第26話

ヘイオス家の屋敷の一階に在る何も無い広い部屋。

そこは先ほどまで沢山の捕まった女性達で部屋を埋め尽くしていたが、今は一人の男だけが身動きの取れない状態で捕まっていた。そんな部屋に入って来た四人のメイドは、閑散とした部屋に一人捕えられる男の姿を見て驚愕するのだった。


「へ……ヘイオス様!?」


部屋にただ一人残された男の正体に真っ先に気が付いた金髪のメイドは、そう叫び声を上げながら慌てて男の拘束を解くのだった。目、口、手、足と上から順番に男の拘束を解こうとすると、男の口に無理矢理噛ませた縄を解いた瞬間。男はメイド達にこう怒鳴り声を上げるのだった。


「あのふざけた奴は何処だ!! 女共も何処行きやがった!!」


「お、落ち着いてください! ヘイオス様!」


「黙れよ! ゴミ虫!!」


そんな怒鳴り声を上げながら、ヘイオスは全ての拘束を解いたメイドを殴りつける。

彼の顔は怒りに満ち溢れ、シンジと偽りの商談をしていた時の冷静さというものは皆無だった。


「その……お、落ち着いて……下さい……ヘイオス様」


背の低いメイドが恐る恐るそう彼に進言するが、そんな言葉も聞く余裕は彼には無かった。


「黙れ!! いいか、お前ら!! 全員で茶色の帽子と上着を着た男と逃げた商品共を捕まえろ!! 男は殺すな……生かして俺の前に連れて来い。女共は抵抗する様なら殺して構わない」


そうヘイオスが指示を出すと、メイド達は「かしこまりました」と言って即座にその命令を実行しようと部屋を出ようとした。だが、部屋に入って来た老人とメイドに行く手を塞がれた。

部屋に入って来た白い髭の老人はヘイオスを嘲笑いながら、こう話掛けるのだった。


「ぶざまじゃな、我が息子よ……」


「爺……全部アンタの仕業か!?」


「ここに来る途中に転がっていたお前の玩具を壊したのはお前か? という質問なら、まあ大体合っとるな。じゃが、ここに捕まっていた商品を逃がしたかという質問なら。儂では無い」


ヘイオスは老人の言葉を聞き、すぐにメイドにこう聞くのだ。


「侵入者の排除はどうした?」


「はい……現状まだ排除しきれていないと思われます。生き残ったのはここに居るメイドだけです。足止めに使ったアンネも、もう殺されることでしょう。ですから……ここは危険です。今すぐ、ここから逃げましょうヘイオス様」


「逃げる? ふざけるな……」


そう言ってヘイオスはメイド達にこう命令する。


「さっきの命令は撤回する。今は目の前の爺とメイドを殺せ!!」


その言葉を聞いたヘイオスのメイド達は戸惑いながら、困った様子でこう返答する。


「よ、よろしいのですか!? 前頭首様でございますよ!?」


「構わん! 殺せ!!」


ヘイオスの姿をじっと見つめていた老人は後ろに居るメイドにこう一言呟く。


「殺れ」


老人の言葉を聞いた瞬間。後ろに居たメイドは目にも止まらぬ速さで、生き残った四人のメイドを腰に差したを鉈抜いて殺しに掛かる。そして手前に居た二人のメイド身体は大きく切り裂かれ、後ろのヘイオスの側に居た金髪のメイドと背の低いメイドはなんとかそれを防ぐのだった。

メアリーに似たメイドは攻撃を防いだ二人のメイドを壁に吹き飛ばした後、ヘイオスに向かって鉈の先端を向けながら構える。その圧倒的すぎる戦闘を見ながら老人はヘイオスにこう言う。


「なあ、息子よ……人形に感情は必要だと思うか? 儂は必要では無いと思っておる。それはさっきのお前の玩具達が見せた戸惑いや躊躇する様子を見れば、感情というモノはただ命令をこなす人形にとって不必要なモノだと理解できた。だが、頑なに……それを使えないモノだと否定するのは愚者のすることだ。だから私はお前の考え……人形が主人に対して、愛を感じさせることで服従させるという人形の生末を、可能性を見届けたかった。その結果がコレだ……」


ヘイオスは辺りを見回し、自分の作った一人のメイドに劣るヘイオスのメイド達に失望した眼差しを向ける。


「奇抜なメイドらしからぬ格好をし、これだけ頭数を揃えて主人すらも守れない。なんとも情けない光景よのう……貴様が今まで作っていたのはやはり玩具で在って、人形ではないのだ」


そう言いながらヘイオスの近くまで老人は近づいて続ける。


「感情というモノの不必要性を教えてくれて感謝する。もう逝ってよいぞ」


「待て! 待て! 待ってく……」


「殺せ……」


その言葉と共に、鉈を持ったメイドはヘイオスの頭に鉈を振り下ろす。

そして鉈を振り下ろしたメイドは辺りを見回して老人に尋ねる。


「生き残ったメイドも処分いたしますか?」


「いや……もう、呪いは解けた。死んだメイド達を片付けなさい……」


「かしこまりました」

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