第46話
アークと宗麻が戦った翌日、アーク達は家の外に出ていた。周囲は樹々に囲まれており、今いる場所が森の中だと推測できる。
そこで宗麻が見た光景は衝撃的なものであった。
宗麻はこの二日間の間過ごしていた、建物の大きさは相当な規模のものだと思っていた。
しかし、実際の建物の大きさは普通の市販されているテントほどの大きさしかなかった。大きさが余りにも釣り合わない。
宗麻がその事に戸惑っているのを余所目に、アークはテントを一瞬でたたみ、魔法の袋の中に収納した。
「驚いているのか?」
宗麻の様子を見兼ねて、アークが尋ねた。
「ああ……不思議だな。どっからどう見ても只のテントのはずなのに、中に拡がっているのは巨大な住宅ときたもんだ。こんなの見た事がない」
「当たり前だ。魔法を使ってるからな、君が見た事ないのは当然。しかもこれは俺が爺さんから直接手解きを受けて作り上げたモノだ。この空間の中に一つの世界を作り上げた。そんじょそこいらの魔法使いに作られてたまるか」
口早に喋るアーク、その中で宗麻はアークの放った言葉の中である部分が引っかかった。
「爺さん?……あんたの言う爺さんって誰なんだ?」
この世に先代勇者の父親はいない。先代魔王もそうだ。それなのに祖父がいると言うのはおかしな話だ。
「ん?ああ、マーリンって言えばわかるか。大魔導師マーリン」
「マー……リン!」
宗麻はその名前に聞き覚えがあった。
それは、幼馴染である如月葵が城の中で偶然見つけた名前、自分たちが元の世界に帰るための鍵になるかもしれない人物。
本来ならばその人を探すために旅に出る予定であった。
その予定が狂った今、まさかこうしてその者の家族と出会えた事は幸運であった。
「なあ、教えてくれ!そのマーリンって言う人は何処にいる。その人ならわかるはずだ。帰る方法が、日常を取り戻す事が!」
宗麻は鬼気迫る表情で、アークの両肩を掴む。
望みがある。
細い糸が目の前にある。
ならば縋るしかなかろう。
切らすわけにはいかない。
両肩には命が乗っている。
「まあ、落ち着け」
アークは両肩にかかった宗麻の両腕を外して、事情を説明し始める。
「じーさんについてたが、説明し辛いな。会うにしても、ここからだと遠いな。いや、遠いと言う言葉は不適切か。距離がないんだ」
「距離がない?」
「そう、距離がない。何処からでも行けるが、何処からも行けない。じーさんは自分が作り上げた空間に住んでいる。それはこの世の隣に存在している」
宗麻にとってはにわかに信じられない話であるが、アークの目が真実であると語っていた。
「じーさんのいる場所には認められた者しか行けない…………まあ、つい最近ムカつく国家が不法侵入してきたがな」
アークは肩をすくませながら、ニヒルに笑う。
「じゃあ、俺を今すぐ連れて行ってくれ。できるんだろ」
縋る。
しかし。
「断る。俺はお前をギルドに連れていかなければならない」
宗麻の願いを平然と切り捨て、アークは己の都合を優先させる。
「お前は俺に従うしかないぞ。それに、お前が優先すべきなのは友を救うことではないのか?あの国が何をするのか、わかったものではないぞ」
「うっ…………」
アークから放たれた言葉に宗麻は気持ちを止められた。
確かに、アークの言うように友人の安否を確認するのが第一のはずだ。
「……わかった。あんたの言うことに従う」
自分の親指が砕けるほど力強く握り拳を作りながら、宗麻はアークの行動に従うようにした。
それしか道がないのだから。
「そうか、それなら早速出発するか。君が予想以上に寝ていたからね。時間がなくなってしまった。走るよ」
「ギルドに向かうのか?」
「いや、違うよ。その前にアルノアのという場所の豊穣祭に行かなきゃならない。本来なら、君をギルドに送ってから行きたかったんだけど、そうはいかなくなったからね」
「ギルドに行かなくていいのかよ」
宗麻はジト目でアークを睨みつける。まさか、自分のいった言葉を速攻で無視するなど、思ってもいなかった。
「豊穣祭は今日までだし、走れば日がくれるまでには到着するから問題はない」
「自分勝手だな……」
「自分勝手だよ」
「二人とも、何をしておる早く行くぞ」
話し込んでいる二人を無視して、シキノは何処かに向けて走って行った。
それに続けてアークも走り出し、その背中を追って宗麻も走り出した。
アルノアまでの道のりは病み上がりの宗麻にとっては過酷なものだった。
アークとシキノは宗麻のことなど気にせずに、陸上のトップ選手でも出せないような速度で走り続けている。それも息を切らせることなく数十分間。
宗麻はアークの真後ろを、風除けにしながら、体力の続く限り走り続けている。
森を抜け、山路を走る。
「なあ、いつつくんだよ」
体力がそこをつきかけそうになった時、宗麻はアークに話しかけた。
「そうだな、あと少しだ。ほら、見えてきたぞ」
アークが指を指した先には一つの村があった。遠くから見ても、活気に溢れているということがわかる。
「あれが目的地のアルノアだ」
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