第8話


 魔法の入門書を小脇に抱えて訓練場に向かう。広辞苑とか六法全書並みに分厚い魔法超入門。子供の俺が持つと更にデカく感じるし、重さも相当なものだ。本を閉じる留め具が付いていてなかなか本格的な魔術書に見える。


 お昼を終えて巡回に行くのだろうか。警備団の人達とすれ違う。


「こんにちは!」

「おう ニコ坊じゃねぇか」

「面白そうなの持ってるな そりゃなんだ?盾か?鈍器か?」

「違うよ! 本だよ!」


 そう言って警備団の人達に魔法の入門書を見せびらかす。確かにこいつで殴られたら、デカさと重さで酷い目に合いそうだ。


「魔法の本だよ!」

「魔法超入門? ハッハッハ」

「ハハッ ニコ坊は良い物手に入れたみたいだな」

「うん!」


 警備団の人達が笑いながら去っていく。今のは何か妙に引っかかる笑いだったな…。


(訓練に遅れてはまずい 遅れたらどんな罰があるか分からないからな早く行こう)


 俺は気を取り直して訓練場に急いだ。


 訓練場には既に大体の子供が集まっている。子供を訓練してくれるトニー・ランプリング先生も既に来ていた。


「アーヴィングは遅かったな あと少しで遅刻だったぞ」

「ごめんなさい トニー先生」


 荷物を置いて訓練着に着替えてくる。革の防具に身を包み、トニー先生の前に整列する。


「じゃあ 先ずは訓練場を軽く3周して準備体操してこい!」

「「はーい!」」

「訓練で骨折なんかの怪我があるからな しっかり準備して注意しろよー」


 5歳から10歳位までの子供達が20人程訓練に参加している。軽い体力作りから本格的な戦闘指南までそれぞれの体力に合わせて訓練していく。年齢差もあるから全員満遍なく指導出来る訳では無いが、トニー先生はなかなか的確に子供達を指導していく。


 高校生時代にやった剣道の授業の様だ。木剣と木盾に木の槍、簡素な弓で訓練する。剣と槍は全身防具のトニー先生に対して、掛け声と共に習った型を打ち込んでいく。


「やー!」


バシンッ!


「とりゃー!」


バシンッ!


 型をお浚いしたらペアを組んで相手の攻撃を受ける練習。流石に突きなどは、打ち込む為に用意した木と藁の人形で行うが防御の練習もなかなか危ない。体に当たった時の為に防具はしているが、打たれたら防具を付けていようが痛い物は痛い。


 弓の練習は射撃場にて行う。普通に立って打つ型、片膝立ちの構えで打つ型、高所から打ち下ろす打ち方等を何度も繰り返し行って精度を上げていく。子供にとって弓は難しい。筋力が無いと弦を引いて威力と射程を伸ばす事も出来ないし、引いた力を維持して正確な狙いを付けるのも難しい。


 冒険譚の話で剣や弓の訓練自体は特に嫌とは感じないが、痛いのには慣れてないから打たれるのは嫌いだ。前世の記憶で盛大に腹を刺されたような気がするが…。


「よーし それじゃあ今日の訓練はお終い!」

「「はーい!」」

「体を解して武器と防具の手入れをして解散」


 大体昼の3時位だろうか。ようやく訓練が終わって解放される。こう言った訓練は日々の積み重ねだろうと思うから真面目にやってはいる。しかし、こんな成長期も終わってない体で無理はしたくない。前世では部活のオーバーワークで過労骨折を経験してるからな、あれはリハビリが死ぬほど苦痛だったから二度と御免だ。


「ニコール これからどうする?」


 同い年のジミー・マクレガンが訓練が終わって話しかけてきた。ジャスミン・マクレガンの兄で、村の中で一番仲が良い友人だ。


「今日は面白い物を手に入れたんだ」

「何? 面白い物?」


 着替えて昼に買った魔法の入門書を取り出して、ジミーに見せる。


「お昼食べた後に広場の行商から魔法の本を買ったんだ!」

「まじで!」


 俺はワクワクしているジミーの前で魔法超入門を開く。ジミーと一緒に本を試しに読んでみる事にした。

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