第40話
肉体よ煌めけ。
魂よ咆哮せよ。
今だけは、限界を超え続けてくれ。
この戦いが終わった後に俺の体がどうなってしまおうと構わないから。
醜い者になってしまおうと構わない。
だから………………
ぶつかり合う。
もし今一瞬でも気を抜いてしまえば、この戦いに負けてしまう。
槍と爪が弾き合う。カン高い音を響かせながら、戦闘はより激化していく。
現在のところは俺の方が優勢で戦えている。
既に何分か経過しているのかもしれない。時間感覚を既に失っている。
一本、モンスターの左腕を切り落とす。石突で肩を砕き、後方に下がって距離を取る。
魔法の一つでも牽制に使えるのであれば少しは楽に戦えるようになっていくのかもしれない。
だが今の俺にはそんなことをする余裕なんてモノは何処にもない。
肉体から溢れ続けてくる荒波を抑え続けなければならないから。
地で踊り、宙で舞う。
ここは俺の独擅場。
攻撃をしかけ続ける。戦局は明らかに俺の方が優勢。このままいけば直ぐに勝敗は決するだろう。
そうは上手くいかない。
「ッ!?」
突如として左腕が石のように重く感じ、指も動かせなくなった。腕から滲み出てくる痛みが、自分の死を感じさせるものであった。
動かなくなった左腕を使わずに右腕だけで槍を降る。先程よりも穂先の方を握り、リーチを殺す代わりに振りやすさを優先させる。
押され始める。威力も速度も落ちてしまった攻撃ではモンスターの野蛮な暴力には勝てない。
ならば。
穂先で切り上げて、モンスターの右腕を切り落とす。
最大最強の命をかけた一撃を食らわせてやるよ。
大きく上空に跳躍。もはや着地の事など考える余裕なんてない。脚に回していた魔力を全て右腕と槍に流し込む。
右手の筋肉が今にも破裂しそうになる。それほどの筋肉で、この剛槍を打ち出してモンスターを肉片も残らず吹き飛ばしてやるさ。
モンスターが此方を見る。先ほど俺たちの必殺技と相殺しあったように、体を弓なりに反らして大量の息を飲み込む。
俺の攻撃の威力を殺して、致命傷を避けるつもりなのだろう。
確かに俺一人だけならそうなってしまうだろう。
けどなあ、戦っているのは俺だけじゃないだろ。
そうだろ、鋼牙。
「ウラアアアアアアア!!」
何時の間にか目覚めていた鋼牙が、モンスターの懐に潜り込んでいる。モンスターも俺の存在に気を取られすぎていたのか鋼牙が近づいて来ていた事に気づかなかったようだ。
腕には魔法具の篭手をつけておらず、素手でモンスターに殴りかかっている。
だがその腕には黄金の輝きが宿っていた。それは正に魂の煌めき、生命の力。
「貫けエエエエエ!!」
モンスターの腹に撃ち込まれた拳、黄金の煌めきは一層激しさを増して渾身の一撃へと昇華させる。
一撃の衝撃で宙に浮かぶモンスター。吸い込んだ息は全て吐き出され、無抵抗に宙を漂う。
「イケエエエエエエ!!」
渾身の一投。
風を切り裂き、モンスターに向けて進んでいく剛槍。ソレは瞬く間にモンスターの肉体を貫く。
槍に貫かれ、壁に貼り付けにされるモンスター。その肉体は原型をとどめる事ができず、骨の周りを肉付けしていた泥がこぼれ落ち始めている。
肉が全て剥がれ落ちて、骨が落下する。槍も砕け散った。
終わったか……辛かった。
落下していく。脚にも力が入らないため、着地することができない。なので動かない左腕を盾にして地面に落ちる。
体全体に衝撃が走る。しかし、左腕に痛みはない。神経がなくなっているかのように動かせず、感覚もない。
「立てるか?」
鋼牙が倒れている俺に近づいてきて手を伸ばしてくる。利き腕の右腕ではなく左腕を伸ばしてくることから、さっきの一撃で右腕がおかしくなったのだろうか。
「立てる……先に戻っていてくれ。お前も右腕、折れてるだろ」
「そうか、わかった」
それだけ言って、鋼牙はみんなのところに左手で右腕を抑えながら戻って行った。
「俺も戻らないと」
視界が霞んできやがった。どうやら無理しすぎたようだ。
右腕を支えにしながら、横たわった状態から胡座をかいた状態に体制を変える。
たったそれだけの行動なのに、倦怠感が襲いかかる。
ゆっくりとじっくりと時間をかけて起き上がる。ふらつく脚に力を入れる。戻れるんだ。でも……まだやらなくちゃいけないことがあるんだ。
生徒達から歓声が上がる。今度はさっきのようなぬか喜びではない。本当に終わったんだ。
でも、まだ後ろの扉の結界を壊してはいない。あれをどうにかしないとここから出ることはできない。
「宗麻くん!」
葵が結界から飛び出して俺に走り寄ってくる。目には涙が浮かべられている。
ほら、泣き虫じゃないか。
全く……悲しくなるだ……
ズサリ……
音がした。何かを貫く音であった。
何が起きた?よくわからない。葵の顔が絶望に染められていく。そんな顔するなよ、辛いじゃねえか。
葵を抱きしめようとして一歩脚を踏み出す。だが地面を踏みしめようとした脚は力なく折れ曲がった。
倒れていく俺の肉体、それを葵が抱きしめた。
そして俺はその時初めて気づいた。
俺の胸に、モンスターの黒い触手のようなモノが突き刺さっていたことに。
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