配達人編

広大なこの大陸。そこに人々は村や町を作って暮らしている。

そんな人々の連絡手段として使われているのは、主に早い足であった。

魔法の進歩に伴い大きな町などでは魔法を使用した運搬技術が使われているが、今なお小さな村などへは足の速いものによる配達が行われている。

昔から使われている配達人の仕事は現在においても使われ続け、どこにいる人にでも、しっかりと届けられているのである。




配達人の仕事は大陸全土に渡るため、各地に支店が、それをまとめる支部が、そして統括する本部が存在する。

その支部の一つに、3人は訪れていた。

「もうすぐ戻ってくると思いますので、こちらでお待ち下さい」

「はーい」

格闘娘が返事をして勧められた長椅子の真ん中に腰掛け、右に魔法司書、左に魔法騎士が並んで座った。

「良かったですね、お仕事中ではなくこちらへ戻ってくる時で」

「そうだな、いかに足が早いと言えど場所によっては一日かかってしまう。さすがにここへ一泊することは出来ないしな」

3人がここへ訪れたのは、かつて共に戦った仲間に会うためだ。

そこへ、

「みなさーん」

呼ぶ声に振り向いて見ると、目的の人物がこちらへと近付いてきていた。

頭の左右で結んだ水色の髪、配達人の仕事着に身を包み配達物を入れる鞄を肩にかけたその姿は、最後に見た彼女の姿そのものであった。

「おーい」

格闘娘が席を立って手を振ると、彼女も手を振って徒歩から小走りに速度が変わる。

「あ、もしかして……」

「あぁ、いやまさかな、ここはアイツの仕事場だろう」

魔法司書と魔法騎士が短い会話を終えた、その直後。


ガッ!  ビタンッ!!


「はうっ!」

手を振って近付いていた彼女が何かに躓いたようにすっころんだ。

「わわっ! たいへんだ!」

格闘娘が慌てて助けに行き、

「……当たりましたね」

「あぁ……姿もだが、アレも変わっていなかったな」

予想通りとなった2人も遅れて席を立った。

「はぅぅ……」

豪快に転んだ彼女は、ぶつけた顔を抑えながら身体を起こした。幸いなのは、配達帰りで鞄が空だったことか。

「だいじょうぶ?」

「はいぃ、いつもの事ですので」

ゆっくりと立ち上がった彼女は改めて3人に頭を下げた。

「お久しぶりです、会いに来て下さったそうですね」


彼女は見ての通り、配達人である。勇者との出会いも、とある手紙を勇者に配達したことであった。最初の出会いはそれで終わったのだが、以降もことある毎に配達人は勇者への届け物を配達していった。

転機となったのは、勇者の仲間となった別の人物が配達人の知り合いであったことで。その人物の推薦により、勇者の仲間となったのである。

大陸を渡り歩き時には野盗に襲われる事もあるという職業柄、戦闘力もそこそこあったがそれ以上に走る力が仲間内でもトップクラスで、緊急事態の報告役などを熟し、魔王との決戦時においても混乱する仲間をまとめるという大役をやり遂げたのだ。

ただ、それなのにどうしてか、小走り程の速度になるとよく転ぶという癖がある。全速力ならそんなことはないのにと、仲間内でも話題になったこともあった。

「どうしてなんですかね、自分でもさっぱり分からなくて」

先ほどの長椅子に配達人と格闘娘が座り、対面に魔法司書と魔法騎士が立って再開を祝し、3人がかつての仲間を訊ねる旅をしていることを説明した。

「かつての仲間……ではみなさんにもお会いになりましたか!」

「皆さんって?」

「あの5人のことか」

「そうです!」

配達人が勇者の仲間となるより前、同じく勇者の仲間となった5人。彼等もまた魔王討伐後は各々の場所へと帰って行き、3人が探す人物でもある。

「いえ、まだその方達には会っていません」

「そうですか……わたしの仕事場内ではみなさんにお会い出来ていないので、お元気かどうか気になっていたのですが」

「お会いしたら伝えておきますね」

「お願いします!」

それから、配達人の近況を中心に談笑した後、次の配達を任せられた事でお開きとなり、

「それではみなさん、今度はどこかでお会い出来ることを!」

3人は去っていく配達人を見送った。

「じゃあ次の場所に行こっか」

その時だ、

「すみません、少しよろしいでしょうか?」

配達人の女性が1人近寄って来た。手には一通の手紙を持っている。

「はい、なんでしょう?」

「こちらの手紙を預かっておりまして」

「私にか?」

手紙を手渡されたのは、魔法騎士。受け取った手紙の封を切り、一枚の便せんに書かれた内容を読む。

「なっ……そういうことか」

そして、驚きの声をもらした。

「何て書いてあったの?」

「それが、どうやら何か事件があったらしく、私に戻ってきて欲しいとのことだ」

「えー! じゃあもう一緒に行けないの?」

「いや、この案件さえ片付ければ問題ないだろう」

「それは、どのくらいかかりそうなんですか?」

「詳細を聞いてみないことには断定できないが……ここから向かう時間も含めて、早くても十日以上はかかるだろう」

「そんなぁー」

「ですが仕方ないですよ。元々そういう約束でこうして付いてきて下さっていたんですから」

「うーん……じゃあしばらくは2人旅かなー」

「……」

魔法騎士は不安でしょうがなかった。それは元々この旅に付いてきた理由でもある。

この2人、正体こそ元勇者の仲間で大陸でも強者の部類に入るのだが、その見た目が十代の少女のそれだ。

それに加え、年相応に不得手なことが一つだけある。交渉術だ。

旅の道中、仲間のいる場所に訪れ、今どこにいるのかなどのような交渉は全て弁の立つ魔法騎士が行っていた。そうするとスムーズにことが進むのだ。

とういうより、格闘娘はこの性格だし、魔法司書は口下手で。必然的に魔法騎士の交渉成功率が高くなるのである。

声には出さないが2人だけの旅は心配でしょうがないと。魔法騎士は常々思っている。

だが、自分はいかないと行けない。さもなかれば取り返しのつかないことに繋がることもあり得る。

「むむ……」

これはもう、私の仕事が終わるまで2人には少し旅を休憩してもらえないだろうか? とう言うしかないか。などと考えた。

その時だ、

「なら、アタシが一緒に行ってあげれば問題ないわよね?」

声のした方向に3人が振り返る。そこには、つい先日再開して別れた彼女の姿。

ざっくりと切りそろえられた灰色の髪、頑丈で柔軟で通気性の良い三拍子揃った服。背には広げると身体全てを覆うマントに、十字架を模した大型の自動機械銃。

「お前、どうしてここに」

「良いじゃないそんなこと」

ガンナーは3人の元まで近づき、機械銃を壁に立てかけた。

「それよりも、アタシが一緒ならアナタも問題ないんじゃないかしら?」

「それは、そうだが……」

確かに、ガンナーの口はかなり達者。魔法騎士と相応の交渉術は持っているに違いない。

しかし、どうもこの女は信用ならない……仲間であった時から魔法騎士はそう思っていた。

「2人はどう? アタシが彼女の代わりに同行するのは、イヤ?」

「ぜんぜんイヤじゃないよー」

「わたしも嫌ではありませんけど」

「と、言っているけど?」

「むむ……」

魔法騎士は考えること、約一分。

何か裏があるかもしれないと考えるより、2人の旅の安全を考慮することにし、

「……分かった、私のいない間、2人に付いて行ってくれ」

ガンナーが代わりに付いて行くことを、了承した。

「そういうことだから、よろしく頼むわね」


こうして、配達人支部で魔法騎士と別れ、ガンナーを加えた3人での旅が、始まった。

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Ending after story ~オワリアト~ 形璃乃跡 @o-togiri

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