第2話
今朝は何事もなく普段と同じ大学生活を送っていた。友人と2人で構内のベンチで昼飯を食べた後、寛いで談笑していた時だった…
「今・・・神は更なる生贄を求めてらっしゃる!!」
構内で叫ぶ男がベンチのすぐ後ろに立っていた。突然の事でびっくりしてすぐ後ろを、ベンチに座ったまま振り返る。木と植え込みの傍に立つボサボサの髪と無精髭、目深に帽子を被った男が立っていた。
構内には俺達と同じ様に別のベンチで談笑している人達が疎らに居る。忙しなく構内を移動していた人も叫ぶ前から不審な風体の男を軽く遠巻きに見ていた人も何事か叫ぶ男に注視する。
その男の服には赤黒い斑点や汚れが手首の周りや胸元、ズボンに付着していた。一瞬見ただけでは何の汚れか判らなかったがかなりの不審者に見える。
精彩を欠いた表情と服装、尋常じゃない隈で焦点の定まらない何処を見ているか分からない瞳。一目見て関わり合いたくない人物である事がわかる。
男と目が合ったと思った時には振り向いて座っていた俺の腹に深々とナイフだか包丁が突き刺さっていた。
「キャァァアッ!!」
「うわぁぁあああ!!」
一瞬の出来事…殴られたと思った俺は突然の事に恐怖と怒りが綯交ぜになったような感情が襲ってきた。熱いんだか痛いんだか分からない様な気持ち悪さと頭がカッとなり、眩暈に似たどこか他人事のような倦怠感に襲われる。
「杉本!」
「彼の魂は神の元に旅立ち私を更なる高みに連れて行ってくれる・・・」
隣に居た友人の梨本がどこか遠くで俺の名前を叫んでる。このボサボサ頭の髭男もどこか遠くで訳の分からない事をほざいてやがる。頭に響くような、水中に居るかの様な緩慢さで。
俺は中学にもなってお漏らしした時のような妙な解放感とやっちまったと焦って青ざめるような感覚を思い出していた。体を伝い服に染み出す粘ついた液体、指に感じる温かさだけが妙に生々しい。
指に感じる温かさに比べて体は驚く程冷えていく、俺は腹を抑えて蹲り何故かレポートの事ばかり考えていた。
こんな海外のニュースで見た事あるような事件がまさか俺の通っている大学で起きるなんてこれっぽっちも考えていなかった。
(これってやばくね?この後レポートはどうするんだよ・・・)
恐ろしい喧騒の中こんなに寒かったかと疑問に思いながら隣に居た梨本の事と俺の事、レポートの事を少し考えたがあまりの眠気に意識を手放した…。
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