Ending after story ~オワリアト~
形璃乃跡
死霊魔導師編
大陸中央都市より南東に位置するとある村。
ここにはある別名があり、小さな村ながらも人の往来が少なくなかった。
ここに来る人の多くが同じ理由で、村の名産品と呼んでもおかしくないソレを求めて訪れる。
そんな小さな村に、3人はやって来ていた。
「この地区のどこかにあるらしいんだけど、どれがそうなのかな」
「そ、そう言われてもな。皆同じ形をしている以上、記された名を見て探すしかないだろう」
「じゃあ一つ一つ見て回ろっか」
「……」
「だ、大丈夫か?」
「どうかしたの?」
格闘娘と魔法騎士が会話する中、魔法司書は1人口を閉ざしてぶるぶると震えていた。
「こ、こうして怖がっていることだ。やはり今は辞めて、陽が登り切ってからまた出直すことにしないか?」
「えー、でもせっかく到着したばかりで場所が分かったんだから早くに会いに行きたいよー」
「そうは言うがな……」
「う、うぅ……」
今まで静かに震えていた魔法司書が、力を振り絞るようにしてか細い声を出し、2人がそれに気付いて振り向いた瞬間、
「やっぱり、夜に墓地なんて来たくなかったですよーーー!!」
この村は別名『墓の村』と呼ばれていた。
遙か昔。村の裏手にそびえる山より特殊な鉱石が採掘され、その使用方法を模索した村の者達の間で死者を出すほどの争いが起こった。
争いの果て、和解した村の者達は亡くなった者の弔いを兼ねて採掘された鉱石で墓石を作成。その墓石を見た村の外から来た人々がその素材となった鉱石と精巧な出来に驚き、是非自分達にもこの墓石を創ってほしいという要望が次第に大陸全土に響き渡り。
この村は、墓石を特産とした『墓の村』と呼ばれるようになったのだった。
3人がここを訪れたのはもちろん、この村出身の仲間に会いに来たからである。
元勇者の仲間として有名だった彼女のことを村人達は知っており、今いる場所もすぐに教えてくれた。
だが3人が村へたどり着いたのはすでに陽が暮れて空が黒に染まりきった後のこと。本来ならばこんな夜更けに訪れるのは迷惑なのだが、格闘娘が早く会いたいとせがみ、無理やりに2人を(物理的に)引っ張ってこの墓地へと訪れていた。
「だいじょーぶだよー。確かに明かりが少なくて暗いけど、それだけだもん」
夜中の墓地を全く怖がらない格闘娘。その足を包むのは動きやすさを重視した皮製の靴。
「し、しかしな、墓地とは亡くなった者を弔う場所。こういう場は夜になると良からぬ噂が流れやすい場所だ」
実は怖がっているがどうにか平静を保っている魔法騎士。その足を包むのは革を鉄で補強してある騎士が好んで使う固めの靴。
「そそそ、そうですよぅ」
とても怖がっている魔法司書。その足を包むのは植物繊維を編んで作られた軽く履きやすい靴。
「明るい時に来た方が、あの方も喜ぶと、思うんです」
「その通りだな。そういうことだ、今夜はもう宿に向かおう」
「えー、2人ともそんなにオバケが怖いの?」
「もちろんですよぉ!」
「そそ、そこまでではないのだが」
魔法司書は全力で、魔法騎士は否定しつつも口調から肯定だと分かる。
対して格闘娘は全く怖がらず、きょとんとした表情を向けていた。
「わたしは会ったことないからよく分からないかなー」
「そうだろうな、だが私達は出会ったはおろか戦いもしているのだ」
まだ3人が勇者の仲間として旅をしていた頃、文字通りにゴーストタウンと化した町に魔法司書や魔法騎士など、魔法攻撃が行える者数人で訪れた事があった。
目的は町をゴーストタウンにしてしまった魔物の討伐。現れる魔物は肉体を持たない霊体のものが多く、物理攻撃を無効化するため魔法を扱えるメンバーでの町奪還作戦が開始され。
2人はオバケを怖がるには充分過ぎるほどの体験をし、魔物を討伐して町を救った。
そして、今に至る。
「でもさ、ここでの滞在を短くすれば次の所へ早く行けるよ?」
「む、確かにそうだが」
「でで、でも、さすがにこの暗さの中で見つけるのは……」
「光魔法で明るくすれば良いんだよ」
「へ……あぁ! そうです! そうですよ!」
怖がっていたためすっかり忘れており、今になって魔法司書は手のひらを空に向けて光の球体を作りだして明かりを灯した。
「そうか、明るければヤツラも寄っては来れないな」
真っ暗に近い状況から明かりを得た2人はようやく落ち着き、改めて墓地を見回すと3人の目的がすぐ目の前にあったことに気付いた。
「この名前、もしかして」
「あぁ、彼女のものだ」
かつて勇者の仲間として共に戦った、1人。その名前が記された墓石。形こそ周りにある物と同じだが、村の有名人たる彼女のそれは一回り大きく、細やかな装飾が施され、周囲には綺麗な花々が手向けられている。
「あれ? 何かここに書いてあるよ」
格闘娘が墓石に記された名前の下に、何か小さな文字の列を見つけて顔を寄せるが、小さい上に暗くてよく見えない。
「うーん、何て書いてあるんだろう」
「もう少し明るくしましょうか?」
「うん、おねがい」
魔法司書は手のひらに浮かべた球体の輝きを増し、格闘娘の横に立つと墓石へと明かりを寄せる。
『まぶしい』
「あ、すみません。少し明るすぎましたか?」
その言葉に格闘娘から少し離れるが。
「へ? わたし何も言ってないよ?」
「へ……?」
でも確かに、まぶしい、と魔法司書には聞こえた。ここにいるのは自分と格闘娘、そして、
「いや、私は何も言ってないぞ」
後ろを振り向き、最も光源から遠くまぶしいなど言わないだろう魔法騎士を見るも、やはり違う。
では、誰が?
魔法司書は声がした方向に明かりを向けてみた。
『だから、まぶしい』
先ほどの、まぶしいの声の主がいた。
肩にかかる程度で整えられた白髪。背は魔法司書と格闘娘の間くらい。薄汚れたローブを身にまとい、右手には背に匹敵する長さの黒い杖。
その足を包むものは……無い。しかし裸足という分けではない。
確認が出来ないのだ。彼女の足が……膝より下が消えているから。
「「ひゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!?」」
魔法司書と魔法騎士の悲鳴が他に誰もいない墓地中に響きわたった。
互いに抱き合って身を寄せ合う中、格闘娘が1人。
「あ! ひっさしぶりー!」
『うん、久しぶり』
再開を祝して右手を上げたハイタッチの体制で近づき、悲鳴を上げられた彼女も手を上げて格闘娘を待つ。
スカッ、と格闘娘の手は空を切った。
「あはは、やっぱりムリだねー」
『うん、知ってた。だからコッチ』
「うん!」
少女は手に持った杖を前に出し、格闘娘はそれにぽんと手を置いた。
『ところで、あの2人は?』
「へ?」
杖で指す方向を格闘娘が見ると、こちらを見てぶるぶると震える2人の姿。
「はわ、はわわわわ……」
「み、見ていない……足の無い人型のものなど何も見ていない……!」
「あー、登場の仕方がマズかったのかな」
『仕方もなにも、後ろで寝てただけ。声で目が覚めた』
「ほらほら2人共、よく見てよく見て」
「……」
「はぅぅ……?」
格闘娘の言葉に、2人はおそるおそるとそちらを見る。
『2人共、久しぶり』
持ち上げられた杖を見て、2人はようやく理解した。
「その杖……そうか、お前だったのか」
『そう。ワタシだった』
「すす、すみません、間違えてしまって」
『気にしない。ただまぶしいのはまぶしかった』
見知った人物であったため、2人もようやく冷静を取り戻す。そして改めてその姿を見た魔法騎士が訊ねた。
「やはり、一生そのままなのか?」
『そう。でも違う。ワタシはもう、生者ではない』
なぜなら、と言葉を続ける。
『ワタシは。死霊魔導師として、死に返ったから』
死霊魔法使い。
その名の通り死霊を使役して扱う魔法使いのことで、数の少ない珍しい種類の魔法使いだ。
少ないながらも死霊魔法使いとなった者は独自の研究を行っているのだが、その道を究めることはほぼ不可能とされている。
なぜなら、死霊を扱い続けた者は自らも死霊と、つまりは命を落としてしまうからであった。
そんな死霊魔法使いであった彼女も、以前は肉体があり勇者の仲間の1人として3人とも共に戦ったこともある。
そんなある日、自身の生命を脅かすほどのある出来事をきっかけに彼女は決意し。自ら肉体を手放して霊体の姿となることで危機を脱したのであった。
それにより従来の死霊魔法使い以上の力を得た彼女は、自らを死霊魔導師と名乗っているのである。
魔王討伐以来の再開に、まずはお互いのその後と近況を語り合った。
魔法司書、格闘娘、魔法騎士と順に話し、今はかつての仲間達を訊ねる旅をしていることを死霊魔導師に伝えた。
『それは。面白そうなことをしている』
「そう思うならさ、一緒に来る?」
『それは出来ない。ワタシはここを離れられない』
「そもそもだが、お前はどうやってここまで帰って来たんだ」
『大したことない。単純に運んでもらっただけ』
死霊魔導師が語り出した。
魔王討伐後、こんな姿になってしまったが故郷に返ろうと思い、自らのよりしろとしている杖を仲間の1人に運んでもらい、村の皆にはこう説明してもらった。
『ワタシは肉体を亡くしたけれど、死霊魔導師となって霊体としてまだ存在している。だから一応、ワタシの名前を刻んだお墓を一つ建てて下さい』
村の人達はその言葉を信じ、彼女の為の墓石を作成してその横に杖を納めた。
『このお墓。正確にはこの墓石に使われている鉱石が特殊な魔力を帯びている。それを浴びていればワタシは自らの魔力を使わなくてもこうして霊体を維持することが出来る』
「つまりここを長時間離れると、魔力を失ってしまうということですね」
『そう。この霊体の体はほぼ魔力そのもの、魔力の枯渇は、消滅を意味する』
「難儀な体だな」
『後悔は無い。自ら求めてこうなったから』
「でもここから動けないなら寂しいのに代わりはないよ」
『そうでもない。場所柄毎日誰かしら人は来る』
その中で話せるのはごく一部だけど。と死霊魔導師は付け加えた。
『それに。生者でなければ話し相手は沢山いる』
「「え……?」」
魔法司書と魔法騎士が固まった。
『村人以上。老の多い老若男女が沢山、この辺りには眠っている』
杖を動かし、この辺りを、墓石の建つ墓地を示した。
『なんなら紹介する。安心して、ワタシの魔法で全員見えるようにするか…』
「「結構です!」」
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