第21話

山賊達の住処は王都の南東の木々で囲まれた山奥に在る洞穴だった。

洞穴は蟻の巣のような作りになっており、各部屋が太い通路で繋がっている。

イグナシオはその洞穴の山賊達の溜まり場に置いてある椅子に座っていると、そこに太めの男が話掛けて来る。


「まったく、アンタのお蔭で俺達はこう簡単に稼げるんだ。感謝してるぜ」


「それは良かった」


そう言ってイグナシオは男と視線を合わせる事なく返答する。


「でも、今回は大当たりだな。美人のメイドに、もう少し成長すればイイ女になりそうな商人。これは高く売れるぞ」


「ああ……」


気の抜けた返事をするイグナシオが少し気に掛かった男はこう聞いた。


「なんだ? ずっとそこのガキを見てるな……知り合いだったのか?」


「知り合い? まあ、そんな所だが。あの少年がどんな末路を送ろうとも俺には関係ないな」


「なら、なんでずっと見てるんだ?」


「そりゃ、余りにも弱すぎると思ってな」


「まあ、確かに……冒険者にしては歯ごたえがなさすぎたな。腹に三発貰っただけで意識が飛ぶほどだ、とんでもなく弱っちいガキだよ」


そんな話をしている最中。洞穴の出入り口から大声を上げる男の声が聞こえて来た。


「お~い! 客が来たぞ!」


それに反応した男はすぐに出入り口の方へと向かい、イグナシオはそれを見守っていた。洞穴の出入り口方向の太い通路からこちらに向かって来るのは、先ほどイグナシオと話していた太めの男と大声を出して客が来たことを知らせる男、そして長い金髪のメイドの三人が向かって来るのだった。

長い金髪のメイドはメアリーとは対照的に、胸元や足の肌を露出させる作りのミニスカートのメイド服で、白のソックスに黒茶色の革靴を履いている。それはメイドというには少々疑問の残る格好だった。

そんなメイドは男達に案内され、山賊達の溜まり場近くに隣接する捕まえた人間を置いておく部屋へ向かった。そこに三人が入ったのを見たイグナシオは、その様子を伺おうと後を追う様に入って行く。


「数は十七人。言われた通りにちゃんと見た目も厳選したぜ」


その部屋には目と口、腕と足を縛られた若い女性が太めの男の言う通り十七人居た。

彼女達の身長、髪の色、年齢は様々だが。若く、美しいという共通点が在った。

それを見た金髪のメイドは一人の少女に近づき、目と口の布を解くのだった。


「えっ……」


目と口を解放された彼女は訳のわからない顔をした後、目の前のメイドにこう叫ぶのだった。


「た、助けて!! 助けてくださ……」


だがメイドは彼女の叫び声を平手打ちで黙らせる。そしてメイドはこう言った。


「誰が喋っていいっていたのかしら?」


その言葉に少女は黙り込む。辺りを見回しても自分を捕まえた男達と目の前で黙れと言うメイドしか居なかったのだ。誰も助けてくれない、そう思い彼女は助けを求める事を諦めた。それを見たメイドは少女の頬を撫でながら甘い声でこう言う。


「良い子ね……。ねえ、一つ聞きたい事が在るのだけれど……いいかしら?」


メイドの言葉に少女は無言で首を縦に振るう。それを確認したメイドは続けてこう言った。


「ここの男達に犯されたかしら?」


メイドがそう言うと少女は一瞬驚いた様に目を見開き、少し間を空けてから首を横に振るのだった。

だがメイドは、少女が一瞬見開いた目から嘘だと確信し、少女にこう聞くのだ。


「嘘だってわかる嘘は吐いちゃ駄目よ? だって本当の事を言わなきゃ私が殺しちゃうから」


そう言ってメイドは少女の首元を撫でると、少女は死にたくないと言わんばかりに首を横に振る。


「じゃあ、もう一回聞くわね。犯された?」


そう言うと少女は少し間を置いてから首を縦に振るうのだった。

その瞬間。その光景を見ていた二人の男の顔が真っ青になった。同じ様にその光景を見ていたイグナシオは呆れた顔をして元居た椅子戻る。


「ありがとう……」


そう言ってメイドは少女の縄を何かで切り解き、彼女に自由を与えた。


「さあ、立ちなさい……」


縄を解かれた少女はメイドの手に引っ張られて立ち上がり、メイドと手を繋ぎながら二人の男の目の前へと向かい、メイドはこう言った。


「さて、我が主の商品を傷者にしたゴミ虫は何処の誰かしら?」


メイドが尋ねると太めの男が慌てた様子でこう返答した。


「待て! 待ってくれ! 俺達は商品に手を出したりしない! それに、そのガキの嘘かも知れないだろ!」


「この子が嘘を吐く理由がないわ。それに彼女の口からゴミ虫の汚らわしい匂いがするのだけれど? どういう事かしら?」


「とにかく! 何かの間違いだ! 俺達は……」


「アナタがやってなくても。他のゴミ虫がやったと言っているの……早く全員集めなさい。この子を犯したゴミ虫を見つけ出して殺さなきゃいけないんだから」


そう言ってメイドは楽しそうな笑顔を男に向けるのだった。





山賊達の溜まり場にはメイドの招集によって約二十人の山賊が集まっていた。


「これで全員かしら?」


そう言ってメイドは太めの男にそう尋ねると「そうだよ」と投げ遣りな声で返事をする。それを確認したメイドは隠れるようにして手を握る少女に早速質問した。


「じゃあ、アナタを犯したゴミ虫を教えて頂戴?」


そう言うと少女は集まった山賊達に視線を向け、一人の男にゆっくりと指先を向けるのだった。少女に指先を向けられた男は取り乱しながらこう叫び声を上げる。


「嘘付くんじゃねえ! このクソガキ!! 殺すぞ!!」


男がそんな大声を上げる中でメイドは空の手を横に振るう。すると叫び声を上げていた男の額に銀色のナイフが深く突き刺さり、その場で白目を向いて力無く倒れるのだった。メイドが男を殺した。その瞬間、辺りは静寂に包まれ、それを破る様にメイドは手を握る少女にこう聞く。


「ああ……ごめんなさいね。本当はアナタに殺させてあげたかったんだけれど……うるさかったから、つい……。でも、その代わりに別の虫を殺させてあげるわよ? どれを殺したい? 選びなさい?」


メイドの言葉に少女は困惑して戸惑っていた。そして山賊達もまた困惑し、その中の一人がこう呟いた。


「狂ってやがる……」


そんな事を呟いた山賊は徐々に後ずさりし、何かを決心したように洞穴の出入り口へと逃げ出そうとする。だがメイドはそれを逃がすことは決してしなかった。叫び声を上げる男を殺した時の様に、メイドは空の手を横に振る。すると出入り口へ逃げる男の後頭部に銀色のナイフが刺さった後、逃げ出そうとした男はその場に倒れるのだった。逃げる事は許されない。だがこのままでは殺される。そう感じていた山賊達の一部が各々の武器を握りしめる。そして、誰かが大声を出しながらメイドに飛び掛かるのを合図に複数人でメイドに飛び掛かるのだった。

メイドはこれを待っていたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。そして次の瞬間、メイドに襲い掛かった山賊達の額にはそれぞれ銀色のナイフが突き立てられた。

この場に生き残った山賊は二人だけだった。太った男とメイドが来たことを大声で知らせた男。その残った二人にメイドはこう尋ねるのだった。


「アナタ達はここに転がっているゴミ虫より少しだけ賢いみたいね? それでどうするのかしら? 仲間の仇を討たないの?」


そんな事を聞かれた二人の山賊は辺りに転がる元同胞たちの末路を見て、自分もこうはなりたくないと思いながらこう返答する。


「アンタに勝てない事はよく知ってるし、これを見てアンタに歯向かおうって気にはならないぜ」


「お、俺も……」


二人の男がそう言うとメイドは呆れた口調でこう言った。


「そう……それはとっても退屈ね」


そしてメイドはまた不敵な笑みを浮かべて二人にこんな提案をするのだった。


「じゃあアナタ達、二人で殺しあってくれないかしら? それで生き残った方を見逃してあげるわ?」


メイドがそんな言葉を発した瞬間。太った男は近くの武器を拾って、もう片方の頭をカチ割った。そして太った男は平然とした顔でメイドにこう言うのだ。


「これでいいか?」


「ええ、それでいいわ……」


そしてメイドは続けて言う。


「でも、不意打ちで勝つなんて面白くもなんともないわ」


そう言ってメイドは空の手を横に振り、残った男の額にナイフを刺すのだった。

山賊を全て血祭りに上げたメイドは横の少女の頭を撫でてこう聞くのだった。


「どうかしら? 楽しかった?」


そう言うと少女は首を横に振り、メイドの服をギュッと握りしめるのだった。


「そう……それは残念ね。こんなに愉快なモノを楽しむ心がないなんて……」


そしてメイドは裾を握る少女の手を無理矢理解いてこう言った。


「アナタにもう用事はないから、好きな所へと帰りなさい」


その言葉を聞いた少女は首を縦に振り、小さな声でメイドに対して感謝の言葉を述べるのだった。


「あ、ありがとうございます……」


「ええ、いいのよ」


そう言うと少女は出口へ向かって走り出す。その後ろ姿を見たメイドはまた不敵な笑みを浮かべながら、空の手を横に振るう。手から生成された銀色のナイフが少女の後頭部を襲おうとする。だが、そのナイフは高い金属音と共に弾かれた。


「何をしているのかしら、このゴミ虫は?」


先程まで嬉しそうな顔をしていたメイドは、一瞬にして不機嫌そうな顔で短剣を構えるイグナシオに向かって言うのだった。


「おいおい、山賊殺しには賛成だが。小さな女の子を殺すのは反対だぞ、お嬢ちゃん」


「アナタが手引きしておいて、何を今更言っているのかしら?」


「それは仕事だからだ。でも、これは仕事じゃない」


「ふん……まあいいわ。馬車を用意してあるから全員運んで頂戴」


「はぁ……それなら何人か残しておけよな……」


「我が主の商品を犯すゴミ虫を生かしておく理由が無いわ。さあ、早くして頂戴」


そう言ってメイドは出口へと向かって行くのだった。イグナシオは黙って彼女の指示に従い、捕まえた女性達を馬車へと一人ずつ運んで行くのだった。

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