第9話


 魔法の入門書の留め具を外して開いてみたら、中は本の半分が何かを入れる箱になっていた。


 箱の中には組み立て式のクリスタルの短剣の様な物とクリスタルの短剣を突き立てる台みたいな物が中に収められていた。こいつのお陰でこんなにデカくて重い本になっていたのか…。


「なんだこれ? 短剣?」

「なんだろうね?」


 クリスタルを取り出しながら箱の中に入っていた取扱説明書を読んでみる。柄になる方にこいつを巻き付けて、柄の部分になるこれを嵌め込むっと。俺はグルグルとクリスタルに布を巻き付け柄を嵌め込む。20センチはあるクリスタル製短剣の出来上がりだ。取りあえず一緒に入っていた台座に刺してみる。


「お~なんかカッコいい!」

「この短剣みたいなのをどうすればいいんだろう?」


 こう言うのは手順や心構えが大切な気がするから本をよく読んでみる。何々?魔法の練習には予め同伴者を伴い、未成年だけで行わないようにと注意書きがされている。


(花火か何かかな?)


 まず、本に収納されているクリスタルによる素質の見極めを行う。柄となる方を上にし両の手で持ち、クリスタルが安定して光るまで魔力を注ぎ集中する事。


「子供だけでやるなって書いてあるね」

「う~ん どうすっかなぁ」

「シオ神父の所でやる?」

「そうだな ジャスの奴も迎えに行かなきゃいけないし」


 俺とジミーは荷物を纏めて、シオドリック神父の所へ行く事にした。


 終始ジミーと冒険譚に出てくる英雄の魔法について喋りながら教会へ向かっていた。魔法の話はテンションが上がるな。俺はやっぱりエインズワース冒険譚に出てくるユージーンが使うような派手な攻撃魔法を使ってみたい。


 色々と想像を膨らませながらシオドリック神父が居る教会に到着した。中に入るとキャロお姉ちゃんが子供達相手にバタバタと忙しなく動き回っている。


「キャロお姉ちゃん ただいま~」

「こんにちは キャロリーナさん」

「おかえりニコ こんにちはジミーくん ジャスミンちゃんが待ってるわよ」


 教会に入ってキャロお姉ちゃんに挨拶して、ジャスミンちゃんが居る奥の部屋へと入っていく。


「ジャスー 迎えに来たぞー」

「あ お兄ちゃんだ~ ニコお兄ちゃんも居る~」

「こんにちは ジャスミンちゃん」


 ジャスミンちゃんが嬉しそうに飛びついてくる。頭を撫でると、キャッキャと笑ってくれる。


「ジャス ニコが面白い物持ってきたぞ」

「ほんとぉ? ジャスミン面白いの見たい~」

「シオ神父の所に行って 早速試してみよう」


 シオドリック神父は別の部屋で子供に勉強を教えているみたいだ。


「神父様 こんにちは」

「ただいま シオ神父」


 部屋に入るとシオドリック神父と子供達はまったりお喋りしていた。歴史の勉強が一段落して少し休憩していたみたいだ。


「ジミー君 こんいちは ニコもおかえりなさい ジャスミンちゃんを迎えに来たんですね」

「それもあるけど シオ神父にお願いがあって来たんだ」

「お願いですか?」


 俺は昼に行商から買った魔法超入門を見せながら、ここまでの経緯をシオドリック神父に説明した。


「魔法の素質を見極めるクリスタルと魔法の入門書ですか・・・」

「面白そう! ジャスミンやりたい!」

「シオ神父に見てて貰おうと思って来たんだけど・・・だめ?」


 ジャスミンちゃんは凄い食いついて来たけど、シオドリック神父の反応は困った様な感じだ。


「う~ん 夢を壊すようで悪いのですが8000チップで買った魔法の入門書と素質を見極めるクリスタルですからね・・・」

「僕 変な品物買っちゃった?」

「そうとは言い切れませんが余り期待しない方が良いですよ」


 シオドリック神父が申し訳無さそうに俺達に言ってくる。


「ニコお兄ちゃん騙されちゃった?」

「そう言う訳じゃ無いんですが・・・素質の見極め等の複雑な事はやはり専門の人に頼った方が良いですね そもそも魔法なんかの力は成長と共に上がったり下がったりしますからね」

「そうなんですか?」

「成長期と似たような物です 皆はまだ子供ですからねまだまだ成長はこれからなんですよ ですから魔法大学なんかは12歳以上と定めているのです」


 シオドリック神父が色々教えてくれる。


「早い段階で素質だのを見極め 能力が開花するかと言われるとそうではありません 色々な事を学び心と体を成長させねば開花する物も開花しません」

「確かにそうかも」

「しかし入門書とクリスタルを試しもしないで否定する事は出来ませんからね 面白そうなので皆で試してみましょうか」


 チラリと俺を見ながらシオドリック神父がクリスタルを試す事を許してくれる。


「ジャスミンが最初にやりた~い!」


 シオドリック神父が魔法の入門書を手に取って読んでくれる。まずはジャスミンちゃんがクリスタルで素質の見極めを試してみる事になった。


「まずはクリスタルの柄を上して先端が下になる様に両手で持ち魔力を集中させる」

「魔力を集中? どうやるの?」

「体内に巡る魔力の滴を両の手に集め 少しずつクリスタルに注ぐイメージで魔力の流れを掴む事 心を落ち着けてクリスタルが安定して光るまで繰り返す事・・・ふむ?」

「良く分かんな~い!」


 シオドリック神父がジャスミンちゃんにせっつかれて困り顔だ。ちょっと待って下さいよと言うとページを捲り確認する。


「魔力を扱える同伴者が居た場合 クリスタルを持つ者の背中を手で触り 魔力のイメージを掴む手助けとなれる・・・と?」


 シオドリック神父も良く分かってないのか、うーんと唸りながらジャスミンちゃんの後ろに回って肩に手を置いて目を瞑る。


 暫くするとジャスミンちゃんが握っているクリスタルが俄かに光り輝きだした。皆も驚いて騒ぎ出す。


「光ったぁぁあ!!」

「「おお!」」


 ジャスミンちゃんが叫ぶとクリスタルの輝きは消えてしまった。集中してないと駄目みたいだ。


「もっかい!もっかい!」

「魔力はちゃんと感じましたか?」

「うん! 手からクリスタルにビビビって流れてった!」

「じゃあ集中して下さいね もう一度行きますよ」


 そう言うとシオドリック神父はまたジャスミンちゃんの肩に手を置いて集中する。暫くするとまたクリスタルは輝きだした。その様子を皆静かに見守っている。今度は騒いだりしない。


 ジャスミンちゃんはクリスタルをじっと見つめて凄い集中しているみたいだ。


「どうですか? クリスタルの光は安定してますか?」

「うん! 大丈夫みたい!」


 僅かに明滅を繰り返しているが、今度は消える事無く輝いている。


「ではクリスタルを台座に刺してみましょう」

「いくよ~」


 ジャスミンちゃんがゆっくりとクリスタルを台座に刺し込んでいく、するとクリスタルの光が台座を通して七色に変わっていく。まるでプリズムの実験をしている様だ。太陽光なんかをプリズムに通す事によって虹を作り出すみたいな実験に見えた。


 ジャスミンちゃんが作り出した光が台座を通して赤・橙・黄・緑・青・藍・紫へと色を変えていく。


「虹が出来た~」

「ジャスミンちゃんは赤と橙が強いですかね?」


 台座に浮かび上がった七色は各色の明暗がはっきり分かれていた。赤が強く光っていて、青は殆ど光っていない。


「赤は炎の魔法に長けていて 橙は強化の魔法に長けているようですね」

「やった~!」


 ジャスミンちゃんが俺の所に来て、満面の笑顔で凄い?凄い?と聞いてくる。


(可愛いなぁジャスミンちゃんは)


 頭を撫でて褒めてあげる。えへへと照れて笑っている。


「僕もやりたい!」

「あたしもやりた~い」


 教会に勉強に来ていた子供達が一斉に僕も私もとシオドリック神父に駆け寄ってくる。


 勉強そっちのけでワイワイと魔法の素質を調べる事になった。みんなで素質を調べる実験大会の様になってしまって、シオドリック神父には悪い事をしてしまった。

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