第11話


「ニコールてめぇ聞いてんのかよ!」


 俺はあれから魔法の入門書を穴が開く程調べ、書いてある事を実践していった。クリスタルに自分で魔力を注ぎ安定して光らせる練習を毎日したり、簡単な補助魔法を繰り返し練習したりしている。


 しかし、どんなに練習しても初級として紹介されているウォーターボール・エアストプッシュ・ファイヤーエアブローが使えない。ウォーターボールは水の小球を作り出し対象に向けて放つ魔法。エアストプッシュは空気の塊を作り出し対象を押し出す魔法。ファイヤーエアブローは熱風を持続的に対象に向けて放つ魔法。どれもイメージしやすし、簡単に出来そうな気がするんだが上手く魔法を発動出来ずにいた。


 体内に巡る魔力の流れを感じ取り、それを物理法則に則って魔力を体内で変換して発動させようとしているのだが…。まるで物を上手く呑み込めずに喉に詰まらせているような、吐きたいのに上手く喉を通って吐き出せないような。そんなもどかしさに苛まれ、魔法の練習は芳しくない事になっている。


 それでも同じ初級の魔法で、体の補助をする魔法は上手く使えるようになってきた。一時的に筋力を上げて腕力を上げたり足を速くしたり、一時的に体を軽くして身軽になったり、多少の切り傷や打撲だったら自然治癒力を高めて怪我や疲労を早く治せたり。しかし、攻撃魔法に分類されるだろう魔法の発動が全く上手く行かず途方に暮れていた。


 余りに上手く行かないのでジミーに手伝って貰って、川に行って水をぶっ掛けて貰ったりぶっ掛けたり、板を使って扇いだり扇がれたり、火を起こして熱風に当たってみたり…二人して風邪を引いて寝込んでみたり…。ジミーには悪い事をしたが、かなりの迷走を繰り返していた。


 そんな行き詰まりにアドバイスをくれる人は村の中には居ないし…。シオドリック神父は上手く教えられないと申し訳無さそうにしていた。


「ドウェインさんがお前のせいで怪我したんだぞ!」

「詫びの一つも無いのかよ!」


 俺は前世での杉本 圭介の人生を終え、この異世界で新たにニコール・アーヴィングの名前を授かり今年で9歳になりもう少しで10歳になろうとしていた。


 先程から何やら身に覚えの無い事で絡まれていた。お前等本当に子供かよって体格の3人組がさっきから俺に難癖付けて絡んで来ていた。


 この開拓村を領地に持つ現当主ギャリー・ロドルフォ・ダンヴァーズ辺境伯が、開拓村の管理を任せているのがジャクソン・ジェンクスだ。ジャクソンさんは超現場主義の土木建築の監督みたいな人で、頑固で怒りっぽいがリーダーシップを発揮して開拓村のリーダーとして常に村人から慕われている。


 その息子のドウェイン・ジェンクスが取り巻きのニック・リフキンドとチャーリー・エルマンを連れて、訓練場で訓練を終えて着替えをして帰ろうとしていた俺を捕まえ絡んできた。


 ニックとチャーリーは正に虎の威を借る狐と言った悪ガキで、辺境伯の名代として村を任されているジェンクスさんの息子に取り入ってデカい顔して威張り散らしてる奴らだ。


「何の話なの?」

「惚けんなよ! おめぇが設置したトラップでドウェインさんが足と頭に怪我してんだよ!」

「トラップの所にマーカーがあったはずだし 僕が置いたトラップって畑にあるやつじゃ・・・」


 お世話になってるデナード夫妻が管理する農場が害獣に悩まされていると聞いて、鍛冶師のおっちゃんと相談してトラップを作って森と山に面している所に設置していたのだ。


 イノシシなんかの害獣は柵を壊したり柵の下に穴を掘って入ってきてしまうから電気柵なんかがあれば手っ取り早いんだけどそんな物ないし、丈夫なロープで踏み抜くと足に絡まるトラップを作って貰って設置しておいた。他にも簡単に出来る鳴子なんかを設置したりしていた。


 トラップついでにトラバサミ等の危険な奴も一緒に開発して作って貰ったんだが、人が掛かってしまっては危ないという事でトラップを設置する際には赤いマーカーも一緒に設置する事が決まっていた。


 試してみて分かったが落ち葉や草なんかでカモフラージュしていると本当にどこにあるのか分からなくなり、狩猟と村の警備の為に置いたトラップで村人に怪我人が出たら洒落にならないと言う事で子供を含めて村人全員に知れ渡っていた。


 しかも、畑に忍び込もうとしなければトラップに掛かる事なんて無いと思うんだけど…。


「もしかして畑に何か盗みに行ったんじゃ・・・」

「うるせぇよ! お前には関係無いだろ!」

「ニコールお前チビの癖に最近調子に乗ってんなぁ」


 俺より2歳年上の11~12歳の3人、こいつ等本当に小中学生って感じがしないな…。別にこの異世界で小学生なんてないんだけど。


 俺はあれから3年も経つのに全然背が伸びない。確かに前世の記憶から考えてこの異世界の食事はそこまで美味しい訳では無いが、食べてない訳じゃ無い。父はなかなか背も高いし、体格も良い。正に狩猟と警備団のまとめ役って感じだ。母もどうやら父と同じ位の背丈だったらしい。


「ニコは関係無いじゃないか!」

「そうよ! ニコお兄ちゃんは悪くないわ!」


 ジミーとジャスミンちゃんが助け舟を出してくれる。2人も幼さは残っているがジミーは逞しく、ジャスミンちゃんは可愛いから少し綺麗になった。


「ニコールお前いっつもジミーやジャスミンに守って貰ってるなぁ」

「ジミーもジャスミンも子守は大変だよなぁ」


 ドウェイン達が尚も俺に絡んでくる。最近やたらと絡んで来る事が増えた気がする。


「お前等元気だな! そんなに訓練が生温い様なら全員纏めて追加で鍛えてやるか?」


 子供達に訓練を教えているトニー・ランプリングさんが仲裁に来てくれる。


「ドウェイン ニック チャーリーお前等は特に元気そうだな!」

「ランプリングさん・・・そんな訳じゃ無いけどさ ドウェインさんが怪我したからさ」

「大方ドウェイン達3人の不注意なんだろ?」

「ニコールが置いたトラップが・・・」

「いいからもう行け!」


 トニー・ランプリングさんに促されドウェイン達3人は渋々離れて行った。


「ドウェイン達は仕方ないな・・・お前達も大概だがな」

「あたし達は悪くないもん!」

「そうだな 最近やたらとドウェイン達が絡んで来るしな」

「僕 何かしたかな?」


 ドウェインは名代ジャクソンさんの息子で前からガキ大将みたいなやつだったが、2,3年前から妙に俺に突っ掛かってくる。


「ニコお兄ちゃんはとっても良い子だよ!」


 ジャスミンちゃんの頭を撫でてあげる。えへへと笑う顔が可愛い。背も俺と同じか少し高いかも…。これじゃどっちが年上か分からないじゃないか。


「お前達もさっさと帰って家の手伝いでもしなさい」

「「はーい」」


 俺達3人は着替えて訓練場を後にするのだった。

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