第7話
教会で食事をして早めに訓練場に向かった俺は、広場に行商の一団を見つける。
(自警団の訓練にはまだ早いし ちょっとだけ冷やかしに行くか・・・)
俺は賑わう大通りの広場に広げられた行商の品物を眺めていく。
やっぱり行商のメインは生活必需品で、所狭しと広場を埋め尽くしている。隣の馬車では魔物や野生動物の品を値段交渉しながら買取されている。
「グウェエッ!」
色々行商の品を見ていると荷台の隣から馬とは違う動物の鳴き声が聞こえてくる。前世では見た事が無い鳥のような大型動物が姿を覗かせている。
行商の馬と混じって居たのを何度か見た事がある。確かグァーガ鳥ってやつだったかな。馬と同じで野生から馴らして荷車を引かせる家畜として飼育するらしい。
ダチョウを一回りほど大きくしたような飛べない鳥だ。駿馬には速さで劣るが荷車を引かせるなら打ってつけの動物で、馴れたグァーガ鳥はとても人に懐くので人類の良きパートナーとして共存している。
前世で馴染みの無いグァーガ鳥に近寄り、モフモフで柔らかそうな羽を撫でてみる。グエグエ言いながら頭を擦り付け、服の端を啄んでくる。もっと可愛い鳴き声かと思っていたが、2メートルを超えるデカさだ。野太い鳴き声で人懐っこくモフらせてくれる。なかなか可愛い奴だな。
「坊主 あんまりちょっかい出してると頭から食われちまうぞ」
「大人しくて可愛いね」
「ワッハッハ そいつ等は光物好きだから身包み剥がされちまうぞー」
行商も子供の冷やかしと分かっている。あんまり目を付けられても不味い。俺は数は少ないが本を取り扱う行商を冷やかしに行くと決め、グァーガ鳥をもう一度モフモフする。名残惜しそうにグエグエと鳴く可愛いグァーガ鳥を後にした。
やっぱり本を扱う数は少ない。こんな辺境の開拓村でまず扱うのは生活必需品なのは分かる。収穫祭なんかの祭り以外は娯楽なんてそうそう無い。だから行商の扱う品はこの村に潤いを与えてくれる。
閉鎖された環境でお金を使う事も無いし、お小遣いを握りしめてガチャガチャやお菓子を買う気分だろうか。たまに来る行商を見るのはワクワクしてくる。と言っても行商からは殆ど買った事は無いけど。
新しい冒険譚か面白そうな本は無いかと一つずつ見ていく。幾つか教会に収蔵されていない新しい冒険譚の本がある。俺のなけなしの貯金で買うかどうか迷う。
(2、3日は村に滞在すると思うからすぐに買わなくも良いと思うんだけど せっかく新しい冒険譚を見つけたしなぁ・・・たまに1日行商をして翌日すぐに村を立つ時もあるからなぁ・・・)
悩みながら別の本を見ていくと、新しい料理の指南書や冒険者と旅と書かれた手引書が目に付く。今回の行商は妙にハウツー本ってやつが多い気がする。その中に見慣れない本が見える。
魔術超入門~素質の見極めと初級魔術入門~
と書かれていた。
「こ、これは・・・」
「坊主 魔法に興味があるのか?」
思いがけない本との出会いに驚きの声を上げていると行商の店主に話しかけられる。
「うん!」
「ハハッ 坊主にはちょっと早いかもな それにこの手の本は少し高いしな」
小学生の年齢の子供にはやはり難しい本なのだろうか?しかも、前世で参考書などのハウツー本は一冊千円~二千円。安くて五百円、高くても三千円前後だと思うのだがこの魔法超入門は一万円もする。と言ってもこの世界の通貨は円では無いのだけど。
この世界の通貨はチップと言う。概ね1チップ=1円で各種族との交換レートも無いに等しい。各種族の国が発行している棒状の硬貨、棒硬貨とでも言えばいいのだろうか?
俺がデナードさんの畑の手伝いや父から貰うお小遣い全てを投じても8000チップとちょっと…足りないな。
何でこんなに高いんだ?確かに分厚くこの一冊あれば何人でも魔法の素質を見極める事が出来るのだろうけど…。輸送費込々の値段なのだろうか?俺は店主のおっちゃんに値段交渉をしてみる事にした。
「ねぇお兄ちゃん この本もっと安くならないの?」
「ん? その本買うのか坊主?」
おっさんと思っていても、可愛くお兄ちゃんと媚びていく。子供の姿を利用したコウショウ=ジツなのだ。
「欲しいけどお金足りないから・・・」
「こんな開拓村にまで売れ残ってるからなぁ」
「だめ?」
交渉とは何だったのか…ただの精神攻撃と化したおねだりをおっちゃんにしてみる。
「んー坊主はいくら持ってるんだ?」
「8000チップとちょっと持ってるんだけど・・・」
「8000か~」
行商の店主が悩んでいる。やはり2割引きもすると輸送費を考えて足が出るのだろうか?俺がそう思っていると店主がうんうん唸るのをやめ、ポンと手を一つ打つ。
「しょうがねぇ在庫処分と思って8000チップで売ってやるよ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
なかなか気前の良いおっちゃんだ。ニコニコしながらおっちゃんにありがとうを言う。
俺は家からお金を取ってきて店主に支払う。全財産の殆どを使ってしまったが遂に念願の魔法に関する物を手に入れたぞ。
広場に居た行商の所で随分時間を使ってしまった。本を買ったその足でそのまま訓練場にウキウキしながら向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます