温泉に行って来るね

金魚のさらさちゃんとでめちゃんは、水槽の中で昼寝をしていました。

「じゃあ行ってくるね」

さらさちゃんは、突然声をかけられてびっくりしたのか、軽く飛びはねました。

「どこ行くの?」

「温泉に行ってくるわ。だからさらさちゃん、しばらくは水草をかじってお腹いっぱいにしていてね」

「エッ、ごはんは?」

「あさってまであげられないの、ごめんね」

「・・・」

金魚のさらさちゃんは、ごはんがもらえないことに抗議の気持ちをこめて、尾ひれを細かく振りました。

「ごはん抜き?ヤダヨ。アタシも一緒に行く」

「さらさちゃんも一緒に?無理だわ」

みーちゃんは、想像しました。だめです。だって、さらさちゃんは水の中じゃないと泳げません。

「みーちゃんと川を泳いで一緒に行くのは?」

「だめよ、泳ぐの苦手だもん」

「川なら一緒に行けると思ったのになぁ」

さらさちゃんは水槽の中を、マッハの勢いで一周してみせました。

「温泉ってどんなの?」

「熱い水の中につかって、『あ~いい湯だなぁ』っていうものよ」

「熱い水の中で泳ぐの?」

「ううん、首から上だけ出してつかってるだけ」

「ナニそれ?変だよ、みーちゃん」

「そう? フフッ、ちゃんとおみやげ買ってくるわね」

「アイ」

「じゃあ、ほんとに、行って来ます。留守をよろしく」

「いってらっしゃアイ」

みーちゃんが、ドアを閉めて出て行くのを見届けた後、さらさちゃんは、ちょっとだけ水草をかじりました。

でめちゃんは、まだ眠っています。その横で、さらさちゃんは、せっせと砂利掃除をはじめるのでした。



                 * * *



「ただいまー!ごめんね、すぐごはんあげるからね」


みーちゃんが、温泉旅行から帰ってきました。

そして、おみやげの箱やかばんを椅子の上に置き、急いでえさの袋を手にしました。


「ごは~ん、ごは~ん、ごは~ん、ごは~ん、ごはんをゲーット♪」


さらさちゃんは、なにかの替え歌を口ずさみながら、右に左に泳いでいます。

みーちゃんは、天井のふたを開けて、上からのぞきこみました。さらさちゃんもでめちゃんも、臨戦態勢に入っています。


「じゃぁ、いくよ~」

「はやく、はやく」


みーちゃんは、一粒ずつ、えさを落としていきます。



「ほれ! でめちゃん、さらさちゃん」

「アイ」

「もうひとつ!」

「アイッ」

「調子出てきたね~、そらもういっこ!あっ、いっぱい落としちゃった」


さらさちゃんは、でめちゃんを押しのけて、嬉々として、えさに飛びつきます。


「アイ、アイ、アーイ」

「よーしよし、お腹減ってたんだね。そうだ、これはおみやげネ」


みーちゃんが、おみやげと言って、水の中に入れてくれたものは、きれいなビー玉でした。

さらさちゃんが口でつっつくと、それは、ゆらゆらとゆれるのでした。



「食べられないヨネ?コレ 」

「眺めるの。綺麗でしょう?」

「みーちゃんらしいや」


金魚たちは、大好きなみーちゃんが帰ってきたので、安心して水槽の中を泳ぎ回るのでした。

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