盗賊頭領編

勇者と仲間達により魔王が討伐された。

だからといって、大陸全土が平和になったかといえば……そうではなかった。

魔物達が残した傷跡は今なお鮮明に残り、その影響で苦しい生活を行う者もいる。

そしてそれ以前、魔物が現れるよりも前に大陸に存在していた盗賊や山賊といった人を襲うことを職とする者達が、今もなお存在していた。

それを何とかしようと、思う者達も。




「アニキ、あの捕まえた奴らどうするんです?」

「知らねえよ、そういうの決めんのはお頭だからな」

揃いの服、揃いのバンダナ、身長は様々で、髪型は大体短め。30人ほどの盗賊の一味が、自分たちのアジトでお頭の帰りを待っている。

そのアジトの奥に、盗んできた食糧や宝石、そして今しがた捕まえてきた3人が置かれていた。

「なんだか久しぶりだなー、こんな風に捕まるの」

「よくこの状況で懐かしむことが出来るな」

「あ、あはは……」

格闘娘と、魔法騎士と、魔法司書。3人は次の目的地に向かう途中に盗賊と遭遇し、両手を縛られてこのアジトにまで連れてこられていたのだ。

「わたしがまだ仲間になる前の話なんだけどね」

「その話は今しなくてはいけないのか?」

「せっかく思い出したからね、こんな機会そうそう無いだろうし」

捕まえられたというのに、3人に緊張感のような不安を感じるものは、一切感じられ無い。3人は荷物、魔法騎士は剣も取られて3人から離れた所に置かれているというのに、だ。

だが、3人にはその程度のこと問題でもなんでもなく、

「それよりもだ、あの盗賊達のお頭というのが何者か、それによりその後の動きを考えておくぞ」

「最も良いのは、お頭さんという方があの人だったら、ですね」

それどころか、今こうして捕まっているのにはある事情があった。




まだ魔物が大陸に蔓延っていた時、大陸に複数存在していた盗賊や山賊団をまとめあげる盗賊の頭領がいた。

女性ながら荒くれ者の多い盗賊達の頂点として君臨していた彼女はある日勇者の一行と一悶着あり、その解決と共にそのまま仲間となったのである。

盗賊としてのスキルはもちろん、頂点としてのカリスマ性で盗賊団を動かし勇者たちの戦力をより強力なものとした。そして魔王討伐後、彼女は大陸全土、今だ知らぬ間に増え続ける、傘下に落ちていない全ての盗賊をまとめることを誓ったのだ。




3人が捕まっているのは、その盗賊頭領に会うためである。

この盗賊達のお頭というのがもしかしたら盗賊頭領、あるいは盗賊頭領の傘下の盗賊団で彼女をしっている人だとしたら、元仲間である3人はあっさりと解放されるだろう。

しかし、そうでない場合もある。生活に困った人達が盗賊になることもあるので、盗賊頭領のことを知らないという盗賊団もいる。

ちなみにその場合は、

「とりあえず、全員気絶でいい?」

「最悪の場合にはな、だが優先するのはここから出ることだ」

「まずは、閃光魔法でしょうか」

力ずくでの、脱出である。

3人にとって盗賊の一団程度敵ではなく、今すぐにでも脱出は出来る。そうしないのは盗賊頭領に会えるかもしれないという理由だけで、それが出来ないと分かればすぐ行動に移るつもりだ。

盗賊達の縛った縄はすでに解けている。とりあえず縄が外れて立ちあがった自分達に驚いた盗賊達に魔法司書が閃光魔法で視界を奪い、格闘娘と魔法騎士が邪魔になる盗賊を行動不能にして道を確保、取られた荷物を魔法司書が回収したらそのまま脱出。という予定になった。なお出口が容易に開かない、鍵がかかっているなどした場合は、格闘娘がこじ開ける手はずとなった。

「お頭! お帰りなせぇ!」

その時アジトの扉が開き、盗賊のお頭と呼ばれる人物が入ってきた。

「見てくだせぇお頭、今回の成果と、帰り道に捕まえた奴らです」

「ほぉ-、中々じゃねぇか」

周りにいる盗賊と同じ服にバンダナ、盗賊団の頭だと示すようにその上から赤いジャケットを羽織った。男性であった。

「お前、盗賊の連盟には加入しているのか」

そのお頭を見た途端、魔法騎士は真っ先に訊ねると、

「盗賊連盟だと? そんなもん知るか。オレ様達はこれからその名を轟かせる盗賊団! その名も…」

「そうか、ならもういい」

言うやいなや、示し合わせていた通り3人は立ち上がった。

「なにっ!? 何で縄が解けてやがる!?」

しかし盗賊の質問には答えず、魔法騎士と格闘娘は目を閉じ、魔法司書は右手を前に出し、短く、唱えた。

「爆ぜろ閃光!」

瞬間、強烈な光がアジト内に輝いた。

「ま、魔法か!?」

「な、なんも見えねぇ!」

光が消えても盗賊達の視界は奪われたまま。そこへ目を閉じていた2人が動き出した。

「いっくよー!」

格闘娘は近くにいた盗賊へと突撃、一応加減をした右ストレートを腹にぶつけて一撃で1人を気絶。確認はせず更に近くにいた1人へ一撃を放ち気を失わせた。

「流石にやり過ぎだろう……荷物は頼んだぞ」

魔法騎士は自分が結ばれていた縄をまだ持っており、それを半分に折ると魔力を込めて一本の棒にするとそれで正面にいた盗賊の足を殴りつけその場に膝を付かせた。

「ようは動けなくすれば良いだけだからな」

「えー、この方が確実じゃない?」

「見たところ飛び道具の類も持っていない、それなのに行動不能にする必要はないだろう」

「それもそっか、じゃあもう少し力を抑えて……」

そう言って放たれた一撃は、盗賊をアジトの壁に叩きつけ地に伏せさせた。

「……威力が上がっているように見えるんだが」

「うーん、重くない攻撃にしたら吹っ飛ばす攻撃になっちゃって。加減ってむずかしいね」

その時、アジトの奥から破裂音のようなものが響いてきた。何事かと2人が振り向くと、そこには3人の荷物を抱えて角を曲がってきた魔法司書の姿があった。

「お待たせしました、脱出しましょう」

「今の破裂音、もしかして…」

「あ、はい、奥に4人ほどいたので、睡眠魔法で眠ってもらいました」

「よし、脱出するぞ」

剣を受け取った魔法騎士を先頭に開かれているアジトの出口へ走り出す。すでに30人ほどいた盗賊の半分以上は行動不能で、残りも視界が回復したら周りで倒れている仲間にかけよったり未だ混乱していたりと、3人に向かう者はいなかった。

しかしただ1人、

「待てやテメェ等! オレ様達はこれから名を轟かせる盗賊団、その名も…」

盗賊のお頭が1人、両手に棍棒を持って出口の前に立ち塞がった……が、

「じゃまだよ!」

「邪魔だ!」

格闘娘の拳と魔法騎士の鞘に収まったままの剣による一撃がクリーンヒット。声もなくその場に倒れ伏した。

「ふ、2人共やり過ぎでは……」

「お頭ぁ!?」

「お頭がやられた!?」

「何なんだこいつら!?」

魔法司書の呟きもお頭を倒された盗賊達の驚きにかき消され、そのまま3人はアジトから脱出した。

「よーし、脱出せいこ……あれ?」

外に出た格闘娘は、こちらへと向かってくる複数の人影を見つけた。続いて魔法騎士、魔法司書もそれを見つける。

「あれは……どういうことだ」

「もしかしてですが……一歩早かった、のでしょうか」

人影は5人、4人の男性に1人の女性が中心を歩いてこちらへと、恐らく3人の後ろにある盗賊のアジトへと向かっているのだろう。

「おやアンタ達、ここで何をしてるんだい?」

女性が3人に気付き、周りの男性を止めた。男性4人は髪型も服装もバラバラだが、揃って言えることが一つ、肌が黒かったり服が土埃で汚れていたり片目が傷で塞がっていたりと、全員荒くれ者のような雰囲気をまとっていた。

そんな荒くれ者をまとめているのが、3人が会いたがっていた盗賊頭領、その人であった。

「話したいのは山々だが、今それどころではなくてな」

「もしかしてアンタ達、あの盗賊から逃げてきたのかい?」

盗賊頭領が指さした後ろを振り返ると、アジトから出て3人を追いかけてきた盗賊の姿があった。

「まぁいいわ、アタイ達もあの盗賊団に用があったからね」

盗賊頭領が後ろに並ぶ荒くれ者達に指示を出すと、4人は向かってくる盗賊達へと攻撃をしかける。

「これが終わったら、久しぶりにゆっくり話そうじゃないか」

「じゃあわたしたちも手伝うよ!」

「お、そりゃ助かるね。そういや、あの盗賊団の名前とか、お頭の顔とか見てないかい?」

「あー……それは」

「えっと……」

「お頭という奴の顔は見たのだが……」

3人は顔を見合わせて頷き合い、代表して魔法司書が話した。

「すみません、盗賊団の名前は、分かりません。盗賊団のお頭は……おそらく、アジトの入口で倒れていると思います」




その後は、とても早かった。

半分以上が戦闘不能であった盗賊団を8人であっさりと鎮圧、目を覚ましたお頭に盗賊頭領が自分達の盗賊連盟に入るかどうか訊ねると、盗賊辞める! と若干涙目で語り、名も知らぬ盗賊団は解散となった。

それからは解散された盗賊のアジトで3人は盗賊頭領と会うために捕まってからの一部始終を説明。面白いこと考えるねぇ、と盗賊頭領に大笑いされてしまった。

そして、仕事が終わったので盗賊連盟本部に帰ると言った盗賊頭領とはその場で別れ、最後に、盗賊頭領にこう言われた。


「もしも今度捕まった盗賊がアタイ達の連盟に入ってなかったら、盗賊の名前とお頭の特徴だけは調べてから脱出しておくれよ。そんでその情報を手紙で送ってくれれば、アタイ達も助かるからさ」


「とは言われてもな、もう捕まるつもりは更々無いぞ」

「そうですね、あまり良い心地ではありませんし」

「あ、そういえばわたしが捕まった時の話、まだしてなかったよね。あのねあのね、わたしがまだ仲間になる前に…」

格闘娘の話を聞きながら、3人はまだまだ旅を続いていく。

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