飛ばす勢いで離れ、叫びながら村の方へ一目散で逃げる。俺達も慌てて釣り具も魚を入れた籠も回収せず、ドウェイン達を追いかける様に必死に走り出した。


「やばい! このままじゃやばいよ!」

「ニコ! お前全力で走って村の人達に伝えろ!」


 デカい熊は涎を撒き散らしながら走ってくる。動きがおかしく、思ったより速くは無いが常軌を逸した雄たけびを上げながら一心不乱に追いかけて来ている。


「でも! それじゃジミーとジャスミンが!」

「お前だけならドウェインや俺なんかよりずっと早い! ジャスは俺が面倒みるから大人達に伝えろ!」

「うん!」


 俺は短く返事をすると全速力で走る体に集中もへったくれも無いが、とにかく魔力を巡らせて筋力をかさ増しする。あっと言う間にニックやチャーリー、ドウェインを抜き去り村を目指す。


 今の体で出せる限界を魔力でかさ増しし、死ぬ気で走り抜いた5分間は恐ろしく長く感じた。ジミー達は大丈夫なのだろうか?このまま村に逃げて大丈夫なのだろうか等、酸欠気味の頭で走っている最中考えていた。


(それでも俺達にはどうする事も出来ない! 早く村の大人に伝えなきゃ不味い!)


 ようやく村が見えた瞬間、急激に体が重く感じる。興奮状態で疲れや苦しさを感じていなかったのだろう。それでもやばいやばいと頭の中の警鐘は収まらない。吐きそうな位苦しいし、村に着いた安心感は微塵も感じられない。


 村に入ってすぐに警備団の建物に転がり込む。すぐに数人の警備団のメンバーと談笑していたランプリングさんを見つける事が出来き、大声で助けを求める。


「助けてトニー先生!!」

「どうしたアーヴィング? ドウェインにまた絡まれたか?」

「違うよ! 熊が村に来ているんだ! ジミー達がやばい!」

「何!!」


 俺は酸欠の頭で混乱していたが、手短にランプリングさんに事情を伝えた。すぐに緊急事態だと察してくれたランプリングさんが近くに居た他の警備団員に指示を飛ばす。


「お前はすぐにハロルドの所へ行って応援と熊退治をする準備をしろ! 魔獣の可能性もある!」

「わ、分かりました!!」


 すぐ横の警備団員に指示を出すと、男は一目散に奥へと走っていく。


「連絡係を一人残して他の者はすぐに村人の避難を!」

「「了解しました!!」」

「よし! 俺はジミー達を迎えに行く! ニコールお前が案内しろ!」

「分かった!」


 ランプリングさんが槍を2本と弓を装備してすぐに警備団の建物を後にする。俺は悲鳴を上げる体を無視して再び元来た道を走り出した。


 村を森の方へ向かって出た所でドウェイン達の姿が目に入った。息も絶え絶えフラフラになりながらやって来た3人が罵声を浴びせてくる。


「ハァハァ 俺達を置いて逃げてんじゃねぇよ!」

「ふ、ふざけんなよ!」

「ニ、ニコールてめぇ・・・」


 ジミーとジャスミンちゃんも少し遅れて俺とランプリングさんに出迎えられる。


「ニ、ニコ・・・それにランプリングさんも・・・」

「ニコお兄ちゃん!」


 ジミーはジャスミンちゃんを引っ張ってきたせいかフラフラだ。ジャスミンちゃんは泣きながら抱きついて来る。


「みんな無事だったんだね」

「ここでへたり込むな! すぐ村まで避難するぞ!」


 フラフラのジミーに代わりジャスミンちゃんを庇いながらすぐに村まで引き返す。


「熊が村に入るのだけは避けなくては・・・村に戻ったら追い返すか討伐しなくてはならん お前達は村に戻り次第警備団の建物に避難しろ」


 ドウェイン達3人と俺達3人はランプリングさんに付き添われて、フラフラになりながらも村へ帰る事が出来た。

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