でめちゃん♪

「あれ? でめ助くんは? どこにいるの? 姿が見えないよ」


みーちゃんが、水槽を斜め上から覗き込みました。


「濾過器の後ろで休んでるよ」


さらさちゃんは、そういってみーちゃんを見上げ、再び水中にもぐって、あぶくを一つ作りました。

さらさちゃんの同居魚、でめちゃんは、大変おっとりとした金魚なのでした。

いつでも、ひらひらと蝶々みたいに、水中を舞うのです。

さらさちゃんはリーダー気分で、いつも何かと世話を焼いていました。


「だいじょうダヨ。アタシたちはね、そういう時があってもいいの。また元気になるの」


それを聞くと、みーちゃんが言いました。


「ほんと? 大丈夫かな。さらさちゃんとでめちゃんに、ちょっと何かあれば、すぐ心配になっちゃうのよ」

「でめ、全然泳がないもんねぇ、今日は」


さらさちゃんは、濾過器の裏へ回って、でめの様子を見守るのでした。


みーちゃんは、水槽から離れて、「金魚の飼い方」という本を取り出しました。

水槽の中で、きびきびと泳いでいるさらさちゃんと、ゆらりゆらり浮かんでいるでめちゃんは、本当に可愛い金魚たちです。

なにか、おかしな飼い方はしていないかと、本を開いて、確認します。

読みすすめていくと、こんなことが書かれていました。


   〈 金魚の飼い方 一口メモ )

   和金とでめ金は、

   一緒に飼わないほうがいいのです。

   なぜかというと、でめ金のほうが動きが鈍いため、

   和金にえさをとられて餓死する恐れがあるためです。


「餓死だって!」


みーちゃんは、怖くなって、本をばたりと閉じたのでした。

まさか、そんな・・・?

でめちゃんとさらさちゃんは、和金とでめ金です。一緒に飼っちゃいけなかったのでしょうか。

みーちゃんは、さらさちゃんを呼びました。


「さらさちゃん」

「ア~イ」


さらさちゃんは、呼ばれなくてもそこにいました。

いつだって、みーちゃんが近くにいる時は、見える場所にずっといるのです。


「私が、ごはんをあげるでしょ、そうすると、さらさちゃんのほうが、えさ捕りが上手で、『さらさプロ』って異名をとってるくらいよね?」

「アイ??」

「でもでも、そうだとしても、でめちゃんが、ごはんを食べられなかったなんてこと、今までなかったわよね?」

「ナイよ」

「大丈夫なのね! ああ、ほっとした」

「みーちゃんが、落ちるごはんを細かくしてくれるから。そうでないと、アタシがみんな食べちゃうもん」


すると、濾過器の後から、でめちゃんが、顔をふりふり泳いできました。


「でめちゃん! よかったぁ、元気で。ああ、泳いでる、泳いでる!」


でめちゃんは、あくびをしながら、みーちゃんのほうへやってくると、


「お、は、よ~」


といいました。


「なあんだ、寝てたのかぁ~」


一人と2匹は、無事を確認しあって見つめあいました。

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さらさちゃん水想録 みなりん @minarin

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