第3話「この勝負の重さ・・・」

何とか、クリスを三振に抑えた二人だった。

(裕也)『良かった~、それにしても・・・改めて思ったのは、

     城本君達のプレッシャーが半端ないよ~。でも、あとひとつでこっちの勝ちだよ!

     兄さん。』

裕也は、拓也にボールを返した。

拓也は、落ち着いた表情でマウンドに居たが、心の中は不安でいっぱいだった。

(拓也)『ふぅ~。何とか三振で終わったな。でももし、芯に当たってたら・・・、

     今頃持ってかれてたな。』

クリスは、三塁側のベンチでバットを変えて持ってきた。

しかし、彼が持ってきたのは・・・・・・、金属バットだった。木製バットが主流のアメリカで年間30本ホームランを打ってる男が、金属を使ったら勝ち目が無い。

(裕也)「お前・・・、どうして金属を持ってるんだ?」

裕也は、驚きを隠せなかった。体の作りが違う為、日本人からしてみれば脅威のパワーを持ってるバッターが金属バットを持ってるのだ。まさに[鬼に金棒]とはこう言うことを言うのだと裕也は悟った。

(クリス)「いや、後ろの顧問が日本ではバットこれだからって渡されたんだ。」


(新次郎)「嘘だろ・・・。」

突然のクリスの金属バット姿に一塁ベンチに居る新次郎達も驚いてた。

(勇気)「さっきのバットと何が違うんですか?」

野球の知識が乏しい勇気が聞いた。芯は勇気の質問にこう答えた。

(芯)「日本人は、何も思わないで使ってるけど・・・、あれは外国人が使ったら・・・

    脅威のパワーを出す。だから、外国人には禁断のバットだよ。」

(勇気)「答えになってませんよ・・・。」

勇気はそう答えた。

(ルイ)「簡単に説明するとね、さっきクリスが使ってたのは[木製バット]って言って、

     芯に当たらないと飛距離が出ないのよ。でもね、金属は違う。

     金属は、力が弱い人でも当たれば飛べるように出来てるわ。

     もし、力のある外国人が、力の弱い人用の金属バットを使ったらどうなる?」

ルイは、勇気にそう聞いた。勇気は、深く考えて絶望的な顔して答えた。

(勇気)「ま、まさか・・・、さっきの対決よりクリスの方が有利になってしまう・・・

     と言う事ですか?」

(新次郎)「まぁ~、そう言う事だ。まさか、金属を用意してたとは・・・、

       誰も考えてなかったよな。」

そう言うと、ベンチは敗戦ムードに包まれた。


(裕也)「た、タイム!!」

裕也は、走ってマウンドに向かった。

予想外の事態にバッテリーは驚きを隠せないで居た。

(裕也)「ど、どうしよう兄さん。クリスの奴、金属を手にしたよ。

     やっぱり、変化球投げないと勝てないよ。」

(拓也)「おいおい、気にしすぎだろ?大体、バット軽すぎてまだスイング合わないから

     今のうちに片付けるぞ。」

と言うと、拓也は裕也を戻して、マウンドの土をを慣らした。

(松沢先生)「プレイ!」

こうして、二回戦が始まった。

裕也は、困惑しながら拓也にサインを出した。

(裕也)『アウトコースに・・・、丁寧に、慎重に。』

そう思いながら、裕也はアウトコースに構えた。それを見てから、拓也はモーションに入った。クリスは、バットを振ろうとしたが途中で止めた。

「バシーン!!」

(松沢先生)「ボール!」

コースぎりぎりのボールだったが、わずかに外れてる。拓也も驚きを隠せないような球だった。裕也は、頭の中で試行錯誤してた。

(裕也)『アチャー・・・、今のストライクじゃないのか・・・。しかたがない兄さん。

     ここは、インコースだ。』

裕也は、インコースに体を移動して構えた。拓也は、不安だった。さっきクリスを仕留めたのも・・・、インコースだった。となると、やはりバッターはインコースに警戒するはず、それに配球も先ほどと同じ。打たれる予感が拓也の頭に過ぎった。

だが、既に頷いてしまってるので投げなければいけない。不安の中、拓也はグローブを後頭部まで上げて、投げた。クリスは、一瞬でインコースと判断すると、

(クリス)「ゲームオーバーだ。」

と小声で言うと、バットを思いっきり振り出した。


                   



                    「カキーーン!!!!」





高らかに金属音が鳴り響いた。打球は、レフト方向に上がった、打たれた球を見る拓也と裕也だった。

打球は、あっという間に外野に向かって行った、そしてフェンスをオーバーした。

しかし、



(松沢先生)「ふぁ、ファール!!!」

打球は、わずかにポールの右側に切れてファールだったが打球は場外へ飛んでた。この時、誰もが頭を過ぎった、「確実に勝負は決まってしまった・・・。」これは、ベンチに居る新次郎達もそうだった。


(新次郎)「あ、あぶねぇ~。」

(芯)「でも、今ので勝負は決まったも同然だよ・・・。」

(新次郎)「だな、あいつの投手として一番の武器である、

       右バッターへのクロスファイヤーのストレートが・・・、

       無情にも場外に運ばれましたからな。

       ストレート一本でこのバッターを抑えるのは、厳しい・・・。」

(千夏)「勝てる・・・よね?」

千夏が詩織に聞いた。詩織は不安な顔して答えた。

(詩織)「さぁ~ね、分からないわ。でも・・・、今の一発は相当効いてるらしいわ。」

(舞)「そ、そんな・・・。じゃあ、南美ちゃん・・・。本当にお嫁に?」

みんなが、南美に視線を向けた。南美は両手をしっかり握ってただ、みんなの視線を感じてみんなを見てこう言った。

(南美)「拓也君は負けないよ!でも・・・、もし・・・、拓也君が負けちゃったら・・・、

     私は約束どおりクリス君のお嫁にさんになるよ・・・。でもね・・・、私は・・・、

     本当は、拓也君が夫だったら良いなぁ~って、昔から思ってたんだ。

     それは、10数年経った今でも変わらないよ・・・。」

そう言うと、笑顔を見せたが、目からは大粒の涙があった。


「ボール!!フォアボール!」

みんなが再びグランドを見ると、マウンドで両手を膝につけて苦しんでる拓也の姿が居た。


(クリス)「どうした?ジャパンNo.1ピッチャー??もう終わりか?」

クリスは拓也に聞いた。拓也は、息が上がっていた。そんな拓也を南美はじっと見つめていた。

(南美)「・・・、拓也君・・・・・・。」

南美の今までにない表情を見て新次郎達が遂に動いた。

(新次郎)「わるいな、南美。」

そう言うと、南美は不思議な顔して振り向いた。芯が続いてこう言った。

(芯)「今のあいつじゃ、負ける・・・。恐らく次もフォアボールだ。でも、

    俺らは南美に惚れてて、振られてる人間として・・・、

    南美には、笑ってて欲しいんだ。」

(南美)「夏目君・・・。城本君・・・。」

その時、ルイ後ろから南美の肩をぽんと叩いてこう言った。

(ルイ)「私もだよ。それに、何も知らないで負けるよりは知っててもらった方が

     良いでしょ?」

すると、南美はうんと頷いた。それを確認した新次郎は、グランドを見た。



グランドでは、拓也が混乱してたせいもあって、カウントは3ボール、1ストライクだった。

(裕也)『兄さん。南美さんの人生掛かってるんだから、しっかり投げてよ。』

裕也は、そう思いながら体をアウトコースに寄って構えた。クリスはニヤニヤしながら、裕也に言った。

(クリス)「おいおい、最愛のガールフレンドの将来が掛かってるのに、

      フォアボールで決着つくとか・・・、さすがは最弱日本だなw」

裕也は、悔しい顔して目の前の拓也を見た。

拓也は、左手で額の汗を拭くと再び裕也を見た。

その時、

(新次郎)「何、ふざけた投球してるんだ!!!」

拓也は、プレートを外して一塁側ベンチを見た。

(芯)「お前、この試合の価値わかってないだろ?人の人生掛かってるんだよ!!」

(拓也)「はぁ?誰の人生が??」

拓也は不思議な顔して言いながらベンチに向かった。

(勇気)「そうですよ、何で南美さんが泣いてたか・・・、涙の本当の理由を知らないで・・・、

     この試合逃げないでくださいよ!!!」

(拓也)「南美がどうしたんだよ?話が全然みえねぇ~ぞ?」


困惑しながら、拓也はみんなに聞いた。その表情を見てクリスは、裕也に聞いた。

(クリス)「ま、まさか・・・、あいつ知らないのか?」

(裕也)「あぁ・・・。知らないよ。南美さんが言うなって言ってたから。」


ベンチ前では、困惑してる拓也にルイが説明した。

(ルイ)「つまり、この試合拓也君が負けたら・・・、二度と南美と一緒に居られないの!」

(拓也)「ど、どう言う事だよ・・・。二度と一緒に居られないってどう言う意味だよ!」

拓也は、そう言うと、みんなの顔をしっかり見た。すると、みんなが悔し涙を流してた。

(舞)「つ、つまり、クリスが勝ったら南美さんと結婚するって、試合前に言ってたの。

    南美さんはどうせ拓也君が勝つからって言ってたんですよ。」

(拓也)「け、結婚って・・・。そんなの聞いてねぇ~よ・・・。」

(南美)「黙ってて、ごめんね・・・。南美は、逆に緊張してあの日みたいに、

     自滅するんじゃないかっと思って不安だったの・・・。でもね・・・、

     気づいたんだ。何も知らないで負けたほうが拓也君の悔し涙を見るほうが

     辛いんだな・・・、って。だから・・・、だから・・・。」

そう言うと、南美は拓也に抱きついて泣きながらこう言った。

(南美)「お願い・・・、私を・・・、クリス君から守って・・・。

     拓也君達ともっともっと一緒に居たいの・・・。でも、拓也君しかクリス君を

     止める人が居ないんだよ・・・。

     だから・・・、だからお願い・・・。必ず・・・、必ず勝って・・・。」

そう言うと、南美はギュッと拓也を力いっぱい抱きしめた。

これが、最後になるかもしれない・・・そう思いながら、抱きしめてた。

そんな、南美を拓也は、じっと見つめていた。

(拓也)「じゃあさ、これからは[拓也]って呼んでよ・・・、後、もう一回拓也で言って欲しい。」

すると、南美は拓也の胸から見上げてこう言った。

(南美)「拓也・・・、必ず勝って・・・。お願い。」

そう言うと、南美は拓也の胸に頭を寄せた。南美に聞こえてくるのは、拓也の心臓音だった。

(新次郎)「拓也ー!!そう言う事だ。俺がいつもと違うのはそう言う事だ!

       俺だって、南美を取られたくないんだ・・・。あんな外国人に。

       でも俺は、お前みたいに野球が上手い訳でもないだから・・・、だから・・・。」

新次郎も拓也の目の前に来て、拓也の左肩に手を当ててこう言った。

(新次郎)「必ず勝ってくれ・・・。もう、お前しか居ないんだ・・・。頼む!」

すると、芯も手を当てて、こう言った。

(芯)「悔しいけど、一番クリスと対抗できるのはお前だけなんだ・・・。

    必ず勝利を物にしてくれ」

(ルイ)「お願い!私から南美を取らないで!引っ越してきて一番に出来た友達だもん。

     絶対無くしたくないよ・・・。」

と言いながら、新次郎達と同じように左肩に手を当てた。すると、勇気達も手を当てて来た。

(拓也)「みんな・・・。」

拓也が呟きながら見ると、新次郎達は泣いていた。拓也は、

手から伝わる想いを感じてた。

すると、新次郎達は言った。

(みんな)「「お願い!俺達私達親友南美を守ってくれ!!」」

拓也は、自分の目の前に居る南美を見た後左に居る新次郎達をを見た。

左手が微かに震えていた。自分の左手に他人の将来が掛かってるのだからだ。

すると、震えている左手を見た南美が不安そうな顔して聞いてきた。

(南美)「怖いの・・・?」

(拓也)「まぁ~、少しだけな。正直、こんな気持ちで野球した事無かった・・・。

     でも、一つだけ分かる事は・・・、」

拓也は、右手を南美の腰に当ててしっかり抱きしめてこう言った。

(拓也)「そんな奴に俺は負けない!!南美・・・。」

(南美)「どうしたの?」

南美はもう一回拓也の顔を見上げた。

(拓也)「今は、泣いてても良い・・・。でも、必ず・・・、必ずお前を・・・、

     笑顔にしてやる!お前は、笑ってる方が可愛いんだよ・・・。

     裕也ー!!」

裕也は、呼ばれるとベンチに向かった。

そして、拓也は、南美を抱きしめた状態でそのままクリスの居る、ホームベースを向いてこう言った。

(拓也)「クリス・・・、お前・・・、今度は南美かよ・・・。いい加減にしろよ・・・。

      お前みたいな・・・、お前みたいな人の人生勝手に左右する奴に・・・、

      俺は・・・、嫌・・・、」

と言うと、裕也が隣に立ち口を揃えて、言った。


(拓也、裕也)「「俺達は・・・、絶対負けない!!」」


(拓也)「必ず、南美は守って見せる・・・、ここからが、本当の試合開始プレイボールだ!!」

と言うと、拓也は最後に南美に小声でこう言った。

(拓也)「一生、俺を見守ってくれ・・・。俺にはお前が必要なんだ・・・。じゃあ、行ってくる。」

と言うと、拓也は南美の腰から手を離した。それを感じた南美も拓也から少し離れてこう言った。

(南美)「うん!・・・、いってらっしゃい。必ず、勝ってね!」

(拓也)「あぁ。よっしゃ!行くぞ裕也!!」

(裕也)「OK兄さん。決着を付けよう!」

と言うと、二人はまたマウンドに走り出した。あの時の借りを返しに・・・、

そして、南美を守るために・・・。


遂に南美を人生を賭けた最後の真剣勝負が始まる・・・。






















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プレイボール! @ryusei-0525

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