大工・女軍人編
勇者と共に戦った仲間達が勇者と友好的な関係であったかと問われれば……そういう訳ではない。
魔王との最終決戦の時はさすがに気持ちを一つとしていただろうが、全員が全員、勇者を快く思っていたとは限らなかった。
それは出会った時の状況もあり、最初は敵として出会い、幾度もの戦いを経て仲間となった者も少なくはない。
では、仲間達の間ではどうだっただろうか?
仲間同士での会話はもちろん多かった筈。共に話し、戦い、同じような事をしてきた勇者の仲間達。それぞれがそれぞれに個性的な彼らあるいは彼女ら。
果たして、どこまで仲良くなったのだろうか?
この村を一言で現す際、最もしっくりくるのは、赤褐色、である。
道、家の外観、村を囲う壁も全てが赤褐色。これは村の近くで採れる特殊な土の色であった。
沢山採れて、加工も簡単、ある液体と混ざることで劇的に硬度が増す事を知ってからは村人達はその土で家や壁を作った。
結果、この村は赤褐色の土色になったのである。
「これはまた面白い所だな」
「あれ? ここ初めてなの?」
「わたしもお話には聞いていましたが、こうして来るのは初めてです」
魔法騎士、格闘娘、魔法司書の3人はそんな村へと訪れていた。
「わたしが初めて来た頃はまだこんなに土の家はなかったんだよ」
3人の中で最初に勇者の仲間となった格闘娘。1人で武者修行をしていた彼女はある出来事をきっかけに勇者達と出会い、仲間の格闘家に稽古を付けてもらうために仲間となった。
「それだけこの村も成長を続けているということか」
3人の中で2番目に仲間となった魔法騎士。彼女が勇者と出会ったのはとある依頼の時、互いの実力を認めながら依頼を達成するも実は依頼主に騙されていたことに気付き、解決と共に元の主から離れて勇者の仲間となった。
「平和になった証、でもあるかもしれませんね」
3番目に仲間となった魔法司書。彼女は早くに両親を亡くし祖父母の家の屋根裏で本に囲まれた生活をしていたのだが、仲間の1人に本を読むだけで覚えた独学の魔法を認められ、自身も本だけでは得られない見分を広げるために仲間となったのである。
3人がここへ訪れたのは、かつて共に戦った仲間に会いに来たのだ。
村人に聞き、今その人物がいる場所へと向かうと、とても分かりやすくすぐに見つかった。
「おうオマエ達! 久しぶりだな!」
3人を見つけた男性が肩に木材を担いだまま開いた片手挙げて近寄って来た。
周りの土とは異なる炎のような赤髪に緑色のバンダナを巻き、男性らしい筋肉のついた身体を袖の無い服で包んでいる。
彼は勇者の仲間の1人、役割的には大工として共に戦っていたのだが、勇者との出会いは、あまり良いものではなかった。
「ちょうど良いや、見せたいモノがあるんだ。付いてきてくれ」
再開の喜びを分かち合うよりも早く歩いていく大工の後に続いて3人は村の奥へ、赤褐色が景色の大半を占める道を進んでいくとやがて、
「ここだ、こいつを見てくれ」
そこには、この村では珍しい木材を使用した建築途中の家屋の光景があった。
「わざわざ家を建ててるのか」
「あったりめぇだろ、俺は大工だぜ? 自分の住む家は自分でしっかりと建てるに決まってんだろ」
この村に土の家が多いのはのその制作の簡単さ故であり、土を使う前から建っているものなど、決して別素材の家屋がないわけではなく。もちろん大工のような建物を建てる職を持つ者もいる。
「それに、これはリベンジでもあるんだ」
勇者達が初めてここを訪れた時、まだ赤褐色の土による技術のなかったこの村で、大工は初めて親方に任されて自分主体で家を建てていたのだが、不慮の事故によって勇者達に壊されてしまったのである。
もちろん大工は激昂したが、その後の勇者達の活躍により村の危機を救ったことで和解、そのまま仲間となったのであった。
彼は大工であり、以前のリベンジでもある。
しかし、それ以上に彼には……
その時だ、
「お疲れ様、そろそろ休憩に……おや、君達は」
今歩いてきた方向から、1人の女性がやって来た。
腰まで届く薄黄色の髪はさらりと下ろし、赤褐色な村に似合う濃い色をした布の多い服に身を包み、その手には大工のためと思われる水筒を持っている。
3人に気付いた女性が近付いていくと、過去の姿と照らし合わせた魔法騎士が再開の挨拶より先に率直な感想を述べた。
「すっかり変わってしまったな、あの頃の面影が見当たらないぞ」
「それはそうさ、私はあの時から、剣を握ってもいないからね」
彼女は元々、勇者達の敵として前に現れた。
魔物を倒し世界を平和に導いて行く勇者達の行動を良く思わない人々、その中の実力行使部隊の中で人々をまとめていた1人が彼女である。
その人々は自分たちを軍と名乗っていたので、軍の人、女軍人と呼ぶべきだろう。
軍と勇者達は何度もぶつかりながらも次第に和解し、魔王との決戦時には共に戦うまでとなっていた。
因みに、魔王討伐後の軍は大半が元の生活に戻っていったが、一部では傷ついた世界の再建に尽力している。
そんな過去の面影の無い女軍人は、魔王討伐後はこの村で大工と共に暮らしていた。その理由は、
「改めまして、ご結婚、おめでとうございます」
「結婚式、行けなくてごめんね」
「知らせを聞いた時は驚いたが、まぁお前達ならおかしく無いとも思ったな」
2人は、夫婦となったのである。
勇者の敵として前に現れた女軍人。大工との初対面はもちろん敵同士で。幾度もの対峙が繰り返されていたが、ある時、今に至るための出来事が起こった。
それはある渓谷での勇者と軍の対決中。魔物の策略により幾つかの組みに分断させられた時のことだ。
基本的に勇者達と軍のメンバーは固まっていたのだが、大工と女軍人のみ、2人きりとなってしまった。しかしそれが後に勇者達と軍の和解に、そして今の大工と女軍人の関係への発展のきっかけになったのである。
「私はあの場にいなかったが、あの日を境にお前がおかしくなっていたのは仲間全員が気付いていたぞ」
「ま、マジかよ……」
「あの時何があったの?」
「そ、それはだな……だ、ダメだダメだ、さすがにそれは言えない」
大工は怯み、女軍人は顔を赤らめてお互い明後日の方向を見る。それだけでもう、大体どういう方面の事があったのかは理解出来たので、魔法騎士は改めて建設中の家屋を見た。
「なるほど、この家は2人の……という訳か」
「な、は、ハズカシイこと言うんじゃねぇよ」
「ふふっ、だが間違いではない。それだけは胸を張ってもいいんじゃないか?」
今度は大工のみが狼狽え、女軍人は大人の余裕を見せて微笑み、
「だがな……この家は、私達2人だけのものではないんだ」
女軍人はそっと自らの手を自身のお腹へと持っていき、優しく撫でた。
「まさか……」
「あ、もしかして……」
そこで初めて、魔法騎士と魔法司書は女軍人の、布の多いゆったりとした服に隠れて分からなかったお腹の異変に気が付き、同時に答えに至った。
「え? なになに、どういうこと?」
1人格闘娘だけが分からずに首を傾げるが。それに答える者はなく、女軍人の変化に魔法司書はおめでとうございます、と言葉を贈り。魔法騎士は大工に家はいつ頃出来上がるんだ? と質問を投げる。
それに女軍人はありがとう、と言葉を受け取り。大工は後三月ぐらいだな、と質問に答えた。
誰も、格闘娘の疑問には答えてくれなかった。
「ねぇどういうこと? ねぇってばー!」
勇者以上に関わりのあった勇者の仲間達。
その仲間達の仲は、良いものもあれば悪いものもあり。
果てには、その後の生き方を決めた者達もいたのであった。
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