第10話


「山賊退治ですか?」


「はい、ギルドマスター様からの御命令でアーク様に山賊を退治して欲しいと」


    Aランクに上がった翌日、アークは前日に酒場で大量の酒を呑んだが、二日酔いに悩まされることなく無事にギルド会館に顔を出した。


    そして任務を受けようと受付嬢に話しかけたところ山賊退治の話を持ちかけられたのだ。


「それで内容は?」


「数週間ほど前からこの街や近隣の村で若い女性の誘拐事件が発生していました。そのことに関してギルドが調査したところ、山賊が関わっていることが判明しました。そして昨日、ようやく山賊の

アジトが判明しました。そこでギルドマスター様からアーク様に山賊退治をするように指示をしただいたというわけです。アーク様には山賊を退治してもらい、誘拐された人たちはアーク様たちが退治した後に、此方から職員を派遣しますので心配は無用です」


    山賊がいるということはアークも昨日の事で理解していた。だが誘拐事件まで引き起こしているとは知らなかった。


「わかりましたけど、どうやって行けば良いんですか?」


「その事に関しては問題ありません。此方で案内役を用意しております」


    受付嬢はカウンターの引き出しから何かを取り出し、アークの目の前に差し出した。それは地図だった。シャンテ周辺の土地が描かれている。


「此方がギルドマスター様がお造りになった案内役です。この地図に魔力込めていただいたら、自分の位置から山賊のアジトまでの道を表示します。さらに倍率も魔力を込める事により変化させる事ができます」


    アークは地図を受け取り、懐に閉まった。


「わかりました、この任務受けさせてもらいます」


「ありがとうございます。報酬は任務の後にお渡しします」


    受付嬢に一礼をして、アークはギルド会館を出ようとした。


「あれー、アーク?」


    女性の声がアークを呼び止めた。アークは音のした方を確認すると、そこには昨日酒場であったリリスがいた。


    リリスはアークが気づいた事を確認すると、手を降りながら近づいて来た。


「やあ、何話してたんだ?楽しい話か?アタシにも教えてくれよ」


    アークの肩をポンポンと叩きながら、笑顔で尋ねた。


「えっとですね、実は______」


    アークはリリスに任務の内容を事細かく話した。するとリリスは新しい玩具を見つけた子供のような顔をした。


「いいねえそれ、アタシも付き合ってやるよ。一人でやるにはちと荷が重いだろ?」


「俺は構いませんけど、大丈夫なんですか?」


「心配は無用。アタシだってアンタと同じAランク、実力はそれなりにあるつもりだよ」


    自信満々のリリス、アークは軽く頷いた。


「ならよろしくお願いします。待ち合わせは三十分後に街の正門で」


「オーケー、じゃあまたな」
























 

「それでは行きましょうか」


「いいぜ、早く終わらせて飲みにでもいこうか」


    街の正門、アークとリリスは準備を済ませて集合した。準備とは言ったものの二人は重い荷物を背負ったり、武器を持ったりしていない。


    アークの格好はジーンズと無地のコート。リリスは昨日と似た格好だが、服の色が黒から藍色になっている。


「アジトまでは俺が案内しますので、ついて来てください」


    懐から地図を取り出すアーク。地図を確認したところアジトまではかなりの距離がある。普通に走った場合、かなりの時間がかかってしまう。


    だが、二人にはそんな心配はない。普通に走って時間がかかるなら、普通に走らなければ良いだけだ。


    二人の足元に小さな竜巻が発生した。竜巻は足を中心に発生している。


    緑の魔法中級、『跳歩』。長距離の移動を短時間で済ませるために開発された魔法。足元に発生した竜巻を利用して地面を駆ける。発生した竜巻が推進剤になり、普通に走るより何倍も速く走る事ができる。さらに着地の際には竜巻が落下の衝撃を和らげ、足にかかる負担を軽減させる。


    二人は駆け出した。アークは地図を見てリリスを案内しながら、リリスは欠伸をしながらアークの後ろを走っている。














    そして走ること二十分後、アジトの前に到着。山賊のアジトは山賊の名前の通り、山の中にあった。周りは木に囲まれている洞窟が山賊のアジトのようだ。


    アジトの目の前には見張り番が1人居て、洞窟の入り口を守っている。


    それを木の影から眺めるアークとリリス。


「なんか、つまんない所にあるな。もうちょっとなんとかなんないの?ベタすぎるでしょ、洞窟なんて」


「文句いう暇があるなら、早く終わらせましょう。夕暮れまでには帰りたい」


    文句を垂れるリリスを余所目にアークは門番に向けて歩き出した。


「はじめましてがさようなら」


「誰だてめえ!」


    門番が迫るアークに持っていた槍を向ける。


「ふっ!」


    門番はアークの胸めがけて槍を突き出した。アークはそれをいなして、門番の首を右手で鷲掴みにした。そしてそのまま持ち上げ、地面にめり込む程の勢いで叩きつけた。


    十秒にも満たない出来事だった。叩きつけられた門番は白目を向いて泡を吹いている。


    首から手を離して両手で汚れを払い落とす動作をするアーク。


「いやー、早いねえ」


    呑気な声を出しながら、リリスは木の影から姿を表した。


「行きますよ、早く終わらせて帰りたいんですから」


「そうだねえ、アタシも帰ってアンタと一緒に酒が飲みたいねえ。どうせ山賊の生死は問わないんだろ?だったら早い方法がある」


    リリアは右手を洞窟内部に向けて突き出した。


「出でよ、影狼シャドー・ウルフ


    リリアの影に変化があった。ユラユラと陽炎の様に揺れ始めた。さらに影は盛り上がり始め、何かが三つ飛び出した。


    漆黒の毛並みに赤い瞳の狼が三匹現れた。牙を剥き出しにしながら唸り、前足で地面を掻く。闘争本能に満ち溢れたその姿は主人からの命令を待ち望んでいる。


「行け、満たせ、あたしの可愛い狼達!」


    リリスからの合図をきっかけに狼達は赤い瞳の光の軌跡を残しながら洞窟に向けて駆けだした。


「うあああああああ!!」


    洞窟の中に狼達が入って数秒後、男の悲鳴が洞窟の奥から聞こえた。悲鳴は止む事無く、さらに奥から幾つも聞こえてきた。ただひたすらに手前から奥へと広がって行く。


    洞窟の奥では惨劇が広がり始めていた。

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