第6話

 リザベルの書。

 それは太古の昔。

 “終焉期しゅうえんき”と呼ばれる時代。

 神々によって世界が滅亡の寸前に追い込まれた時、一人の少女が伝説とされる魔導書を片手に神々を打倒し、地の底に封じ込めたと言われる現代の伝説の一つだ。


 もちろん、その伝説の魔導書とはリザベルの書の事で“どんなものでも瞬時に作り出せる『創作そうさく魔法』”を会得出来ると言われている。


 言われているのだが……。

 

 自宅のマンションの寝室。

 チラッと、ベットの上へと視線を向けてみると――――


「ねえねえマスター!? 

 今度はどんな衣装が良いですか!? 

 スカート短くしますか!?

 それとも、もっと露出を多く……って、この胸すごっ!!!!」


 ベットの上にいくつもの広げたファッション雑誌を眺めている例の魔導書こと。

 リザベルは自身の創作魔法を駆使して八歳ほどの女の子の姿に変身すると、水着(特にビキニ)姿の女の子見て、鼻息を荒くしながら中年オヤジみたいに興奮していた。


 どう見ても伝説の魔導書には見えない。

 とりあえず―――――


「全部却下……」


「ええっ!? 何でですか!? ケチ~~~!!!」


 リザベルは可愛らしくプンプンっと私に抗議してくるが私はそれを完全無視。


 第一、この魔導書に衣装を任せたら絶対に後で後悔をするどころか。

 恥を晒す羽目になるのは確定的だった。


 数日経った今現在。

 私はとある条件。

 というか、あのこっぱつがしい衣装を変える事を条件にリザベルと正式に契約を交わした。


 理由は単純。

 リザベルにおどされたからだ。


 何でも、魔法少女に変身すると認識阻害系にんしきそがいけいの魔法が働き、人に見られようが映像に映ろうが誰も私だと認識する事が出来ないらしい。

 

 だが、魔導書との契約をしていないと徐々にその魔法が解けて行ってしまうため、すぐに素性がばれてしまうとの事。

 特に一億の懸賞金が掛かっているため、その後の事が容易に想像出来る。

 

 他に選択肢は無かったのだ。


 でも、そのおかげで今回は事なきを得た。


 得たのだが―――――


(…………あれ?)


 ふと、思い返しているとある事が脳裏のうりよぎる。


 私がリザベルとの契約を断ろうとした時の事だ。


 断ろうとした瞬間。

 一瞬だけだが、脅し始めた時の口調が何処か寂しそうだった。


 まるで、自分の心を押し殺しているかのように……。

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