第6話


 ジャスミンがキャロお姉ちゃんに連れて行かれるのを笑いながら見送る。


 シオドリック神父に歴史の勉強を教えてもらい、読み書き計算を繰り返し練習する。初めにこの世界で目覚めた時は言葉も分からなかったが、成長するにつれ自然と覚えるようになった。計算の勉強は簡単だし、歴史の授業は馴染みの無い地名や名称はあるけど別に苦でも何でも無い。


 苦では無いが簡単な計算、王宮の文官になろうって訳じゃ無いし子供が勉強する様な内容だ飽きも来る。


「シオ神父 魔法の勉強とかはいつやるの?」

「魔法ですか? んーここではちょっと難しいですね」


 シオドリック神父は困ったような、苦笑する様な感じで俺に教えてくれる。早くても12歳から入学出来る魔法大学で学ぶ物だと。


「ならシオ神父のお祈りを教えてよ」


 俺は何度かシオドリック神父の祈りを見た事がある。勉強している最中に大急ぎで運び込まれた患者が来たのだ。森を開いている時、警備団を兼業している若い男が魔物に襲われ酷い怪我を負ってしまったのだ。


 シオドリック神父とキャロリーナ修道女で怪我をした男の傍らに膝をつき、正に祈りを捧げる姿で両手を組み言葉を紡いだ。


「「神の御名において御子の健やかなる魂を救いたまえ」」


 シオドリック神父が静かに祈りを捧げるとキャロリーナ修道女も神父に続き静かに復唱した。すると怪我をしていた男が温かな光に包まれて、今まで青ざめていた顔が血色の良い顔に戻っていく。


 一体どう言った原理で傷が癒されるのかさっぱり分からない。しかし、傷が治ったからと言ってすぐに元気に動ける訳では無いらしい。そのまま担架に乗せて村の治療院に運び込まれていく。


「うーん 簡単な神聖魔法なら私にも使えますが・・・」

「駄目なの?」

「これも神聖法学と言う所で早くても12歳から修行を重ねて学ぶ物ですからね ニコにはちょっと早いですね」


 何やかんやと魔法や魔道具に関する勉強はこの村では何も出来ずにいた。開拓村に街ほどの機能は無いし、武器屋も防具屋も魔道具屋も無いのだ。たまに来る行商の人達に村で獲れた獣の素材や収穫した食糧等を売り、塩などの必需品を買い求める。魔法を教えてくれる人や学ぶための教材など、なかなか手に入らないのだ。


「まぁどちらの学び舎も素質がある程度必要なんですけどね」

「そうなの?」

「入学試験があります それに合格してお金を出せば12歳以上なら誰でも学ぶ事が出来ますよ」

「入学試験とお金かー」


 やっぱり学校に行くにはそれなりの学費が掛かるよな。こちらの世界にも奨学金と言うシステムがあるみたいだが、特別優秀な人しかなれないみたいだ。結局お金は払わなくてはいけないし…。


「魔法大学と神聖法学だけではなく 経済や宮廷の文官になるための学び舎などありますからね」

「そうなんだ でも僕魔法大学に行ってみたいな」

「そうなんですか? ニコは賢いですから経済法学に興味があると思いました」


 前の世界ならば成れる物なら大手商社マンなんかになりたいと思ったものだが、この異世界で読んだ実在する英雄譚にやっぱり憧れてしまう。


「エインズワース冒険譚が好きなんだ」

「あー ブラッドフォード・エインズワースですね 私も若い頃読んで憧れたものです」


 人族の英雄ブラッドフォード・エインズワースを主人公に語られる実在の冒険譚だ。


 エインズワースは人類5種族の垣根を超えて集結したパーティーを結成して、各地の魔物や未踏の大地を開拓して冒険を繰り返していた。ギルドの在り方を変え、各ギルドと各種族の協力体制を作り上げ人類に多大な貢献をした人物だ。


「この本のユージーン・カーヴェルって人に憧れているんだ」


 アルトゥル族のユージーン・カーヴェル。冒険譚の主人公はブラッドフォードだが戦闘でのメインアタッカーはユージーンだ。ブラッドフォードはそのカリスマ性と華麗な剣技でパーティーを束ね、ユージーンはブラッドフォードに知恵を与え強大な魔法で彼の右腕として活躍する。


「なるほど それで魔法大学なのですね」

「うん!」

「彼は確か宮廷お抱えの魔法使いになった後 人材の育成に注力した偉大な人物ですね」


 ユージーン・カーヴェルはアルトゥル族の宮廷に仕え、晩年まで人材育成に力を入れた。魔法大学も彼が資材を投じて設立された教育機関だ。


「ならばこれからも勉学に励みなさい 例え魔法の素質が無くとも手に入れた知識は必ず君の力になるからね」

「はい! シオ神父!」

「お喋りしていたらこんな時間になってしまいましたね お昼ご飯まで歴史の勉強をしましょう」


 いつもの様にシオドリック神父の授業を受ける。その後、教会でお昼を食べて父が居る警備団の訓練場までシオドリック神父とキャロお姉ちゃんに挨拶をして向かう。

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