一章  勇者と魔王の息子

第2話


「アークは何でここに住んでるんだい?王国の人から聞いた話だとマーリン様は気難しい方らしいけど」


「生まれた時からここで暮らしてるんだよ。それと何でお前はここに来たんだ?魔法を教わるためか?」


    森の中をアークとカナトは歩いている。数分間は歩いたがまだ目的地であるマーリンの家にはつかない。


   そもそも二人が歩いているこの森が広すぎてたかが数分歩いたところで到着するはずがない。現在地から歩いて行くなら最悪でも一時間はかかる。


「ああ、先代の勇者様と同じ様にマーリン様の元で力を付けようと思ってね」


「そうか、でもそれは多分無理だ。あの人は今の連合軍を嫌っているからな」


「それは本当かい、困ったなどうしよう」


    頭を抱え込みながら悩むカナト、それを見たアークは足を止め。


「つーか、じーさん。さっきから見てるんだろ、早く姿を表したらどうなんだ」


    誰に向けて放ったわけでは無い言葉、それが森一面に広がり。


「ふぉっふぉっふぉ、やはり気づいておったか」


    何処からともなく老人が現れた。手に木で作られた長さ百六十センチメートルほどの長さの杖を持ち、青を基調としたローブで身を包み込んでいる。顔には豊かな白い髭と髪が生えており、優しい顔立ちをした老人。彼が大魔導師マーリンである。


「気配がしたからな、話を聞いてたならわかるけど、こいつに魔法を教えるのか?」


    カナトに指を差しながら、アークはマーリンに問いかける。マーリンは髭を弄りながら考へる。


「やめておこう、儂もゆっくりと引退したい。それに連合軍は優秀な魔導師たちがおるじゃろうしな」


    その言葉にカナトは驚いた。


「そんな、待ってください!僕は連合軍にいる魔導師たちから貴方の噂を聞いて、ここまでやってきたんです。お願いします」


    頭を下げて頼み込むカナト、そんな彼を見てマーリンは顎鬚をいじりながら。


「お主は何故この世界を救う。この世界はお前さんがいた世界ではない。こちらの世界のものが勝手にお前さんを召喚した、それなのに何故お前さんは救おうとしている?」


「それは……」


    カナトは言い淀んだ。言いたいことがあるのにそれを言わずにいる。

 

「それに儂は疲れたんじゃよ。先代の勇者に魔法を教え、そしてどうなったかを見てきた。だからもうしたく無い。違う世界から来た者に魔法を教えることはな」


「そこを何とか、お願いします!


     頭を下げて頼み込むカナト、その様子にマーリンは思わずため息をついた。


「はあ、そうじゃの。お主、勇者なら魔力と武器は使えるよな」


「はい、一応。魔法ぐらいなら初歩的なものなら可能です」


    そういいながらカナトは背中に背負っていた剣を引き抜いた。シンプルなデザインの長剣だった。何処かの国の衛兵が身につけていそうな。


「よかろう、ならそこのアークと戦え。もし勝てばお主に魔法をおしえてやろう」


「はあ?」


    いきなり呼ばれて驚くアーク。アークにとっては予想外の答えだったのか、声が少し抜けていた。 


    だがそんなアークの様子はお構いなしにマーリンは話を進めていく。


「ルールは簡単、戦って最後まで経っていた方が勝ち」


「……わかったよ、じーさんがそういうならな」


    アークは観念し、準備し始める。着ていた上着を脱いで、袖を腰に巻きつけて袖同士を結ぶ。


「マーリン様、その約束お忘れなく」


「甘いぞ、今のお主じゃあいつには勝てん。ここではなんじゃ、地形を変えるぞ」


    そう言うとマーリンは杖で地面を叩く、すると一瞬にして周りの木々が吹き飛び開けた土地に変わった。


「これでよかろう」


「強引だな」


    アークとカナトは互いに準備を始める。とはいっても十五メートルほど互いに離れるだけだが。


「アーク、僕は君に勝つよ。勝ってマーリン様からの教えを受ける!」


「悪いけどさあ、じーさんが乗り気じゃないから、勝たせてもらう」


    剣を構えるカナト、それに対してアークは何も構えはしない。手をぶらぶらと動かしながら相手の出方を待っている。


    叶斗が肉体に魔力を循環させて肉体を強化させる。


    魔力、それは生命力とも言われるモノで魔法を使う際に使用したり、血管を通じて肉体に循環させることによって流していない時とは比較にならないほどの強さを得ることができる。


「行くよッ!」


    カナトが駆ける、常人よりも早い速度でアークに近づく。肉体強化の恩恵だろう。


    それに対して、アークは左手を向け。


「炎よ」


    ただそう言った。


    左手から炎が飛び出し、カナトへと迫る。


    カナトはこれを横跳びで躱し、右手を前に突き出す。


「雷よ突き刺され、サンダー!」


    叫ぶ、それと同時に雷の槍がアークへと向かう。


「水の守護を」


    左手を軽く振るい、その軌跡から薄い水のベールが現れて雷の槍を包み込み、消失させた。


    カナトはこれに驚いたが次の行動に移る。左手を天高く掲げ、そこから巨大な火の玉が出現する。


「万物を燃やす炎の玉よ現れよ、フレイムボール!」


    左手を振り下ろし、火の玉を投げつける。直撃すれば火傷ではすまないだろう。


「中級の赤の魔法か、覚えたてでここまでやるなんてな。流石は勇者様。すごいすごい。けれど、水よ吹き飛ばせ!」


    左手から出てくる大量の水、それによって火の玉はいとも簡単に消えてしまった。


   そしていたはずのカナトが目の前からいなくなっていた。


「もらった!」


    アークの背後から聞こえるアラタの超え。そう、カナトは火の玉を囮にして背後に回り込んだのだ。胴の如く、アークの右側の腰めがけて剣が動く。アークは背後を振り返らずに剣の軌道上に右手を持ってきた。


    あと数十センチで剣が届く、そう思いカナトは勝利を確信した。


「甘い」


    カナトの剣が何かに阻まれた。


「なッ!」


    カナトの剣を防いだ物、それは薄い光の膜。中級白の防御魔法の一つ、その光の膜はカナトの剣を優しく受け止めている。


「終わりかい?なら今度はこちらの番だよ、勇者様」


    剣を弾き返し、カナトに対して正面を向く。そしてカナトの胸の目の前に手を添えた。


「ウインドボム」


    緑の魔法中級、ウインドボム。手のひらに溜めた空気を魔力によって爆発させる魔法。


    その魔法はカナトの胸当てに罅を刻み、カナトを数メートル背後にある木まで吹き飛ばした。背中を木の幹にぶつけたカナトは地面にうつ伏せになってしまう。


「つっ……まだだ」


    満身創痍のカナトがなんとか立ち上がろうとする。


「やめておいたほうがいい、今の君じゃ話にならない」


「けれど、諦めるか!」


    剣を支えにしながらカナトは立ち上がった。しかし、その体は既に剣を振れるような状況ではない。


「そうか、なら痛いが死ぬなよ」


    アークの右手から巨大な光の球体が放たれた。白の魔法中級の一つであるそれは土を吹き飛ばしながらカナトへと向かう。


「負けるか!」


    残された力を振り絞って剣を振り上げて叫ぶカナト、剣に強化の魔法をかけて斬撃の威力をあげる。やがて剣はキラリと白く輝く。


「いけええええ!」


   迫り来る魔力に向けて、剣を振り下ろす。魔力によって覆われた剣と放出された魔力がぶつかり、つば競り合う。


     カナトの振るう剣が、魔力に食い込んでいく。段々と魔力が剣によって引き裂かれ様としている。


ピキリッ


    カナトの持つ剣に皹が入る。それでもカナトはかまわず剣を振り下ろし、魔力の塊が切断されて後ろに飛んで行き爆発を上げた。


そして


「……ッ!」


    カナトが力を使い果たし、膝から崩れ落ちた。片膝をつく叶斗、そこにアークがゆっくりと近づいてくる。


    トドメをさすのか、叶斗はそう考えたが実際には違った。これから起きるのは叶斗にとっては唯の恐怖なのだから。


「トドメはないのか?」


「…………」


    叶斗からの問いかけにアークは何も答えない。無感情で無反応。

    

    アークはしゃがみこんで、叶斗の装備している剣の刃を素手で掴むと、剣先を自分の首に当てた。


    叶斗はアークの行動の意味がわからなかった。少しでも叶斗が剣を突き出せば、アークの喉を剣が貫き死んでしまう。


    そうなれば勝者は叶斗になり、無事にマーリンから魔法を教わることができるようになる。それはアークが嫌がっていた筈だ。


    剣を引いてみようと思ったが、アークの驚異的な握力がソレを阻んだ。剣が少しも動かない。


「なんの……つもりだ」


    叶斗は再度アークに問いかける。


「刺してみろ……」


    今度はアークから返答があった。その内容に叶斗は耳を疑った。


「……なんだって?」


「刺してみろと言ったのだ。これは、貴様への問いかけだ。真に貴様が大魔導師マーリンから魔法の教えを望み、乞うならばそれを示してみろ」


    叶斗の目を真っ直ぐ、アークの目が捉える。その目は笑っていなかった。感情はなかった、そこにあったのは唯の問いかけである。


「やめろ……やめてくれ」


    剣を持つ叶斗の手が震える。この表現できない恐怖から逃走しようと、叶斗は剣から手を話そうとした。だがそれをアークの見つめれば飲み込まれてしまいそうな純黒の瞳が阻む。


「逃げるな……逃げることは許さない。オレは問いかけてるだけだ。お前の勇者としての覚悟を。生者を屠り、死者を踏み潰し、犠牲者を省みずに、唯醜悪な者の為に戦う覚悟があるのかと問いているだけだ」


    アークの纏う雰囲気が変わる。日常から戦闘時への変化とは違う。まるで別人になったようだと、叶斗は感じた。


「答えろ、答えるんだ。これは既に問を超えている、命令だ」


     剣を掴むアークの手により一層力が入る。


「たかが一人を殺すだけで貴様は至高の魔法を知れるのだぞ。さあ、やってみろ。貴様が気高い理念の元にこの剣を私に突き刺せ。オレはそれを悦んで受け入れてみせよう」


    狂気的な上辺だけに貼り付けたような笑を浮かべながら、アークは叶斗に囁いた。


「…………だが、もし何の理念も理想もなくオレを刺した時は、貴様を軽蔑する」


    逆光に照らされるアークの顔、それは叶斗の目には御伽話に出てくる悪魔のソレに見えた。


「さあ、選べ。勇者とは唯の栄光ではないぞ、象徴でもない。救世の光だ。貴様はソレになれるのか」


    アークの発言は叶斗の恐怖心を増すものであった。勇者としてのあり方が怖いのではない。アークという見たことのない生物が怖いのだ。


「ああああああ!!」


    恐怖心が限界に達した。


    震える手を押さえ込んで、叶斗は鉄の剣をアークの喉に突き刺した。


     今までに味わったことのない不気味な感覚が叶斗の体を蝕む。人の体を貫く感覚。


「あ……ああ」


    自分がやったことが理解できずに、叶斗は目の前に広がる光景を見て驚き、尻餅をついて後ずさった。


    アークの首に剣が突き刺さっている。剣は確実に肉を切り裂き、血管を断ち切っている。


    血管から零れた血は剣を伝って、刃を掴むアークの右手を赤に染める。


    叶斗から見てそれは致死性の傷であった。自分は人を殺してしまったという罪悪感が叶斗を苛む。


    だが。


「貴様……今刺したな」


    アークから放たれた声は今までの声以上に怒りと失望が込められていた。


「理念も理想もなく、唯恐怖に負けただけでオレを刺したな。舐めるなよ、魔法でもなんでもない唯の剣を首に刺しただけで俺が死ぬと思ったのか?」


    鉄の刃をまるで紙のように簡単に握りつぶした。剣を首から引き抜き、近くに投げ捨てた。


    血が溢れ出るが、そんなことをアークは気にしない。何もせずにその傷口は光に包まれ、そして塞がれていく。


    自分を突き刺したから激怒しているわけではない、自分の父親と同じ勇者というモノを甘く見ていた為に激怒した。


「貴様はじーさんの魔法を教わる資格はない。だから去れ」


    叶斗のデコにデコピンを一撃、たったそれだけでアークは叶斗の意思を刈り取った。


    地面に倒れ伏せた叶斗。


    アークは頭を何度か軽く突ついて、様子を確認する。纏っていたおぞましい気配は何処かに霧散した。


「気絶したか、なら勝ちだな。じーさん、勇者様はどうするんだ?」


    アークはこちらに歩み寄ってくるマーリンに声をかける。


「そうか、ならば転移の術でグルナの王都の近くに飛ばすとするか」


    マーリンが持っていた杖を一振りする。するとカナトの身体が光に包まれ、やがて消えてしまった。マーリンが得意とする空間魔法の一つ、転移魔法。


    その様子を見ていたアークは何処か何か考え事をしている様に見えた。


「……よかったのか」


「何がじゃ」


「いや、勇者に魔法を教えなくてさ。親父には教えたんだろ」


「彼奴は儂が呼び出したらの。今回の勇者に関していえば、儂は何も関係無い。召喚した奴が責任を持って教えれば良い。それにもう儂は嫌なんじゃよ……」


「そうか……」


    悲痛な顔をしているマーリンに対して、アークは何と声をかければ良いかわからなかった。マーリンのこんな顔を見るのは両親が死んだ時、その事実を話した時以来だとアークは思った。


「戻るぞアーク、ご飯の時間じゃ」


「あいよ、じーさん」

    















    森の中にある少し大きな家、そこに二人は住んでいる。部屋数は個人の部屋、そして書斎などを合わせて合計5部屋。二人で住むには充分な広さだ。


「なあ、じーさん」


「なんじゃ、アーク?」


    夕食も食べ終え、森に住んでいる動物達と触れ合っているマーリンにアークが声をかけた。


    マーリンはアークの方を向かずにずっと動物を撫でつづけている。


「俺、旅してみてもいいか?」


「藪から棒に、如何してそんなことを言い出したんじゃ?」


「なんとなくっていうわけじゃないけどさ。今まで何回かじーさんに連れられて外に行くことはあっただろ。それに今日勇者来ただろ。それで前々からあった旅に出たいっていう思いが膨れ上がったんだよ」


「魔王でも倒す気か?」


「それはまだわからない。けど、見て見たいんだ。父さんと母さんが出会った世界をね、それにこんなとこで一生を終えるのは嫌だし、見て見たいものも沢山ある」


「……そうか、お前さんがそう言うと前々から思ってたんじゃよ。だから其れなりに用意はしてある。これはお前さんへの餞別じゃ」


    マーリンはそう言うと、自らのローブの内側から三つの袋を取り出して渡した。


「儂特製の魔法の袋マジックポーチじゃ、これは小さいが中は異空間になっていてたくさんの物がはいるぞ」


「ありがとな。じーさん」


「よい、それでいつ出発する気か?」


「明後日の昼には出発するよ。そして近くの街によって、ギルドに行って資金を貯めるよ」

    

「そうか、それならシャンテの街がよい。彼処のギルドは儂の旧友がおる。紹介文の一つでも書こう」


「何から何まで悪いな」


  「気にするな 。久しぶりにそやつに文を渡したかったからのお、ついでじゃ。どれ、今日は遅い。もう寝ろ」


「わかった。ありがとな、じーさん」





    夜、獣すら寝静まる時間帯、アークはある場所を目指して歩いていく。


    歩く道は綺麗に整備されていて、ゴミ一つ落ちていない。普段から清掃されていることがうかがえる。


    ゆっくり、それでも一歩一歩確かな足取りでアークは目的地に向かっていく。


    マーリンには寝ろと言われたが、アークにはどうしてもいかなければならない場所があった。その場所に行かなければ自分が旅に出れないことを理解しているからだ。


    月光によって地面に映し出されるアークの影がゆらりとぶれた。そして美しく醜くその姿を変貌させていく。




    アークは目的地についた。


    そこは地平線の彼方まで続く広大な花畑。この花畑には、アークの両親が最も好んでいた花が植えられてある。


    この花には白と黒の二種類の色があり、一面に広げられているこの花畑に白と黒の美しいコントラストを描き出している。


    この花畑は両親が作り上げたモノであり、両親が死んでからはアークとマーリンの二人が管理しつづけてきた。


    花畑の中の道をアークは歩いていく。


    そして花畑の中に花以外で唯一存在しているモノの前に立った。


    ソレは墓、アークの父の出身国の墓ではなく、西洋風の墓石だ。そこに刻まれてあるのはアークの両親の名前。


    だがここには両親の遺体はない。そもそも遺体は存在していないのだ。


    アークは片膝をついて、墓石に話しかける。


オレ、夜が明けたら旅に出るよ。ごんなさい、急な話になってしまって。でも前から考えていたんだ、世界を見てみたいんだ。父さんが召喚されて、母さんが生まれ育って、そして貴方達がであって愛を育てた世界を。ほら俺さ、こんな体だろ?だからさ人間にも魔族にも近づける。でも近づかないと思う。だって美しいモノは少ないから、あの世界には醜いモノ達が蔓延っているから。こんな事を言ってしまったら、貴方達は怒るでしょう。けど、オレはこうなってしまったんだ。貴方達のように美しく在りたかった、でも醜くなってしまった。これも魔人であるからか。恨んでしまった、憎んでしまった。命をかけて守られたというのに…………申し訳ない。だから次にこの場所に訪れた時はオレの決着を付けてからくるよ。貴方達になんの恥じらいもなくなってきます。だからまた会いましょう、オレの愛しい人たち」


    墓石に愛しそうに口付けをした。


    ユックリと立ち上がり、墓に背を向ける。


    一歩、また一歩と復路を歩き出すわその足取りは往路の優しい歩き方とは異なり、大地を掴むような強い足取りであった。


    柔らかい風が吹いた。花畑に咲き誇る花々を乳児にするように優しく撫でた。


    アークもその風にそっと押された。アークは立ち止まり、背後の墓を見た。


「…………行ってきます」


    アークはまた歩き出した。



    そして旅立ちの日、マーリンの家の前でアークの見送りをマーリンがしている。 


    アークの格好はゆとりをもたせた灰色のローブに長ズボン。そして羽織っているローブによって隠されている腰に魔法の袋が三つつけられている。


「それじゃあ行ってくるよ。また戻ってくるからさ」


「わかっておるわ、そんなこと。それと手紙じゃ」


    マーリンはアークに手紙を渡し、受け取ったアークはそれをポーチに入れた。


「儂はお前さんが旅に出てもこの世界にい続ける。気が向いたら戻ってくるが良い」


「いってきます」


「おう、いってこい」


    アークはマーリンに対して手を振りながら、旅に出た。

















「ひどい目にあったそうじゃねえか、叶斗」


「そういうわけじゃないよ」


    カナト達を召喚したグルナ王国の王が住む城の一部屋に四人の男女がいた。 


    一人は勇者カナト、マーリンに転移された後、この部屋のベッドで気絶していたのを一緒に異世界から召喚された仲間が見つけた。


    カナトと話しているのは白い髪をオールバックにし、服の上からわかるほどの筋肉を持った男。『一条厳』、カナトとは小学校からの悪友であり、召喚される前は幾つかの武道を習っていて優秀な成績を収めていた。この世界においては所謂『武闘家』というものになり、日夜城の兵士と共に鍛錬している。


「でもそのマーリンって言う人、この城の魔術師より凄いんでしょ。なんで叶斗に魔術を教えてくれなかったのかしら?」


    赤色の髪の少女が喋る。


    身長は160センチメートル、胸はそこそこある。彼女の名前は『笹野花梨』、カナト達と一緒に召喚された人間。遠距離武器や攻撃魔法を得意としている。


「それはわからない。けどマーリン様の元には一人だけ弟子がいて、すごく強かったし、怖かった」


「はあ!?ちょっと待ってよ。そのマーリンって人は叶斗には教えないけど他の人には教えるって言うの!そんなの不公平じゃない!」


    カナトの言葉に対してカリンが反応し、椅子から立ち上がる。


「そう言うなって、花梨。マーリン様にも何か事情があると思うんだよ。先代勇者を鍛えて、何か考えがあるんだよ」


「叶斗がそう言うなら……」


    花梨はそう言うと椅子に座り直した。


「それで次はどこに行くのかしら?叶斗」


    最後に残された一人の女性が喋り出した。青黒色のロングの髪、身長は170を越えているモデル体型。胸のサイズもアカネよりか大きい。『道明寺咲』、ローブを身に纏っている彼女は魔法全般を得意とする。


    四人は同じ大学に通っている同級生で、ある日突然この世界に召喚された。そしてそこでこの世界のことを聞かされ、救うために立ち上がったのだ。


「そうだな、王様にはシャンテに行けって言われてるよ。そこのギルドで幾つかの依頼をこなせってさ」














    グルナ王国の王都の城、その城の会議室のような部屋に二人の男がいた。


「勇者カナトはマーリン様の元から帰ってきたらしいな」


    一人は老人、白髪に年をとった威厳のある顔立ちに物事を見極めるような鋭い目つき。彼は先代グルナ王国国王、ウルラ・グルナ。現在は連合軍の議会の議員の一人である。


「それが勇者の話によると、マーリン様の家に一人の青年がいたそうです」


    もう一人は現国王である、リヴァル・グルナ。かつて勇者と共に旅をし、ともに幾つもの戦場を乗り越えて来た者だ。今現在は新たに召喚したカナト達をサポートしている。四十代の割に未だ顔つきは若々しいが、金の髪の毛には所々白髪が見える。


「青年?そ奴の名はなんだ」


「確か、アークというらしい。なんでも、幼い頃からマーリン様の元で修行しているらしい」


「……そうか。それより、勇者の様子はどうじゃ。数日後にシャンテの街に行かせるのだろ」


「あいつと同じように旅をさせて修行させるつもりだ。勿論、この国の技術を駆使してつくった魔法具を持たせる…………こんな時にいうのはなんだが、あの剣があれば今の勇者はより強くなるんだがな」


「今更そんな事を言っても遅いぞ。それに先代が使っていたあの剣は特殊だ。今の勇者を認めるかわからんのだぞ」


「そう……ですね。まあ、幸い魔族の方もまだ先代魔王の遺体も使っていた剣も見つけていないようですし」


「消失した勇者と魔王、そして二本の剣。あの決戦で一体何があったというのじゃ」


「それはそうと父上、ノルア王国についてなのですが」


「あの国がどうしたというのじゃ」


「どうやら、我々とは別にまた新たな異世界人を召喚しようとしているそうです」

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