第27話


   ギルドマスターカルラ・リルラは静かに仕事をこなす。


    執務室で長年の付き合いである執事が好みに合わせて入れたコーヒーを飲みながら、窓に打ち付ける小雨の音をバックグラウンドミュージックとして聞きながら、書類仕事をこなしていく。


    今日の分の書類を終わらせ、休憩しようとした時、静けさは終わった。


    二つの窓が一人でに開き、それぞれの窓から二人の男女が室内に侵入した。そして閉まる窓。


    それを見たカルラは呆れ果てて、ため息を吐いた。


「まったく、普通に門番に門を通してもらって玄関から入ってこようとは思わなかったのか?この馬鹿者共」


    カルラは侵入者二人を貶す。


    余りにも奇天烈で無作法な侵入方法、だが侵入してきた奴らにとっては気にするほどのことでもないみたいだ。 


「すまぬ、急いでいたのでな。門番に通してもらう時間もおしかったのじゃ」


「そういうことだ。ああ、茶はいらないぜ、直ぐに出ていくからさ」


    侵入者はアークとシキノ、二人は追っ手を振り払ってこの屋敷までたどり着いた。


    数十人規模の追っ手も二人にとっては簡単に巻けるようなものであった。迫ってきたギルドメンバーは殺さずに、兵士達は皆殺しにしてきた。


「それで、何のようだ?人様の寛ぎの時間をぶち壊してまで」


    頬杖しながらどうでも良さそうに二人に尋ねるカルラ。だが目の奥は静かに怒っている。


「なに、旅に出るからな。その挨拶と思ってな」


    だがそんな事に気づいているのか気づいていないのか知らないが、服についた汚れを払い落としながら平然とアークは話す。


「そうか、それで行き先は?」


「あんたに言われたように竜頭の島を目指すよ。その後は……どうするか」


    ほぼ無計画、それには少しだけ笑いそうになる。


    カルラは今の話を聞いてニヤリと、何か考えがあるのか、笑った。


「そうか、それならついでに北東のノルア王国に寄らぬか?島に行くのによる必要があるだろ?」


    ノルア王国、それはここグルナ王国と肩を並べるほどの大国である。数千年の歴史のある由緒正しい一族による国王制の国。


「それは良いが、その笑みはなんだ。何か思惑があるのか」


    カルラの笑いに気づいたのか、言及する。このての笑いをするのは良くないことが起こる前触れに近いということをアーク達は理解していた。


「あの国は今回の勇者の他にも別に異世界から人間を召喚したんじゃよ、それが特異でな」


「それは知っておる。じゃがなにが特異じゃ?」


    尋ねるのはシキノ。


    ノルア王国が召喚したのはここ最近のギルドでの話題となっていて、勿論二人の耳にも入ってはいた。


「数じゃよ、それも十や二十どころではない。百をゆうに超える」


「……冗談じゃろ」


    驚愕するシキノ、ある程度の知識があるからこそその数の異常さが信じられないでいた。


    だがそれとは反対にアークは手を口元に当てて考え事をしていた。


「アーク、その規模の人数は召喚可能なのか?」


「…………まあ、確率は天文学的に低いができないことはないかもしれない。それでも偶然過ぎる。召喚には様々な因子が噛んでいる。天体や気候などといった自然的なものから、召喚者や召喚される者のような人的なもの。それが奇跡的に噛み合ったら、起こるかもしれない」


    それの異常性はシキノよりもアークの方が感じているようだ。長い間マーリンの元で修行をしていれば、召喚魔法についても触れることは多々あった。まして異世界からの召喚魔法は何度も聞いたことがある。


    だが今回のことは自分の知識の範疇を超えることなのかもしれないと考えている。


「それで、どうする?行くか?い行かぬか?」


    問いかける。


「良いだろう、あんたの誘いに乗ってやるよ。それで調査すれば良いのか?」


    目的地は決まった。少しは旅がまともになったのかもしれない。それでもまだ無計画。


「向こうのギルドマスターの小僧にはこちらから連絡をとっておくから、気にすることはない。行ってくるが良い」


「そんなもん言われなくともわかっておるわ。世話になった。ありがとう、お婆」


「また、いつかな、婆さん」


    再び開け放たれる窓、そして二人は別れの挨拶を済ませて窓から飛び出て行った。


「はあ、昔はもう少し可愛かったはずだがのお。何時の間にやら大きくなって、年は幾つも重ねてきたからか、気づいたら年を過ごすのが早くなる。年をとったのか?」


    静けさを取り戻した部屋で、カルラは虚しそうに虚空に語りかける。

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