呪剣士編

突如現れた魔物により、大陸の歴史上1、2を争う程多くの人が命を落とした。

もちろん魔物に襲われてという理由がほとんどであるが、今までのように人々の争いによって亡くなった者も少なくはない。


つまりそれは、人の手によって人が殺された、という意味でもある……





「こんにちは~」

とある村に建つ一軒の家。挨拶と共に扉を叩いた格闘娘と、後ろで見守る魔法司書と魔法騎士は家主の返事を待っていた。

「もしかして、お留守でしょうか?」

「人の気配はある。おそらくは…」

魔法騎士が言いかけたその時、家の扉が開かれて3人の待っていた家主が姿を現した。

「やぁ、君達だったか」

全身黒い服に身を包み、手に花束を抱え、腰には一振りの長い剣を携えた男性。腰に届きそうな黒髪は後ろで一つに結ばれ、その髪と服が映えるような白い肌は痩せている、というよりやつれているように見えた。

一見して体調を伺いたくなる姿だが、3人は最後に彼を見たときと変わらないので特に訊ねることはなかった。

「悪いけれど、先に用事を済ませてもいいかい?」

挨拶より前にそう言うと男性はゆっくりと歩き出し、3人も男性の後について行く。

その道中、懐かしい再会を喜ぶというような、そもそも会話の類いは一切無く。お喋りな格闘娘さえ無言で歩いていき、ある場所にたどり着いた。

村の外れにあたる広場、そこには小さなお墓が一つ建てられていた。

広場の隅に墓石が建てられただけだが、墓石を名産とする村より取り寄せられた高級品に名前と亡くなった日付の書かれたしっかりとしたものである。

土には男性の持つ物と同じ花が植えられており、ここに眠る人が好きであった種類であると予想出来る。

男性は墓の前に膝を付いて花束を手向けると、目を閉じて両手を合わせた。続くように3人も両手を合わせる。

「…………ありがとう。久しぶりだね、3人共」

目を開けて立ち上がると男性はようやく再開を祝した。

「お久しぶりです」

「久しぶりー」

「久しぶりではあるが。まずは……」

次の瞬間、魔法騎士は鞘のまま剣を抜いて男性へと斬りかかった。

「えっ!?」

「おー」

「……」

魔法司書が驚き、格闘娘はただ眺め、剣を向けられた男性は……


カキン!


腰に差していた長剣で、魔法騎士の一撃を防いだ。

「……何のつもりだい?」

「いや、今の状態を知るならコレが一番早いと思ってな」

魔法騎士が剣を収め、男性もまた長剣を両手で握った。刃が出ているにも構わず、しっかりと手で包み込む。

「そ、そんなことをして大丈夫なんですか?」

「あぁ、もう殆ど出てくる事は無くなったよ。今だって、攻撃する意志が殆ど感じられなかった」

「当たり前だ、再開したばかりの元仲間を本気で殴る訳が無いだろう」

「だとしても、いきなりはひどいじゃないか」

「すまなかった。だが、心配はいらないようだな」

「……あぁ」

この一振りの長剣が示すように、彼は剣士であった。

だが、ただの剣士ではない……ある事件を境に、彼は普通の剣士ではなくなったのである。



そもそも、彼はこの村で一番の腕前の剣士。そして彼の親友は村一番の鍛冶屋……の弟子であった。

親友は、男性とある約束をしていた。貴方が使う剣は全部、僕が鍛える。と。

しかし、親友が鍛えた剣はあまり良い物ではなく、男性が使ってもすぐに使い物にならなくなってしまっていた。

落ち込む親友に男性は、焦らずに修業を続けていけばきっといい剣が出来るようになる。と励ますのだが……その言葉は親友にとって、逆効果であった。

それからの親友は寝る間も惜しんで修業を続け、心身共にボロボロとなってしまい……ついに、手を出してはいけないものに触れてしまった。


悪魔が手を貸すことで最高級の剣が出来上がる代わりに……その剣は呪いの剣となってしまうという、鍛冶屋の禁術に。


結果、親友の作り上げた剣は悪魔の呪いを纏った、人を斬るまで止まることのない呪いの剣となってしまった。

男性は親友の異変にいち早く気付き、村に来ていた勇者達と協力して、親友の手から呪いの剣を引き離すことに成功した。

だが、今度は引き離した男性が悪魔の呪いにかかってしまい……止めに入った親友を……



「……あの日以来、勇者の仲間となってからずっと、この剣の制御に専念してきたんだ。迷惑を掛けたことも沢山あったけど、もう大丈夫。この呪いにはもう、絶対に負けない」

親友が残した形見、呪いの剣を使う剣士……呪剣士として、彼は勇者の仲間となり、呪いの制御をしながら共に戦い続けていたのである。

元々が腕の立つ剣士であったため剣技でいえば仲間内でも上位に入り、そこに制御した呪いの力が加わったことで、人間技を超える剣術を扱い魔物達を葬っていった。

「あの時の俺は、まだ未熟だったんだ。だから呪いにも負け、あいつの気持ちにも気付いてあげられなかった……あんなことを言わなければ、こうはならなかった筈なのに」

墓石を見て、呪剣士は長剣を墓石に向けた。

「……約束、絶対に守り続けるから」

貴方が使う剣は全部、僕が鍛える。

悪魔の呪いを纏ったその剣は、勇者の仲間として幾度もの戦いを終えてもなお、刃こぼれ一つ無い綺麗な物であった。

まさに一生物となる最高級品の剣を、呪剣士はこれからも、使い続けていくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る