第10話涙の再会
英二が叫び声が響いた方向に顔を向けると、そこに由香里達が着ているのと同じ、白いタンクトップ型ワンピース姿の若い女性が、息を切らしながら立っていた。
早苗だった。
旅館からひたすら駆け続けて来た早苗が、由香里達が英二に止めを刺され様とした矢先に、ようやくその場に駆けつけたのだ。
英二は、早苗の姿を見ると、「お前がこの小娘達の仲間か?」と言いい、一旦、斧を静かに降り下ろすと、「いいだろう、小娘達との、感動的な再会の時間を設けてやろう。」と言い、由香里達の傍から離れた。
早苗は、その場に仰向けに横たわっている変わり果てた由香里達の姿を見て、声にならない悲鳴を上げると共に、失神しそうな気分になった。
早苗が着ているのと同じ、白いタンクトップ型ワンピース姿で、斧で顔をズタズタに切り裂かれてしまっていて、大量の血で顔が赤く染まっている上に、顔から溢れ出た血が、ワンピースと共に、大きく開いた胸元までも汚してしまっている。
その上、ただでさえ誰の顔なのか分からなくなってしまっているのに、髪までも斧でバッサリ切られてしまっているので、余計、誰が誰なのか分からなくなってしまっていた。
更に、早苗を悲しませたのは、これだけ顔を傷付けられたら、顔を必死で隠したい筈なのに、両手首を頭上でしっかり手錠で固定されている為、顔を隠す事さえも出来なくなってしまっている事だった。
こんな想像以上の悲惨な光景を目の当たりにして、茫然と立ち竦んでしまっている早苗に向かって、由香里が苦しみながら声を絞り出した。
「早苗…そこに居るのは早苗なの…?」と、必死の問い掛けに、辛うじて由香里だと感じた早苗は、「その声は由香里?」と聞き返した。「早苗…来てくれたのね…会いたかった…」そう苦しげに、声を絞り出してる由香里の姿を見て、早苗は涙を堪えながら、「由香里、これ以上喋らないで!」と声を上げた。
次に、真由美が早苗に向かって、声を絞り出したのを聞いて、早苗はよりいっそう、悲しい気分になった。顔から溢れ出た大量の血が目を覆ってしまっているのと、由香里の話し方で、恐らく目が見えなくなってしまっているのと感じていたのだが、「早苗…何処なの…?何処に居るの…?」と、苦しげに声を絞り出したのを聞いて、改めて、目が見えなくなってしまっていると実感したのだ。それでも、真由美に向かって、「真由美、私は此処よ!」と叫んでみたが、案の定、真由美からは、「駄目…早苗の顔を…見たくても…目が…目が見えない…」と、悲痛な返事が返って来ただけだった。
「早苗…私達に構わず…此処から逃げて…」そう聞こえた声に顔を向けると、更に早苗を悲しみが襲った。その声の主は、家で会った時は、髪をお洒落にポニーテールにしていた香織で、その香織のポニーテールにしていた長い髪までも、斧で無惨にバッサリ切られてしまっている。その悲惨な姿を見た早苗は、悲しみを堪えながら、「嫌よ、香織、あなた達を見捨てて、逃げる事なんて出来ない。」と、叫ぶ様に言った。香織の口から、苦し気に、「早苗…」と、呟くぶ声が、微かに漏れた。
その後、杏理が、「早苗…あなただけは…何とか生き延びて…」と、悲痛な声を絞り出すと、「杏理、悲しい事言わないで!」と思わず泣き叫んだ。そして、「生きよう!みんなで生き抜く希望を持とう!」と、励ましの言葉を叫んだ。その叫びに杏理は、いっそうの悲痛な声を、必死に絞り出した。「ありがとう…出来るなら私…死にたくない…」
そんな悲痛な声を聞いた直後、早苗の耳に、「早苗…会いに来てくれて…本当に…ありがとう…」と苦しげな声が入ると、更に悲しくなった。恵梨香だった。家で会った時は、長い髪を2つに三つ編みにしていた恵梨香…その恵梨香のお洒落に三つ編みにしていた髪までも、斧でバッサリ切られてしまっている姿を見て、「恵梨香…」と、名前をつぶやくのが精一杯だった。
そんな早苗と他の仲間達とのやりとりを耳にしていた時、由香里は、早苗から携帯の着信があったのを思い出した。もしかして、早苗は何らかの理由で、私達がこんな目に遭う事を知ったのではないのか?それで、急遽、法事をドタキャンしてまで、この場に駆け付けたの出はないのか?私達に身の危険を知らせる為、携帯に掛けたのではないのか?そう思うと、由香里は改めて後悔した。列車で移動中に、携帯の電源を切っていた事と、早苗の携帯にリダイアルしなかった事を…
いてもたっても居られなくなった由香里は、もう一度早苗に向かって、「早苗…」と声を絞り出した。
「何?」と聞き返した早苗に向かって、もう一度、「早苗…」と声を絞り出した所で、由香里はついに、激しい痛みと出血のせいで、意識を失ってしまった。
「由香里ー!」と泣き叫ぶ早苗の声が、虚しく響き渡った。
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