第4話
シャンテから西にある、シャンテの森。ここの森に住んでいるのはあまり強く無いモンスターであり、日夜冒険を始めたばかりの者達が鍛錬を行っている。
既に日は沈みかけており、あたり一面暗くなってきている。
「これくらいで十分か?」
アークは根っこから薬草を抜き取り、それを籠にいれていく。既に籠には大量の薬草が詰め込まれている。
アークが受けたクエストの内容は薬草を規定の籠に積んでくること。
アークの持っている籠にはクエストに必要な量が十分に入っており、いつでも街に戻ることができる。
しかし、アークは戻ろうとしない。何故か?興味があるのだ、この森に。この森にはアークの他にもたくさんの生物がいる。アークの様にシャンテの街から依頼を受けたギルドのメンバーやこの森に住んでいる精霊やモンスターなどなど。
薬草取りをしている最中もちらほらと冒険に出たばかりの様なメンバーも見えたが、暗くなってきている今では周りを見回しても誰もいない。それと同時にアークは違和感を感じていた。
アークは立ち上がり、耳を澄ます。今持てる感覚を全て聴力に預け、聴覚を研ぎ澄ましていく。
「やっぱ、聞こえねな。どうなってんだ?」
違和感、それはこの森がやけに静かということだ。昼間は鳥の鳴き声が聞こえていた。だとすれば今の時間には夜行性の鳥の鳴き声が聞こえてもおかしくはない。
しかし、今の状態は森全体が何かに怯えるかの様に静まり返っている。
辺りを探るため、瞳を閉じてより聴覚に意識を集中させて行く。
「助けてえええ!!」
森の奥で若い女の声が聞こえた。そしてそれと同時にドスン、ドスンと足音が聞こえる。
その音は此方に近づいてくる。100メートルは既に切っている。音が近づいてくる。音はだんだんと大きくなってくる。
「はあ、はあ!」
薄暗い森の奥から一人の少女が姿を現した。冒険初心者だろうか、シャンテの商店で購入できる様な装備を身につけている。
そしてその後ろからこの森を静かにさせていた原因が現れた。
5メートルは越える二足歩行の巨体。全身を仄かな赤い鱗に包まれている。その体を支えているのは二本の脚、その手は鋭い爪を持っている。噛み砕くための顎を持った頭には威嚇する様に睨んでくる目がある。
「ドラゴンがなんでここにいんだよ」
ドラゴン、それはこの世界に住む生物の一種である。群れで行動するものもいれば孤高に生きるものもいる。
しかし、いくらドラゴン種とはいえ、こんな初心者が活動する様な森には生息していない。それなのに何故ここにいる。
「とりあえず助けるか」
走ってくる少女に向けて体を向けるアーク、右手を走ってくるドラゴンに向ける。
「きゃあ!」
女の子が木の根っこに脚を掴まれ、こけてしまう。そしてドラゴンはこけた女の子に向けて口を開き、今にも少女を飲み込もうとしている。
「
アークの右手から魔力の雷でできた槍が射出され、ドラゴンに向かう。木々の間を通過、そしてドラゴンの額に突き刺さる。同時にドラゴンの身体に電気が伝播していき、身体の自由を奪っていく。白目を向いてその場に崩れ落ちた。
魔法が決まったのは運が良かった。もしあのドラゴンに電気に対する抵抗力があったのなら、今頃あの女の子は噛み砕かれて死んでいただろう。
「君、大丈夫か!?」
少女に向けて大声で叫ぶアーク。女の子はアークの方をみる。
「助けていただきありがとうございました」
鉄の胸当てをした亜麻色髪の少女がアークに向けて頭を下げる。
少女の名前はジーナ・クルト、18歳、シャンテの街の南にある小さな農村出身である。三日ほど前に旅に出たばかりであり、今日は初めてのクエストを受けていた。
薬草を採取している途中に誤って森の奥に進んで行ってしまい、そこでドラゴンに出くわし、追いかけられてしまったのだ。
「気にしなくていい、それより聞きたい事がある。なんであんなとこにドラゴンがいた?この森にはあんなドラゴンいないはずだろ」
「それは多分、近頃シャンテ火山にいる魔族のせいだと思います。噂によるとその魔族がかなりの実力者らしくて、それに怯えた火山の動物達がこっちまで避難してきたみたいなんです」
「魔族……そうか」
アークは昼間の農夫の話を思い出していた。ギルドにいる実力者が討伐に出ているが誰一人帰ってこないということを。
「アークさんはどうしてこんなところにいたんですか?」
「俺も君と同じ旅を始めたばかりだから、クエストを受けてここにきたんだよ」
「え?」
アークの答えにジーナが驚いた表情をする。
「え、ちょっと待って下さい。アークさん、それだったらなんであんなに強いんですか?少なくともあの魔法は中級以上でしたよね? 」
「ん?簡単だよ、旅に出る前から修行してたからね」
「そうなんですか」
「それより、早く街に戻ろうか。もう周りはくらいし、薬草は十分にあるだろ」
「は、はいわかりました」
「クエストお疲れ様でした。薬草は此方でお預かりしますね」
アークとジーナは無事にギルドまで戻ってこれた。帰り道にモンスターに襲われることもなく戻ってこれた。薬草も受付嬢に渡し、報酬のお金をもらった。
「あ、すいません。竜骨なんですけど、これもついでに換金お願い」
アークはそう言うと、ポーチから物を取り出した。ドラゴンの骨、所謂竜骨である。竜骨の使用用途は様々で市場ではそれなりの値段で取引されている。この竜骨は森の中で倒したドラゴンを解体して取り出した物だ。因みにドラゴンの肉は他に森にいた冒険者と一緒にで美味しくいただいた。
「うぇえ!竜骨ですか!?どうしてこんな物を!」
受付嬢が驚いている。ドラゴンの強さはピンからキリまで差はあるがEランクの者ではまず倒せない。それなのに今日初めてギルドにきた者がドラゴンを狩ったというのに受付嬢は驚いている。
「森にいたから倒しただけだ」
「はは、そうですか。この量だと金貨七枚でしょうか。あと次回から換金のほうは専用の受付がありますのでそちらをご利用ください」
「わかった」
受付嬢からお金を貰い、少し離れたところにいるジーナの元にいく。
「アークさんは何処に泊まるんですか?もしよろしければ私の部屋のベッドにあまりがあるので一緒に泊まりませんか」
「有難いお誘いだけど、遠慮させてもらうよ。宿ならギルドが経営してるところがあるだろうからね」
「そうですか、わかりました。なら今度よろしければ一緒に任務を受けてもらえませんか。私一人だけだと不安なので」
「そういうことなら構わないよ。今夜はもう遅いし、またね」
アークはジーナに向けて軽く頭を下げる。ジーナもアークに合わせて頭を下げる。
そしてアークは振り返り、後ろに向けて手を軽く振りながらアークは出て行った。
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