天使兵・堕天使兵編
例えば魔王のように、この世界にはこことは異なる所からやって来る者というのが、珍しくない。そういう者はこの世界では珍しい特徴や能力を持つことが多く、大体は一目で区別出来るようになっている。
やって来る理由は様々で、魔王は世界の征服。その魔王と対するためや、この世界にしかない物を求めて、中には偶然迷い込んでしまったということもあるそうだ。
本来なら来た場所へと帰ることが普通であるそんな者達は、魔王が討伐された今、果たしてどうしているだろうか。
大きな都市から離れた所にある、という他に特徴らしい特徴のない平凡な小さな村、そこに3人は訪れていた。
「その辺りにいるというのだが……」
「どこにも見当たりませんね」
魔法騎士と魔法司書が村の中を歩いている人を見回すが、目的の人物は見つからない。すると格闘娘が、
「歩いてると分かりやすいから、上にいるんじゃないかな」
本来人が歩ける筈のない上空を見上げると、
「ほらそこにいたよ! おーい!」
そこに見つけた目的の人へと両手を振って大声で呼ぶ。
上空を浮いていたその人物は、格闘娘の声に地上へと降りてきた。
薄い水色の髪は前髪が長く右目を隠している男性。服装は周りと村人とあまり変わらない一般的な物だが、背中には縦に長い穴が開いており。
その背には今まで空を飛んでいた証、真っ白な一対の翼が生えていた。
「何だオマエ達、何か用なのか?」
「うん! 2人に会いに来たんだよ!」
背中の翼から、まるで天からの使い……天使兵とでも呼ぶべき人物だ。
この世界には背に翼の生えた人などいない。この事から分かるように、彼はこの世界とは異なる所からやって来た者で、3人と同じ元勇者の仲間である。
3人は天使兵に、同じ元仲間と出会う旅をしていることを説明した。
「かつての仲間を巡る……か。アイツが聞いたら興味を持ちそうだ」
「そういえばもう一人はどうした? 一緒じゃなかったのか」
「あぁ、アイツならそろそろ…」
その時、上空から降り立つ影が現れ、天使兵の隣へと降り立った。
「みなさん。お久しぶりです」
こちらは柔らかい物腰の女性。同じ薄い水色の髪は天使兵とは逆に左目を隠しており、服装も同じもので背中に穴も開いているのだが。
その背には天使兵と同じく一対の翼が生えている。
ただし、その色はシミ一つ無い真っ白ではなく……光も反射しない真っ黒に染まっていた。
彼女は天使兵と同じくこことは異なる所からやって来た者。曰く、勇者達を助けるために天界より降りてきたらしい。
初めて天界から降りてきた2人、特に彼女はこの世界の様々なことに興味津々で、たくさんの初めてに触れて、新たな気持ちにも気付いていった。
しかし、それらが必ずしも良い行いだけとは限らず……その事で天使兵と喧嘩別れしてしまった彼女はついに、行ってはいけないことをしてしまった。
それにより彼女は……堕天してしまったのである。
天界では、堕天した者は翼にその特徴が現れるといわれ、彼女のそれは光さえ飲み込む黒に染まるというものであった。
こうなってしまったら、もう天界に戻ることは出来ない。もし戻った場合は、そのまま新たな天使となる為に転生……今の彼女という存在の消滅だ。
それを許さなかったのが、天使兵である。
堕天してしまったという事を報告せず、天界への連絡係にこう伝えるように頼んだ。
2人で、ここに居続ける。と。
以来彼女は堕天した天使兵……堕天使兵として勇者の仲間となり。魔王の討伐後は天使兵と共にこの村、この世界で一生を過ごすことを決めたのである。
堕天使兵にも元仲間を探す旅をしていることを話すと、天使兵が思っていた通り、
「それは大変面白そうですね!」
とても興味を持った。
それなら一緒に行かない? と同じような感想を持った元仲間には訊ねている格闘娘が言うと。
「ありがとうございます。ですが、私はこの村でやらなくてはいけないことがありますので」
「そこまではないだろ。別にこの村にとどまり続ける必要は無い、行きたければ行ってくればいい」
「いいえ、私はこの村で。正確には…」
堕天使兵は隣に立つ天使兵の手を取り、
「彼と一緒に、やらなくてはいけないことがありますので」
「……ふん」
素っ気なく天使兵はそっぽを向くが、堕天使兵は笑顔で天使兵の横顔を眺め。
それを見る3人は、コレは邪魔してはいけないな、と思ったのであった。
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