ガンナー編
魔王の消滅と共に、魔王により生み出されていた魔物はその姿を消した。
しかし魔王の魔力に当てられた動植物達が変異した生物、通称魔獣は、元々がこの大陸に存在していたこともあり、未だ大陸中にはびこっていた。
従来の生物よりも凶暴な魔獣に人々は困らせられることも多く。だが同時に、魔物との戦いを生業としていた人達にとっては、以前と変わらない生活の約束でもあった。
「てぇやぁぁ!」
気合いの入った格闘娘の拳が魔獣の身体に突き刺さり、くの字に曲げながら吹き飛ばした。
「はっ!」
魔法騎士が魔法を帯びた剣で横に一閃すると、切り口から魔獣の身体が炎に包まれ。絶命と共に炎が消えた。
2人の一撃で二体の魔獣を倒したが、3人の周囲にはまだ多くの魔獣が囲っている。
「てぇぇぇい!」
「ふっ!」
再び2人の攻撃で魔獣を一体ずつ討伐、主成分が魔王の魔力であった魔物のようにその場で消滅はせず、元々の生物のように亡骸が、強く叩かれたものと斬られ焼かれたものがまた増えたが。しかし周りにはようやく数えられるほどの魔獣の群れがいる。
いくら勇者の仲間だったとは、大陸でも強者の部類とはいえ、この状況は絶望的のように見えた。
しかしその時、
「行けます!」
今まで1人、戦いに参加せず2人に守られていた魔法司書の声が響き、2人は魔法司書の近くへと動く。
「よし、今だ!」
「やっちゃえー!」
「はい!」
2人が安全圏に来た気ことを確認し、魔法司書は開いていた魔導書のページに手を置く。
「貫け! 雷鳴!」
瞬間、魔導書が光り輝くと3人の頭上を除く周囲数メートルにドーナツ状の黒い雲が生み出され。
直後に降り注いだ雷の雨が周囲の魔獣を全て貫いた。
……辺りに静けさが広がる。3人の周囲には魔獣の亡骸も無く、ただ雷が落ちて黒く焦げた地面だけ。
先ほどまでは魔獣の獲物を狙う呻き声で訪れることの無かった静けさに、3人は耳を傾け、
「片付いたようだな」
魔法騎士は剣を収めた。
「そのようですね」
魔法司書は魔導書を閉じ、
「おつかれさま~」
格闘娘は手をぱんぱんと払った。
今3人がいるのは人の手が入っていない名も無き森の中。次の元仲間のいる所に向かう途中にこの森が現れ、真っ直ぐ突っ切るか迂回するかと話し合った結果、森の中を真っ直ぐに進んでいると魔獣の群れと遭遇したのである。
このような森の中には人知れず魔獣となってしまった生物などがひそんでおり、余程の実力者でなければ入ることもない。
しかしそこは元勇者の仲間であった3人。
森の中で魔獣の群れと出会ったところでひるまず、むしろ群れを一つ返り討ちにしてしまった所だ。
「思っていたより数が多かったな、これは早く森を抜けた方が良さそうだ」
「そうですね、また今のような事が起こらない内に、早く森を抜けてしまいましょう」
「えーっと、どっちに行けばいいのかな?」
魔獣との戦闘中に動いた為にすっかり方向感覚を見失ってしまい、3人は森の中を見回す。
「んー……あ! あっちの方に森の切れ目が見えるから、多分こっちだよ!」
格闘娘が目をこらして見た先を指さし、そのまま一人でその方向へと走って行ってしまった。
「あ、おいちょっと待て、そっちが進行方向とは限らないだろ。来た道だったらどうするんだ」
「聞こえて……いないみたいですね」
「全く……仕方ない、あのまま一度森を出て、その上で改めて道を確かめよう」
一人先を行く格闘娘を追うように2人は森の中を歩き始める。
その時、草むらから一匹の魔獣が飛び出し、最も近くにいた魔法司書の背に飛びかかった。
飛び出した音で3人は気付いている。しかし魔法司書は真後ろという死角、魔法騎士は剣を抜く間も無く、格闘娘は拳の届かない距離にいる。
完全に不意を突かれた。せめてもの防御に魔法司書が振り向いて顔の前で手を交差、魔法騎士と格闘娘は魔獣へと飛びかかっていく。
魔獣の牙が、魔法司書の手に届く……
刹那、右側からの衝撃が魔獣を吹き飛ばし、魔獣は地面を転がって落ちて数回痙攣した後、動かなくなった。
「……え?」
「な、何があったの?」
「今のは……まさか」
魔法騎士は魔獣を吹き飛ばした衝撃が来た方向を見る。そこは木々が生い茂る普通の森の中だが。
「助けてくれた事には感謝する。そこにいるのなら出て来い」
すると、
「フフフッ、今のだけでよく分かったわね」
森の中から1人の女性が姿を現した。
ざっくりと切りそろえられた灰色の髪、頑丈で柔軟で通気性の良いと三拍子揃った服に全身を覆う程のマントをまとい、両手で十字架を模した大型の自動機械銃を携えている。先程魔獣を吹き飛ばした衝撃は、この機械銃より放たれた銃弾によるものだ。
「久しぶりね、3人共」
再会を喜ぶように、女性は3人へと声をかけた。
彼女は魔物を狩りその報酬で生活をしていたガンナー。かつて勇者の仲間として3人とも行動を共にしていたことがある、旅の目的である探していた1人だ。
今度こそ安全を確認した後、3人はガンナーを前に見るよう車座になって森の中で腰を下ろした。
まずガンナーが、こんな森に何の用かと聞いてきたので、3人は今の旅についてを語った。
「でも会えて本当によかったー、どこにいるかよく分からないんだもん」
「それはそうよ、仕事があるなら大陸の端から端まで渡り歩いているのだからね」
「この森にいたのも、お仕事ですか?」
「えぇ、ここでしか採れない植物があるらしいのだけど、魔獣が襲ってきて迷惑しているから片付けてほしいって依頼よ」
「そんなに依頼を受けて、そんなに金が必要なのか?」
「フフフッ、そこはご想像にお任せするわ」
勇者と出会った時にはガンナーはすでにガンナーであった。偶然に狙う相手が同じであった勇者達と獲物を取り合ったことが出会いのきっかけではあるが。
そんな彼女がどうして勇者の仲間となったのか、3人は知らない。
自ら語りたがらないこともあり、その経緯を知っている者、そもそもガンナーになった訳、そして今もなお賞金を稼いでいる理由を知る者は……おそらくいない。
話さないことは分かっているので、お互いの近況のような会話を小一時間ほど話して、
「さてと、それじゃあワタシはそろそろ行くわね。まだ残っていないか確認して、依頼人に報告しないとだし」
「お仕事、頑張って下さいね」
「またいつか、どこかで会おうねー」
「えぇ、次に会うときは獲物として、ではないことを祈っているわ」
不穏なことを言うガンナーの声を聞いて、3人は森を抜けていくのであった。
―――そんな森を出て行こうとする3人のことを、ガンナーは別れてからもずっと、考えていた。
「かつての仲間に会いに行く……ねぇ。フフフッ、この仕事ももう終わるし、少し見ていてみようかしら」
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