第22話


    嵐の様な怒涛の連撃がアークを襲う。


    ベルファの腕や脚から放たれる攻撃の全てがアークが旅をし始めてから見てきた敵の攻撃よりも遥かに精練されている。魔甲殻を纏った手の攻撃をモロに頭に食らってしまえば、普通の人間なら頭と首が離れてしまうだろう。


    そんな数々の攻撃をアークは躱し、いなしていく。


    余裕はない。反撃のために連撃を捌き続ける。


「流石にこの程度なら死なねえよなあ!前来た奴らはこんだけで一人、頭と体がおさらばしたぜえ!」


「それはどうも、俺も久しぶりだ」


    ベルファが大振りの一撃をはなった。これをアークはしゃがんでかわす。


    ベルファの腹に隙ができた、それをアークは逃しはしない。しゃがんだまま、左足を軸に右手で掌底を腹に当てる。


    だが鍛え抜かれたベルファの腹筋はその程度の一撃ではモノともしない。


    だがそんなのはアークも予想済み。


「弾け飛べ、豪爆掌!」


    赤の魔法中級、豪爆掌。掌から爆発を放つその魔法は接近戦によく用いられる。以前山賊のボスがきていた鎧を破壊した一撃がベルファに直撃した。


「クッ!……フンッ!」


    ベルファは後ろに退きはしたものの、爆発を腹筋に力をいれて弾き飛ばした。


「もっとォ!」


「地より生え、敵を圧せ、殺せ、巨人の大腕」


    アークは黄の魔法の一つを唱える。ベルファの周りに周りの土を集めて作られた一本の巨大な腕が現れる。武骨な形の圧倒的質量を持つソレがベルファに襲いかかる。


「ソラアアッ!!」


    握った拳と拳がぶつかる。土の腕はベルファの拳とぶつかると罅が入る。それを見てベルファはニヤリと笑った。


「もう一丁!」


    先ほどとは逆の拳で土の腕を殴った。土の腕に入っていた罅がより広がっていき、粉々になっていった。


    腕が壊れた影響で宙に土煙が舞い上がり、ベルファの視界を悪くする。


「縛れ」


    視界が悪くなったベルファの周囲をアークが放った魔法糸が飛び交う。普段なら見える糸も土煙の影響で見にくくなってしまっている。


    糸はベルファに何重にも絡みついて動きを封じた。


「腕は囮かよ、嫌な手ェ使いやがる」


     憎憎しげにアークを睨みつける。糸を千切ろうとするがなかなかうまくいかない。


「知るかァ!」


     アークの右手が光り、手を開いて爪を立て、勢いよく下から上に振り上げる。その軌跡から五本の閃光の斬撃が飛び出し、ベルファに迫り襲う。シキノと再開した夜に放った一撃だ。


「ッラアアアアアッ!!!!」


    ベルファは力をいれて糸を引きちぎると、回避できないと判断したのか、腕を十字に組んで閃光の一撃を受け止めた。


    腕を覆う魔甲殻にわずかに罅が入る。そのことにベルファは驚くが、一撃を受け止めるのに必死でそれどころではない。受け止めた斬撃を両腕を使って後方に流す。

    

「罅いれられたのは誰以来だっけか。少なくともここにきた奴らじゃねえしな。こんなに楽しいのも久しぶりだ」


「そいつはどうも。満足したなら帰れ。俺は忙しいんだよ」


    互いに構えを解く事なく会話をする。両者共にある程度は相手の実力を把握してきている。


    故に今の距離は咄嗟のことに反応できる最短、そして自分から仕掛けるのに最適な距離。


「それにしても不思議な感覚だ。オマエと戦っているのにオマエ以外の何かを感じる。初めての感覚だ。より深くにある何か…………戦えばわかるよな!」


    ベルファが飛び出す。それに僅かに遅れてアークがバックステップで距離を取る。その動作の際中に糸を飛ばして地面に突き刺さっている武器に巻きつける。


「ダンスしろ、お相手は武器だがな」


    地面から武器が引き抜かれて、糸に引っ張られて宙を踊る様に動く。それらは四方からベルファに襲いかかる。


「ダンスの相手なら必要ないぜ、ここはオレの独擅場だからよお!」


    ベルファは襲いかかる武器を踊るように躱していく。避けることができないものは手の甲で弾いて軌道をそらしていく。それだけではない、躱した直後に武器を動かしている魔法糸を手刀で断ち切っていく。


    一つ一つを断ち切っていき、遂に残りは剣一本になった。切られた糸についていた武器は辺りに散らばっていく。アークは糸を手繰り寄せて剣を手にもち、剣に魔力を込めて光を纏わせる。


「剣よ、光を放て!」


    剣を下から上に振り上げて、光の斬撃を放つ。


    光は地面を抉り、土煙を巻き上げながらベルファに向かって直進していく。


「甘いッ!」


    ベルファは迫った光を唯の突進で打ち破り、そのままアークへと迫る。


    一瞬のうちに距離が詰められ、一瞬の攻防が始まる。


     アークは振り上げた剣を先ほどとはことなり、振り下ろしてベルファの体を切断しにかかる。ベルファはそれを右腕で防ごうとする。


    甲高い音と共に剣が折れた。ベルファは何もしていない、ただ魔甲殻で剣を防いだ、それだけだ。込めれるだけの力を込めた筈の一撃は魔甲殻には傷一つ入れられない。


「手を抜きやがってェ!」


    剣を防いだベルファがアークに怒りに満ちた声を発し、反撃を仕掛ける。剣を持っていた手の手首を弾いて、剣を落とさせる。そして左手を手刀の形にすると、腕を鞭のようにふるった。


    アークの右腕が宙を舞う。


「くっ!」


    腕を切られた痛みから、アークは苦悶の表情をする。そして咄嗟に後ろに跳ぶ。


「手を抜くから、手が飛ぶんだよ」


    それに対してベルファは僅かに勝利を確信した表情をする。勝利まではあと少し、焦ることはないと己に言い聞かせる。


    だが次の瞬間、ベルファにとってあまりにも予想外の事が発生した。


    切断した筈のアークの右手に頭頂部を殴られた。


「……は!?」


    完全な視界の外からの攻撃、意識などする筈がない。殴られた事を認識するまでに僅かな時間を有した。


    頭頂部に拳を叩き込まれ脚がふらつく。さらにふらつく肉体にアークからの跳躍回転蹴りが顔面に入る。


    踏みとどまれずに後方に吹き飛ぶ、しかし転がりはせずに綺麗に二本の脚で着地。すぐさまアークを確認する。


    ベルファを殴った腕は宙に浮いており、切断面に近づいて行っている。そして目を凝らして見れば切断した腕と切断面の間に煌めく細い何かが見える。


「光……細い……魔法糸!魔法糸かァ!?」


    ベルファは正体を見破った。


「ご名答、糸を切断面から伸ばして神経と神経を繋げ、糸を動かしてお前のところにやって殴ったんだよ」


     アークは治癒魔法で腕を繋ぎ合わせる。その際に切られたコートも勝手に修復されていく。腕を繋ぎ終えると手を握ったり、開いたりを繰り返して調子を確認する。


「久しぶりだな腕が飛んだのは、というより傷を負ったのが。じーさんとの戦いでも最近は飛んでなかったんだがな」


「手を抜いたからだろ。貴様はあんな武器に頼らずともオレに攻撃できたはず。それなのに鈍を使いやがって。もっと強い魔法を使えただろ!ムカついてキリがない。そんなもんじゃないんだろアークゥ!見せろよ、その内側にある力を、オレに!じゃねえとオレが進めねえだろ!」


     激昂しアークを怒鳴り始めるベルファ。その燃えるような真紅の瞳には失望感と不満足感で消沈している。


「そうか…………すまなかった」


「…………はあ!?」


    アークからでた予想外の謝罪の言葉にベルファは驚いた。


「確かに手を抜いていたのかもな。強い奴と戦うのは久しぶりで、勘が鈍っていたのかもしれない。貴様の実力を見誤っていたのかもしれない。だが、これからは違う」


    アークはロングコートのボタンを外し、ゆっくりと優しく目を閉じる。アークの肉体から発せられる気が変化し、禍々しさを帯びていく。それを感じたのか、ベルファの右腕が震えた。


「今までの非礼を詫びる。貴様以外にはここには誰もいない、これからは趣向を変えてみようか。失望したなら、また火を灯そう」


     目を開くと、その目は比喩でもなんでもなく色が変わっていた。白目は黒く、黒の瞳は黄金に。


「オマエ……その目は魔族!」


    ベルファが驚愕する。


「いくらか待て、久しい故に時間がかかる」


    アークの肌の色が徐々に魔族特有の青黒色に変化していく。顔つき自体に差程の変化はないが、肌の色が変わる事で全く異なる印象を受ける。


    そして最も特徴的なのは角、ベルファの持つ羊のような角とは形が異なり。雄々しく尊い印象を与えてくる。角自体の格が異なるといえば良いだろうか。


    王


    アークの今の姿を表すならばそれが最適と言えるかもしれない。


「待たせた、だがその価値はあったはずだ」


    父の人から母の魔へ、二つの血をもつアークにできる業。

    

「オマエ、半人半魔か。成る程、違和感の正体はこれか。それにその角、何故お前が」


    ベルファは鋭い視線で姿の変わったアークを観察する。


「そんな事はどうでも良いだろ。さあ、気が済むまでくればいい。心に闘志を灯せ、踊らせろ。これからは先ほどよりも一味違うぞ」


    

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