第14話


「見つけたぞ、皆の仇。俺が殺してやる」


「女は私が止めておく。だから男の方をお願い」


「わかってる。仇は取ってやるぞ、皆」


    光の届かぬ路地裏で男と女は殺意の篭った目で誰かをみている。


















「それで、これからの旅の予定はどうなっているのじゃ?ずっとこの土地にいるわけでもなかろう」


「勿論だ。お金も山賊退治があったし、他にも色々と報酬があったお陰で暫くは不自由しなくて良さそうだ」


    買い物を終え、仲良く並んで歩いているアークとシキノ。アークの不機嫌な表情も元に戻り、何時もの表情に戻っている。


    買った品物は全て魔法の袋の中に収納しているため、二人が現在持っているのは近くの露天で買ったクレープだ。


「取り敢えずは近いうちにこの国を出てノルア王国のアルノアで行われる豊穣祭で販売される酒を買う。その後は特に決まってはいないが、魔族領には行ってみたい。母さんが生まれた土地だからな」


    魔族領とはその名の通り、魔族が治める土地である。様々な種が生きているその土地は魔王が統治している。


「そうか、なら一旦はお前と離れないといけないな。あの土地に行くのは妾もキツイ、なにせ今は戦争の火蓋が切って落とされる直前だからな。妾たちが行く頃には戦争は始まっているだろう」


「そうだな。後は必ず終戦の地のに行きたいな」


    終戦の地、それは先代勇者と魔王が最後の闘いを行った場所である。人間が治める地と魔族領の狭間にその場所は存在する。


     話すアークの顔は少しばかり憂いていた。


「……そうか、そこには妾もいて良いのか?」


「いても良い…………けど、一人にもしてほしい。ゆっくりと一人で居たいんだよ、父さんと母さんが闘った場所を」


    前を向きながら、何処を見ているわけではない。ただ憂いげに何かに思いを馳せているようだ。


「そうか……わかった」


     シキノは優しく微笑む。母から子への優しい微笑み似ている。


     暫く歩き続けると大通りに入ろうとするが、そこには人だかりができていた。


    より正確に言うならば人の壁、ウジャウジャと何重にもなっている。それらの人々が一様に同じ方向を向いていて、何かを今か今かと期待している。


「なんだあれ?」


「大通りに人が集まっているようじゃのお。屋根にでも登って見てみるか」


    一度の跳躍で二人は橙色の屋根に飛び移り、そこからさらに高い建物の屋上に跳んだ。


     そこで見たものは街の正門から大通りを挟み込むようにズラッと続いている人の壁、よくよく見れば正門近くの人たち大きな声で歓声をあげている。


「そうか、今日は勇者が来るんだったな。勇者を一目見ようと市民が集まっているんだ」


「そう言えばそうだったのお…………あれがその勇者か?」


    シキノが指を指した。その先には大通りの真ん中を歩く男二人、女二人の四人組がいた。


     一人の黒髪の男が歓声を上げる市民たちに手を降って挨拶している。もう一人の黒髪の男は手を上げて歓声に答えている。残りの二人は落ち着かなさそうに周りをキョロキョロ見ている。


「手をあげてるだけの黒髪の奴がそうだ。後の三人は知らんが、多分一緒に召喚された奴に違いない」


「そうか、それで今代の勇者は強いのか?闘ったのだろ?」


     シキノの問いかけにアークは僅かに顔を曇らせた。


「弱い、まだまだ全然ちっとも全く父さんには及ばない。俺が本気で闘っていなかったのに、俺に一太刀も浴びせることはなかったよ」


「そうか、それは弱いな…………それにしても先ほどから此方の命を狙っているやつがいるな。殺気がだだ漏れじゃ」


    シキノは相手に悟られないように、目線をとある建物の影に向ける。そこには男女二人組がいた。


「そんなに妾たちを殺したいなら、此方から出向いてやるか?」


    アークに向けてシキノは妖艶な笑みを浮かべる。そして戦闘の準備はできていると言わんばかりに右の掌からは紫炎が発生している。


    今にも建物に向けて飛び出しそうなシキノをアークは手で制した。


「待て、今は泳がせておけ。俺たちに向けている殺気が本気なら、相手は叩けば散る蚊に等しい。何もせぬなら、態々此方から行く意味はない」


    建物の影には目もくれずアークは答えると、屋上からおりていった。


「ふむ、それもそうか」


    続いてシキノも屋上からおりた。


    飛び降りた際に付着した埃を手で払い落とし、二人はまた歩き出した。


















    場所は変わって先日、アークとシキノが出会った川辺、舗装されたその道は川の流れていない方には軽食を取れるお店や衣服店が立ち並んでいる。


    アークとシキノの二人は別に何をするわけでも無く、散歩をしている。


    昼間だというのに人通りが全くなく、飲食店も閑古鳥が鳴いている。そもそも客が居ないどころか店の中に店員までいない。皆勇者を見に行っているのだろう。


「アークさん、シキノさん!」


    川の向こう側から二人は大声で声をかけられた。二人が声をかけてきた方をみると、声をかけた人物が此方に向けてかけていた。


    水の上を魔法陣を使用して器用に走っている。川岸から川岸までは15メートルほどある。川岸まで走るとそこから跳躍し、二人の前に着地した。


「こんにちは」


「こんにちは、ジーナさん」


「息災のようじゃな、ジーナ」


    二人の前に現れたのはジーナ・クルト。アークがこの街に訪れてから初めて真面に会話した人物であり、アークが魔法を教えている少女である。シキノが来てからはシキノも彼女に魔法を教えたり、偶にリリスも教えている。


    そのお陰が今では最初にあった時より格段に実力が向上していて、Eランクだったのが昨日Bランクになったのである。


「はい、元気です。お二人とも何をしてらっしゃるんですか?」


「特に何も。君への稽古まで時間があったからね、時間を潰していたんだよ。勇者が来るのを見ていたりね」


「お二人も見てたんですね、実は私もなんです。人が多かったので屋根に飛び移って見たんですけど、変ですよね」


    照れ臭そうに頬を人差し指で掻きながらジーナは微笑んだ。


「はは、そうじゃのー」


    つい数分前の自分たちの行動を振り返りながら、シキノは遠い目をして笑っていた。


「それより、君からみて今代の勇者はどう思った」


     空気を直そうとアークが問いかけるとジーナは顎に手を添えて戦闘時以外では見せない真剣な表情をした。


「なんでしょうか、失礼かもしれませんけど、アークさんたちの方が強い気がしました。先代の勇者もこんな感じだったんでしょうか」


    ジーナはこの場にいない勇者二人に対して申し訳なさそうに話した。


「今代の勇者についてはその意見は正しいよ。俺は彼と闘ったことがある」


「えっ、戦ったんですか!?」


「ああ、その時は勝ったよ。彼は未熟だったからね」


「すごいんですね、アークさんって」


    ジーナは素直に感心しているのか、羨望の眼差しをアークに向けている。


    あまりにキラキラしているその視線が照れ臭く、思わず顔を逸らしてしまいそうになる。しかし、より一層強い視線をジーナに向け、真剣な表情で話し始めた。


「君にこれだけは言っておくよ、先代の勇者は強かった。それは俺が保証する」


    ジーナはアークが先代の勇者を語る姿に呆気に取られている。


「……アークさんがそんなに真剣な表情をするの初めて見ました。任務の時も私に訓練をつけてくださっている時もそんな表情してるの見たことありません。先代の勇者様に何か思いででもあるんですか?」


「そうだね。並の人よりと……先代勇者に対して思い出がある」


    『並の人より父さんに対して思い出がある』、思わず口から漏らしてしまいそうになったが寸前でのなんとか言い留まった。


「でも、勇者様が生きてたのってアークさんが生まれる前なんじゃ……」


    ジーナは先代勇者に近づこうとしていく。今の話だけで感の良い者ならアークの正体に気づいてしまうかもしれない。


    アークは両親のことになると我を忘れてしまうことがある。昔から理解してるが、直そうとは思わない。


「すまないジーナ、悪いが少しばかり席を外してもらえぬか。妾はアークとのデートを楽しみたいんじゃ」


    シキノがアークに助け舟を出してきた。


「あ、すみません。お邪魔でしたね。それではまた午後から訓練お願いします」


    ジーナはぺこりと一礼をして、渡ってきた川を再度渡り、何処かに行った。


    アークはジーナが見えなくなると同時に一息ついた。


「すまないシキノ、喋りすぎた」


「そうじゃの、いくらジーナがお前の最初の弟子にあたる者と言えど、喋りすぎじゃ」


「彼女は俺が誰にも話すなと言えば誰にも話さないと思ってな。少し気が緩んでいたよ」


「それは妾も分かっておる。じゃが気をつけろ、誰かが聞いているかもしれぬ。お主の持っている物は何方の勢力も探し求めているものじゃからな」


    アークの胸の中心に指を這わせながらシキノは諭すように話した。


    指を胸から首、顎に這わせていった。そしてアークの隣に並び、二人は歩き始めた。


「分かっている。これは大切なものだからな、誰にも渡さない…………それにしても今日は」


    アークは右手を真横に突き出した。突き出した其処には何もない。そう思っていたのも束の間、アークの右手に全力で振られた鉄の棍棒が直撃した。普通ならば骨が砕け、腕が可笑しな方向に曲がってしまう。


「蚊が飛んでるな」


    しかし、アークの腕は折れない。それどころか直撃したというのに突き出した位置から微動だにしていおらず、棍棒を掴み、離そうとはしない。


「嘘だろ!?」


    襲撃者が驚きの声をあげている。背後からの完璧な奇襲だと襲撃者はおもっていた。しかし、それもアークにとってはどうでも良いことのように防がれてしまった。


「完璧な奇襲と思っていたか?残念だがそれなら殺気を消せ、ダダ漏れだったぞ」


    ダメ出しをしながら棍棒を押し返し、アークは振り向いて襲撃者を確認する。


    スキンヘッドの大男、そう説明したら一番わかりやすい。アークはその男を見たことはないが知っていた。


「あの時俺が逃がした山賊か、アジトに行った時も殺されてなかったのか」


「そうだ、俺はお前に惨殺された山賊の生き残りのガンガだ。皆の仇、取らせてもらうぞッ!」


「話し合わないか?」


「無理だ!俺はお前を殺すまで止まる気はないッ!」


    額に青筋を浮かべながら、ガンガは手に持っている棍棒をアークの頭目掛けて振り下ろした。


「そうか……俺も殺されたくはない」


    振り下ろされた棍棒はアークの作り上げた薄い膜に止められた。


「だから俺に殺されても文句は言うなよ」


    アークの指先から光弾が放たれた。光弾はガンガの左膝を容易く貫通した。


「ウゴォッ」


    ガンガは左膝を地面につき、苦痛の声を漏らした。


「この程度の魔法も防げないのか?相手が魔法使いと分かっているなら、何らかの対策はするべきだ。それとも見誤っていたか?」


    続いて二発、両肩を貫いた。 慈悲のない無情の攻撃、それをアークは容易く行う。


「ガッ……アアア」


    手に持っていた棍棒を地面に落としガンガは苦しみ始めた。


「終わりか?」


「……シーフィー!」


    力を振り絞ってガンガは叫んだ。すると近くの店の屋上から女が飛び降りてきた。手にはナイフを持ち、落下しながらアークの首を狙う。


「死ねッ!」


    あと一秒でアークの首を切断できる。そう思ったが、シキノに殴り飛ばされ川に落水した。


「妾は不愉快じゃ、先ほどから生温い殺気をこちらに向け続けおって。アーク、この女は妾がやる」


「お好きにどうぞ」


    アークはシキノの方を見ずに事務的に返事をした。それを聞いたシキノは川に飛び降りた。そして足の裏に魔法陣を展開して、器用に水面に立った。


「さあ、此方も始るとしよう」


    周りに紫炎を浮かべながら、シキノは不満に満ちた声で喋った。紫炎が動きだし、シーフィーの周りを囲んでいく。


「妾とアークのデートを邪魔したのじゃ、ただで済むと思うなよ」


    シキノが殺気を放つ。山賊二人が放っていたものと比べるなら獅子と猫、同じ種でありながら威圧のレベルが異なる。


    それ程、デートを邪魔されたり、生温い殺気を向けられたことに腹が立ったのだろう。


    しかし尻尾と耳は出していないので本気を出すつもりは無いのだろう。


「これだけか……早く終わったな」


    青の中級魔法を使用して、アークは足元からゆっくりとガンガの肉体が凍らせていく。ガンガ体温が低下していき、足元から凍っていく。血液が回らなくなり始め、肉体が動かなくなっていく。怒りに満ちていた表情も変貌していき、影が見え始める。


「何もできないのか、俺は。ゼインが生かした命を無駄に散らしていくのか……皆の仇を取れないのか?」


    顔を俯かせながら絶望に満ちた声色で呟いている。とうとう首から下が完全に凍ったしまった。


    その様子をアークは間近で見下している。そこにあるのは哀れみの念、それは決してガンガに向けられているものではない。


「蚊も近づかなかったら、叩かれぬものを。彼奴も生きて欲しかった友が死ぬのは悲しいのだろうな」


    アークがトドメを刺そうと光弾を放つ準備をする。今度は殺すために額を狙う。


「なんだい、もう殺すのかい?」


    新たな女の声、アークは顔を声がした方向をみる。


「……なんだ、リリアさんか」


    そこにはアークやシキノと同じAランクのギルドメンバーであるリリアがいた。店先の椅子に腰をかけ、左手に酒瓶を持ち、右手は団子串を持っている。


「なにか御用ですか?」


    アークは平静を装っているが内心驚いていた。何時の間に近づかれたかわからない。気づいた時にはそこにいた。アークはリリアの事をAランクではあるがそれ以上のSランクの実力があると思っている。


「いやね、面白そうな事をやってたから酒飲みながら楽しく見物してたんだよ」


「中々の趣味ですね」


「はは、そりゃどうも。あと殺すなら辞めときな、死体の処理する時間がないよ。そろそろ店の人たちが戻ってくるしね」


    リリアは視線をアークとは別方向に向ける。アークもリリアの視線の先を確認する。


    勇者の見物を終えた街の人たちが戻ってきている。このまま二人を殺せば街の人たちが気づいてしまい、騒ぎになるだろう。街の人たちが戻ってくる前に片付けるつもりだったがこれでは台無しになる。


「そうみたいですね…………シキノ、戻るぞ!」


    川で闘っているシキノに声をかける。シキノはシーフィーの首を掴んだままアークの方を見た。そして一度の跳躍でアークの真横に来た。


    シキノは見るからに不機嫌そうな顔をしている。片手で持っているシーフィーを凍っているガンガの隣においた。


    シーフィーは体全体に火傷をおい、白目を向いており、意味のわからない言葉を言い続けている。


「幻覚魔法か……中々の事をするな」


「デートを邪魔した罰じゃ、それより早く逃げるぞ」


    シキノはシーフィーが降りて来た屋上に一歩で飛び乗った。


「はいはい、それじゃあリリアさん、失礼する」


「ああ、またな」


    アークもまた、シキノの後をおって屋上に跳び上がって行った。


    残されたリリアは残った団子を口に放り込み、酒で流し込んだ。


「さて、あたしも行くか」


    リリアは立ち上がると二人とは別の方角に跳んでいこうとするが寸前のところで止まった。


「そう言えば、あたしも山賊退治の任務を受けてたんだよねえ。ならこいつらも退治しないと」


    自分がアークと一緒に山賊退治の任務を受けたことを思い出し、リリアは独り言を呟いた。


    リリアはフィンガースナップを一度行う。そしてすぐにアーク達が跳んでいった方とは逆に跳んでいった。


    残されたガンガとシーフィーの肉体が自らの影に沈んでいく。影はまるで底なし沼のように二人の体を沈めていく。


    やがて二人の体は完全に影の中に沈んでいった。影は消え去り、二人がいた痕は完全に消えてしまった。


    残されたものは何もない。










    昼のギルド会館、其処は数多くの冒険者たちで溢れかえっている。席は満席、ウェイトレス達は大急ぎで料理を運び、厨房では料理人たちが己の力を振り絞って調理している。ギルドメンバーはギルドメンバーで昼間から酒を飲み、仲間たちと大騒ぎしている。


    しかし、そんな喧騒としているのは会館の一階だけで二階は静かである。


    この会館には食事を取れるスペースが二つある。一つは一階、冒険者ならば誰でも食事をするのが許されており、飯時には大繁盛する。


    そしてもう一つは二階、Aランク以上の冒険者かその連れが食事をしたり、若しくは来賓の方をもてなすために使用される。


    例えるなら一階は大衆食堂で、二階は高級レストランと言ったところだ。


    二階は扱う食材も装飾も一階のものよりも高級な物を扱っている。食材は龍の肉をはじめとした市場でも値段の張るものを使用し、一流の料理人が調理している。装飾は天井の水晶で作られた照明器具、赤い生地と金の刺繍が特徴的な絨毯は汚してしまえば綺麗にするのにかなりの値段がかかってしまいそうだ。


    問題があるとすれば利用者が少ないということだろうか。なにせ利用するための条件がかなり厳しい。Aランクのギルドメンバーというのはこの街でも数える程しか居ない。しかもAランク全員が会館を利用するわけではない。それゆえに普段から空席が目立っている。


    今現在利用しているのもたった二人だ。しかもガラ空きだというのに端の席を利用している。にぜなら中央の席には予約が入っているのか、テーブルの上に皿が置かれている。


    シキノとアーク、二人がテーブルを挟んで食事をとっている。トースト、目玉焼き、ベーコン、サラダ、スープ。どの食事も下の食堂のものより値段が高い。しかし、その分良い食材を使用し、腕の良い料理人が調理している。


「少し高いが、やはりこの階の飯は美味いな」


「ああ、下より静かで落ち着くしのお」


    下の階から少しばかり喧騒は漏れているが、それでも下の階より静かだ。


    二人は静かにあまり会話をせずに食事を楽しんでいる。普段は会話しながら食事をとるのだが、偶には静かに食事したいときもある。


    残ったスープを飲み干して、2人は食事を終えた。二人ともデザートを頼まずに食後の余韻を楽しんでいる。シキノは目の前に置かれてある紅茶をかき混ぜ、アークは売店に売られていた新聞に目を通している。


   下の階から聞こえてくるギルドメンバーたちの喧騒が突然消えた。


「何じゃ?」


    紅茶をかき混ぜていたスプーンを放し、シキノは辺りの様子を探り出した。


「落ち着け、俺らには関係ない」


    アークは自分には関係ないと言わんばかりに新聞から目を離さない。


「さあ勇者様、お席は用意してますのでお座りください」


    赤い扉が開かれ、一人のギルド職員が入ってきた。職員は中央の大きなテーブルに誰かを手招きした。


「うわ、凄いな」


「マジかよ、こんな店来た事ねーよ。いやスゲえな」


「ちょっと厳、騒がないでよ。アホに思われるじゃない」


「花梨のその言葉もどうかと思うよ」


    職員に手招きされ男女四人組が入ってきた。


「ほう、勇者御一行じゃな」


    視線を横に動かしてシキノが入ってきた人物たちを確認する。どうやら入ってきたのは勇者一行らしい。


「そうか、それは良いな」


    しかし、アークにとってはどうでも良い事らしく。新聞から目を離さずに空返事をする。


    願う事ならこのまま彼らが気づかなければ良いのに、そんな事を考えながらアークは新聞を読み続ける。


「あれ、アーク?」


    だがそう上手く事はいかない、今代の勇者カナトがアークの存在に気づいた。カナトはアークの座っているテーブルに近づく。アークも無視するわけにはいかず新聞を見るのをやめ、カナトを見た。


「久しぶりだね、アーク」

 

    嫌みのない微笑みでカナトは挨拶を行う。


「ああ、久しぶりだな。今代の勇者さん」


    再開はすぐであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る