第9話


    夜の酒場に活気が溢れている。男達は飲み、食べ、騒ぎ活気を生み出している。時間は十一時、男達が笑い声を上げ楽しそうにしている中、カウンターの隅っこで一人飲んでいる男がいる。


    アークだ。カルラの屋敷を出た後にフラリとこの酒場に入った。カウンターに座るやいなやビールとつまみを頼み、一人飲んでいる。


「お兄さん、見ない顔だけど最近来たのかい?」


    酒場の店長が声をかけて来た。


「ええ、昨日来たばかりの冒険者なんだよ。それでふらっとこの店にね」


「そうかい!ようこそ、シャンテに。それでどうだい、俺の店は」


「なかなか良いお酒を使っているな。ビールもこの辺りの酒蔵で作られてるやつじゃないだろ?この辺りのはここまで美味しくないからな」


   アークの言葉に店長は驚いた。


「わかるのか!そうだよ、ここのビールは酒の隠れた名産地の一つ、ノルア王国のアルノアから取り寄せたんだよ。あそこはビールもワインも美味いからな」


「アルノアか……確か二ヶ月後に豊穣祭があって、今年のお酒が解禁されるんだろ。行かないとな」


   つまみのナッツを片肘をつきながら食べる。右手での掌で青魔法の一つ、冷却の魔法をビールが凍らない様にかけながらビールを呑む。喉をよく冷えたビールが通っていく。


「そういやお前さん聞いたか、近々勇者様達がくるらしいじゃねえか」


「ああ、そうらしいですね。まあ、俺には関係ないですけどね」


「ギルドのあんたに関係ないなら、ギルドに属してない俺はもっと関係ないな!」


    ハッハッハッハ!と快活に笑う店長。何時の間にか手にはビールの入ったジョッキがある。仕事中に大丈夫なのかとアークは心配してしまう。


「そういや、あんたのランクは幾つなんだい?」


「さっきAになりました」


「A!なんだ、そんな若いのに強いんだな。まだDかCと思ってたがまさかAとはな。うちにもよくAランクの冒険者がよく来るんだが______」


「アタシがどうかしたのかい?」


    第三者の声がした。アークと店長が声のした方を見るとそこには美女がいた。年齢はアークよりも少し年上、二十代中盤。一般的な女性よりも背が高い170センチメートル弱。自己主張の激しい胸に目が行きそうになってしまう。


    第一印象は黒、ドレスにも見える胸元の空いた黒のローブ、腰まで伸びた艶のある黒髪。黒の瞳は見ている二人を写している。


「なんだまた今日も飲みに来たのか?」


「またって、昨日も一昨日も来てないだろ……それよりアンタは」


    漆黒の瞳がアークを捉える。じっくりと観察していく、脳天からつま先までじっくりと。


「噂の新人さんだね。聞いたよ、ドラゴンを二匹も狩ったらしいね。何処かで修行でもしてたのかい?」


「ええ、してましたよ。それよりあなたはどなたですか?」


「おっとすまない。そういえば自己紹介がまだだったね。アタシの名前はリリス、こう見えてもAランクの冒険者だよ」


    両手を腰に当てて自慢げに胸を張る。


「馬鹿言うな、こいつもAランクだよ」


    店主のこの場にリリスは目を丸くした。


「嘘でしょマスター、その子昨日入ったばかりだよ。それなのにもうA?優秀なんだな、アンタ」


「そんなことは無い。師が優秀なだけさ」


「またまたご謙遜を。どうだい、今度一緒に任務しないか?アンタの実力が知りたいんだよ」


    アークの隣の席に座り込み肩を組むリリス、彼女の目の前には何時の間にか店主がジョッキがおかれてあり、既にビールが注がれていた。


「俺は構わない。他のAランクの実力を見てみたいしな」


    リリスはジョッキを持ってニッと笑った。


「よーし、それなら今から親睦を深めるために呑むぞ!」


    ジョッキを高く掲げリリスは宣言した。


    その後、親睦会は夜遅くまで続いた。

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